私の愛する弟猫へ

あ・まん@田中子樹

姉弟にゃんこ


 

 五年前のゴールデンウィーク。

 夜中にお家の外で子猫の鳴き声が聞こえるのでドアを開けてみるとすぐそばで姉弟きょうだいのニャンコが鳴いていました。


 家の隣には飲食店の駐車場があり、そこでこの子達とこの子達のお母さんらしきニャンコを数日前から目撃していました。


 お母さんはどうしたの?


 母猫はご飯を探しに行っていて、じきにこの子達を迎えに来るかも、と段ボール箱に新聞紙と毛布を入れて雨風がしのげる場所にセットする。


 まだすごく幼くてミュゥミュゥと鳴いている。


 翌日になってもお母さんニャンコは現れず、隣の飲食店に聞いてみても一昨日から姿を見かけなくなったとのこと。


 ペットショップへ行き、子猫用の哺乳瓶とミルク、簡易トイレセットを買ってきて二匹の子猫の世話をする。


 すごく可愛い……。

 でもお母さんと一緒にいられるのが一番幸せだよね?

 お母さん早く迎えにくるといいね~。


 姉弟ニャンコにそう話しかけて三日が経った。

 さすがに迎えに来ないかもしれない。

 もしお母さんが迎えに来たなら、その時はお母さんのもとへ返してあげよう、と。


 私達家族はこの二匹の姉弟猫を一時的に新たな家族として迎え入れました。



 どっちが年上なのかよく分からない。

 同時に生まれたはずだから双子なのかな?

 我が家では好奇心旺盛でお転婆なめす猫を姉。

 大人しくてめす猫の後ろをついて回る甘えん坊のおす猫を弟、ということにしました。


 姉猫は元気いっぱいで、高窓を空けていると夜中に脱走して朝、家のドアを開けるとチュッチュと鳴く生物を贈り物プレゼントとして置かれることが何度もあり、その度に「お願いヤメテェ~~」と姉猫に伝えるが、「どう~? すごいでしょ?」と姉猫ほんにんは自慢げなご様子。


 元気いっぱいな姉猫と違って弟猫は大人しく、生まれつき体が弱いのか少し元気が無いように見える。

 心配になって動物病院に連れて行き診てもらう。

 白血病に罹っていて母猫からの母子感染ではないかとのこと……。

 すぐに姉猫も連れて行って検査して、ワクチンを打ってもらいました。


「四・五年しか生きられないかもしれません……」


 動物病院でそう言われて、当時随分とずいぶんと塞ぎこみました。



 我が家にきて、一年……。

 弟猫は、姉猫よりも随分と体が大きくなり、夜中に抜け出して近所の野良猫と喧嘩して怪我して帰ってくることが何度もありました。


 あんなにヒョロヒョロで弱っちぃ男の子だったのに……。

 お姉ちゃん猫にずっとついてまわってた子が随分と逞しくなって……っというか逞しくなりすぎて、ご近所一帯を自分の縄張りにしてしまいました。


 姉猫は””といった感じで、エサの時間だけ「にゃ~~~っ」っとすごくおしゃべりになって「早くゴハンをちょうだいっ!」と催促する割にはご飯を食べると”スゥっ”とどこかにいなくなるが、おデブな弟猫は私や家族の前にどすっと横たわり「撫でて良いよ?」と甘えてくる。


 弟猫は家族の「癒し担当」、姉猫は害虫等をハンティングする「捕獲担当」となり、我が家においてそれぞれ職業につきました。


 弟猫はかなりのシスコン(笑)で、お姉ちゃん猫が大好き。

 健康状態チェックのためにお尻のニオイを嗅いだり、グルーミングをしようとすると「私に触らないでっ!」とをされるが、そんなことでは彼はめげない……大好きな姉猫に何度だってアタックする。


 姉猫はやはり猫の気性を素直に体現していて、ツンデレの「デレ」状態をみせる時があり、その時だけは姉弟仲良くお昼寝をしていたりと、見ているだけですごく心が癒されました。


 おデブで甘えん坊な弟猫。

 お気に入りの寝床は人の上……。

 寝ているとよく胸のあたりに乗って寝ていることが多く、その重い体に圧迫されて苦しくて目が覚めることもしばしば(笑)


 二匹ともすごくお利口で「ここに乗らないでね」と一度、教えると食卓テーブルの上とかキッチンには絶対に登らず、トイレも勝手に覚えて粗相なども一度もありません。

 小説を書いている私のパソコンの上で「かまって行為」などもせず、そばで寝そべってずっと私のやることを静かに見守ってくれたりと、ただただ一緒に静かな生活を送っていました。


 体が大きく逞しくなった弟猫は、最近夏バテなのか寝ている時間が長くなりました。

 エアコンや扇風機を使って冷やそうとするも自然では無い人工のものを嫌い、すぐどこかに移動してしまいます。



 いつも別行動なのに数日前から珍しく姉猫が弟猫のそばを離れず、二匹でくっついて寝ていて「ツン」多めの姉猫がやけに弟猫をグルーミングしたりして何だろう? と思っていました。


 弟猫の様子が明らかに変だなと思った朝、私は家族に相談し近くの動物病院に連れて行きました。


 白血病……。

 大分、症状が進んでいてあと数日で命を落とすだろうと宣告されました。

 あんなに元気になってご近所周辺のボス猫になるようなニャンコだったのに……。


 姉猫は弟猫の体が悪いことに気が付いていたの?

 私は全然、気が付いてあげられなかった。


 輸血を試みてみますと動物病院で言われて、弟猫を預けると二日後に少し元気になって帰ってきました。

 弟猫は元気いっぱいとはいえませんが、それなりにゴハンも食べるし、排泄もしっかりしているので、元気になって欲しいとの思いもあって良い方向に考えるようにしていました。  

 しかし、一週間後に動物病院で経過を診てもらうとやはり「長くはない」との宣告。



 それから二週間、時間が許す限り弟猫のお世話をしました。

 その間も体調はあまりよくないようにみえますが、猫の野生としての本能が強く残っているせいか弱みを見せてくれませんでした。

 一昨日まで普通に生活していたのに昨日の夜に突然急変し、息を引き取りました。


 Twitter(現:X)の創作仲間の皆さんにしばらく呟くことができませんとメッセージを残した後、わんわんと大の大人が泣きました。




 今朝、元気のない私は一匹になってしまった姉猫に「寂しくなったね?」と話しかけると普段、あまり声を出さない姉猫が長いトーンで「にゃぁぁぁぁ~~~~」と返事をしました。


 みると、弟猫のお気に入りの場所……。

 いつも寝そべっていた階段の上から二段目に弟猫と同じように姉猫は寝そべり、そこから離れません。


 姉猫は、やけに上の方を気にしていて何もないところを見上げてずっと一点を見つめています……。


 弟猫がそこにいるの?


 私には何もみえない……。


 早逝だったけど、幸せだった?






 私は生まれ変わりを信じています。

 信じた方が、気が紛れるからです。

 私はまだ死生観というものを確立してはいません。


 でも、もし生まれ変わりがあるなら、私の子ども、孫、それともずっと未来の輪廻の先でも何だっていい──この子ともう一度巡り合わせてほしい。




 コロ、五年間、本当にありがとう。


 大好きだよ……。

 今は安らかにお眠りなさい。









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