第2話

 でも誰も行くとは言いださないから垂井がさ、二つ並べてあるバリケードの一つを跨いで向こうに行ったの。

「何かあるか見てくるわ」

「頼むわ」

 俺は止めた方がいいって思ったけど言い出せなくてさ。でもすぐに葉っぱの擦れる音がして垂井は目をおっぴろげながらハードルのジャンプよろしく飛び越えて俺たちのところへ戻ってきたの。その必死すぎる形相がおもしろすぎて笑ってたんだけど「やばいから帰るぞ」って垂井が背中を押すから来た道を引き返すことになったんだ。

 結局、黒山も遊ぶ場所としては不十分でどうしようかってなったところいつの間にか垂井が輪の中にいなくてさ、友達同士で顔を見合わせたあと振り返ると、垂井がまたバリケードを乗り越えようとしてたんだ。

「戻って来いよー」

「横本ん家でゲームすんだろー」

 みんなが垂井に投げかけるんだけど、垂井は全然俺たちを振り向かなくてさ、そのうち山肌のさらけ出された道を曲がっていって垂井の姿が見えなくなったんだ。あいつ大丈夫かってみんなで話してるうちに、枯れ葉を踏むような足音が聞こえてきて。帰ってきたと思ったら明らかに垂井より大きい、しかも真っ黒な影がこっちに向かって来てさ。そこからみんな叫びながら黒山出たんだよ。山の中はあんなに薄暗かったのに、ふもとは景色が白くなるくらい太陽がまぶしかったよ。でも垂井は全然戻ってこなかったんだ。

 あのあと、夜に垂井は家に帰ったらしいんだけど、それ以来学校に来ることは二度と無かったんだ。俺たちが垂井を残して帰ったことを怒ってるのかと思ったけど、そうじゃないらしくて。これは噂だから本当かどうかわかんないんだけど、あいつ、部屋でずっと「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」って謝り続けてるらしい。

 あの切れた道の向こうで何があったんだろうな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

アスファルトの切れた道 佐々井 サイジ @sasaisaiji

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ