9・おや?母の様子が…

※ここから3話くらいちょっとシリアス展開です。

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 たいへん叱られたあとの魔力制御の練習は、驚くほどあっさりと簡単にできるようになった。

 おじさま曰く、魔法発動経験のない状態だと魔力が硬く、魔法を使えば使うほど、また制御に意識をすればするほど柔らかくなっていくらしい。肩こりをマッサージで治す的な感じなのかしら。

 まぁ、前日に魔法を使ってぶっ倒れたわたしの魔力は苦労するほど硬くはなくなってしまってて、あとはまぁ多分元日本人のラノベ知識とかも影響したのかな、思っていたよりもずっとあっさりと魔法制御ができてしまった。

 それでも、おじ様からは一週間は魔法禁止にされたけどね!

 しかしそれも、あければわたしの生活は一気に便利になった。

 何せ、夕飯を作る時に火打石をカンカンする必要もないし、水汲みだって母娘共に水魔法が使えるとなればまるで必要なし!

 あとは母やおじ様にならって魔法をどんどんと覚えていくだけ。

 そうして新しい日々を時々ロリコンに追いかけ回されながら過ごしているうちに九歳と半年を迎えた。

 あともう半年経てば十歳だ。周りの子たちも子供っぽい言動が段々減り、思春期に向かって成長中。

 そして成長してるのはわたしもなわけで。


「やぁ、ユオシーちゃん。ご機嫌いかがかな?」

「おじさんの顔見たらわるくなったー」

「おじっ……!?」


 こうして絡んでくるロリコン…ディエゴを追い払える程度にはなったのだ。もう、ビビっておもらしする私じゃないのよ!


「悲しいなぁ、僕、そんな歳ではないよ?」

「なら早くラーラ姉さんと結婚しなさいよ。わたしはおじさんと結婚なんて絶対にいーやっ」


 毛虫でも見るような目で見てやれば、しょんぼりと落ち込んで去っていく。

 そう、このロリコンの変わらなさは置いておいてわたしが驚いたのはラーラに関してだ。なんと彼女、未だにディエゴと結婚するために独身を貫いてるのだ。前に機会があって詳しく聞いたら、


「だってあの人、私がいなかったら他に嫁に来てくれる子なんて居ないでしょう?仕方なくよ、仕方なく」


 って笑っていた。

 仕方なく〜なんて言ってたけど、あれは多分前世で言うダメンズに惚れてしまうタイプの女性なんだと察した。私がいないとこの人ったら…ってやつだ。

 まぁ、わたしが本気で求婚を望んでないと知って睨むこともなくなったしいいかなぁ。

 そしてよくないのは、周りの大人たち。

 なんか最近、村長が体調を崩しがちらしい。

 そこで、光魔法も使えて薬師見習いでもあるわたしがディエゴに嫁げば、村長の世話も出来るし今後も安泰だなんだと言い出してるんだ。

 はっきり言っていい迷惑!そもそも年の差考えなさいよ!私が結婚できるようになるまであと五年以上かかるわ!

 そんな感じで、じい様ばぁ様世代や、話に流されやすい大人たちは賛成派、ラーラを始めとした若い世代や子供たち、またわたしと同世代の子供のいる家庭の親は反対派となってる。

 知らんがな。そもそもわたしの結婚やぞ、わたしに決めさせなさいよ。

 いやまぁ、この世界の風習として、子の結婚を大人が決めるのはままあることらしい。でもさぁ、何度も言うけどまだ成人もずっと先の子供よ?わたし。

 九歳と半年で結婚にまつわる悩みにため息を吐くわたしは、村の外れで採取してきた薬草を肩掛けカバンにパンパンに詰めて帰宅した。


「かぁさーん、ただいまぁー!」


 この時間の母は、客が来ていなければ基本的に奥で調薬しているはず。

 そう思ってさっさと家の中に入り、目に入った光景に声にならない悲鳴を上げた。


「っ、かぁさん!?」


 調薬部屋である奥の部屋を覗くと、母が床にくたりと倒れていた。その顔色は酷く青白くて、痙攣するように小刻みに体を震わせていて急病を思わせる。


「い、いきっ、息は、してるっ、ええと、怪我、怪我は、ない?熱は?」


 合間にかぁさん、と声を掛けながらもひとつひとつ確かめていく。

 浅くはあるが、胸は上下していて呼吸は出来ている。服を脱がしてはいないけれど、全身を見たところ目立つ傷もなし。額に手を当てると、暑いと思いきやむしろ真逆、人の体温ってこんなに低くていいんだっけ?と思わせるほどに冷たい。


「――ッ低体温!も、毛布!毛布どこだっけ!?」


 足をもつれさせながらも寝室へと飛び込み、掛け布や冬用の上着など、とにかく暖まれるものをかき集めて跳躍部屋へと戻る。

 高熱は勿論危ないが、同時に低体温も人体には良くない。

 それにしても何かがおかしい。今は寒い季節にはまだ早い。夏もあけて早々の、心地いい秋の風の吹くこの時期にこんなにも低い体温になるってどんな状況?


「とにかく、治さなきゃ“キュア”」


 キュアの魔法は、ヒールと共に早い段階で教えられていた。これで自分も他人も救えるからと。薬師の娘なのだから、保険だけどねとおじ様は笑っていたけれど教えて貰っていて良かったと心から思う。

 私の手から溢れた光が、母の体の中に吸い込まれていく。

 病気ならば、これで良くなるはず。だってそういう魔法なんだもん。治らなきゃ、困る。

 そう願うわたしを裏切るように、魔法を受けた母はビクンッと身体を跳ねさせただけで、一向に治る様子はなくむしろ悪化への一途を辿っているように見えた。

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