第8話二枚の絵

 警備員が立ち去った後、チャリパイの四人は改めて壁にかけられた【仔犬を抱いた少女】に目を向け、それをまじまじと眺めた。


楓の祖父である白諸雲はっくしょんの唯一の人物画だと噂されたこの絵画は、その名の通り中央に仔犬を抱いた少女が正面を向いて微笑んでいる様子が描かれたものである。


その笑顔は、まるでようやくここまでたどり着いたチャリパイを祝福しているような錯覚に陥ってしまう。


その【仔犬を抱いた少女】を眺めながらシチローが満足気に呟いた。


「いやあ~、計画通り上手く事が運んだなぁ~」


「え? ……あたし達、何か計画通りに出来た事ってあったっけ……?」


「むしろ、ここまで来れたのが奇跡だわ……」


確かに、番犬のアントニオの事といい、電子ロックの事といい、さらには子豚のブヒブヒ発言……思い直せばてぃーだの言う通り、ここまで無事に辿り着けたのは奇跡としか言いようがない。


しかし、悪運の強さもチャリパイの持ち味の一つである。そんな考えの代表である子豚が、明るく笑い飛ばして言った。


「まぁ~結果が良ければいいじゃない。早く絵をすり替えてかえりましょうよ」


そう言うと、子豚は用意した贋作の絵を片手に持ったまま、壁に掛かっていた本物の絵をもう片方の手で持ち上げた。


その瞬間。すぐに屋敷中の灯りが点き盗難防止の警報が響き渡った。


「しまった!が仕掛けてあったのか!」


シチローも忘れていた『圧力センサー』の存在。そう言えば、アニメの『キャッツ☆アイ』でもこんなシーンは何度か観た事がある。


その警報と共に、慌ただしく駆け回る警備員の靴音があらゆる方角から聴こえてくる。


「ヤバイ! みんな逃げるぞ!」


こうなってしまっては、もう忍び込む時のような慎重さは要らない。シチローは、部屋にあった高級ソファを窓ガラスに投げつけ、割れた窓からベランダを通って庭へと飛び出した。


「おい、あそこにいたぞ! 捕まえろ~!」


チャリパイを見つけた数人の警備員達が、警棒を振り上げながらチャリパイを追いかけてくる。そのチャリパイのピンチに駆けつけたのは、なんとこの屋敷の番犬である筈のアントニオだった。


「アントニオ! アイツらをなんとかして!」


てぃーだが掛け声と同時に指笛を鳴らすと、アントニオと小力は猛然と警備員に向かって跳びかかっていった。


「おい、何やってんだ! 泥棒はあっち……うわあぁぁ~!」


「ホントにお利口なワンちゃんだね」


その様子を見たひろきが満足そうに頷いた。



☆☆☆



「ここまで来れば、もう追って来ないだろう……」


現在のチャリパイの位置は成金邸の正門のさらに外側……なんとか安全圏まで逃げる事が出来、一安心という所だ。ただ、問題がひとつあった……


「あれ、コブちゃんなんでの?」


ひろきが子豚の両手にある二枚の【仔犬を抱いた少女】を見つけ、その理由を尋ねた。


「それが、慌てて逃げてきたからのよ……どっちが本物だったかしら?」


「えっ、コブちゃんどっちが本物かわからないの?」


「ええ……でもシチローなら判るでしょ?」


「え? ……いや、なんせプロの贋作師に描いて貰ったもんだから……」


元々本物とすり替えるつもりで用意した贋作の【仔犬を抱いた少女】……絵はもちろんのこと額縁等も本物そっくりで、素人の目では外観からは全く区別がつかない。


「う~~~ん困ったな……」


さて、どうするチャリパイ……




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