4・さてはお前、ロリコンか?


 そういえばだけど、この世界のことについて対して説明していなかった。

 まぁわたしもそんなに詳しく知ってる訳じゃないけど…。

 子供特有の何故何故攻撃でどうにか大人たちから聞き出したことを並べてみようと思う。

 

 ・村のある国の名前はリブリヒト王国。封権制度があって、王様を頂点に貴族、上平民、下平民、奴隷と別れている。

 上平民とは大きな商会の人たちを初めとした、貴族じゃないけど平民にしてはめっちゃお金持ち!みたいな人たちのこと。大抵の平民は下平民に当たって、わたしもそう。

 奴隷がいるって聞いた時はちょっとビビったけど、奴隷は犯罪奴隷と借金奴隷の二択しか許可されてないと後に言われて随分ほっとした。


 ・村の名前はラタタ村。王国の東側の国境沿いに位置してるそれなりの大きさの村。主に農業をメインにやってる。そんで一応辺境伯様の領土の中にあるらしいけど、なんも無いし辺鄙すぎてほぼ放置されてる土地なんだって。それを理由に、夜逃げ先になることもしばしばあるみたい。

 多分、わたしの家族もそれに入ってるんだろうなぁ。母の両親…祖母と祖父のことを誰も知らないのがその証拠。まぁ、父親が蒸発するような家族だしねぇ。そんなものか。


 ・所謂ファンタジー種族はいる。エルフやドワーフなどの亜人は全部まとめて“魔族”と称されてて、魔法国家ルルイアといううちの国から南にひとつ小国を挟んだ先にある所に引きこもってるんだって。そこから出てくる亜人もいるけれど、それらは変わり者なんだとか。ちなみに獣人は獣人で西にあるでっかい山の中に獣王国を築いて暮らしてるらしい。

 一応、うちの国は人族が至高!みたいな差別はない。表向きはね?貴族様の中にはちょっと拗らせてる人もいるとかなんとか…。


 あとはまぁ、一日は二十四時間だし一週間は七日、ひと月は三十日で一年は十二ヶ月っていう、地球とほぼ変わらない時間の進みだとか、国で信仰してる宗教は創世神インドレを奉ってる聖インドレ教だとか。

 でも不思議なことに野菜の名前は変わらなかったりして、ファンタジーしきってない感が否めないなぁなんて思ったりもした。


 さて、どうしてこんなにもつらつら考えてるのかと言うと、現状が五歳の幼児のわたしにはどうしようもないからだ。


「ちょっと!婚約破棄ってどういうことなのよ!?」

「ごめんよラーラ、でも、村の将来のためなんだ」

「そんなことで納得いくわけないじゃない!」

「そんなに怒鳴らないで…ほら、ユオシーちゃんが怯えるだろう?」

「……ッ…!」


「ひょえ……」


 目の前で繰り広げ割られる修羅場。

 なんてことでしょう、これ、間に入ってるのわたしなのよ。

 ラーラと呼ばれたお姉さんに親の仇でも見るような鋭い眼で睨まれてわたしの口から情けない声が漏れる。

 こんな状況わたしは一ミリも望んでないっつーの!

 こうなった原因は至極簡単、案の定洗礼式の翌日には村中にわたしの魔法適正のことが広まっており、一番に反応したのが村長のひとり息子であるディエゴ(18)だったのだ。

 しかし、成人が十五歳であるディエゴには当然婚約者がいて、それが目の前にいる怖い顔のお姉さん、村唯一の商家の娘で今年成人を迎え結婚もいよいよとなったラーラ。

 ディエゴの狙いはわたしの魔法適正であることは丸わかり。遺伝しないと言われてるとはいえ、確実な訳ではないし、何より村への貢献度を期待できる。薬師の娘だから流行病の時に優遇してもらえるとかもあるかもしれない。

 …………っていうのが私の想像なのだけど、正直怪しさを段々感じてきていた。

 だって、修羅場の真っ最中にあったわたしに対して引くほど甘い瞳を向けてくるのよコイツ!わたし五歳よ!?ロリコン!?ロリコンなの!?

 打算的に婚約破棄してわたしの成人を待つ…とかならまぁ嫌だけど納得はした。嫌だけど。それはきっとラーラもそうだろう。辺境の村ではワンフォアオール、オールフォアワンが普通なのだから。

 しかしディエゴがロリコンで、妥協で三つ下のラーラと結婚をという所、村のためという建前の使える幼児が現れたのだとしたら…。これ幸いと飛びついてきたのだとしたら…。

 それはもういくら村のためとなると言えどもラーラもブチギレて当然だろう。

 この世界、年の差婚は普通にある。だがしかし、大人になってからならまだしも五歳の幼児に狙いをつける十八歳は異常なのだ。

 次期村長をそんなヤベー奴にしてはならないという理性的な使命感と、成人してから婚約破棄、それも次期村長からなんて行き遅れ確定の絶望。

 ラーラのブチギレも納得だ。

 いやまぁ、だからと言って睨まれるのはめちゃくちゃ怖いんだけどね!これ普通の五歳なら多分漏らしてるよ!


「とにかく、婚約破棄を受け入れてくれ」

「嫌よ!絶対に嫌!」

「頼む……頭ならいくらでも下げるから」

「知らない、絶対に受け入れないんだから!」


 真摯に頭を下げるディエゴにラーラは泣きながらも怒鳴りつけ、この場を駆けて去っていった。

 残るわたしとディエゴ。漂う気まずい空気。やだなぁ、これまた明日には広まるわ。何せここ、村のど真ん中の広場なのよ。

 おば様達の格好の餌食になる現実にため息を吐きそうになっていた所、わたしに影が落ちる。


「…ユオシーちゃん」

「ぴぇ……」


 上からわたしを見下ろすディエゴの瞳は、私を見るのに俯いてるためにハイライトが入ってなくて怖い。


「ユオシーちゃんは、僕の言うこと、聞けるよね?」


 わぁ、こっっっわ。


「ゎ、わたし、わかんなぁい」


 泣きそうになりながらもそういうのが精一杯だったわたしは、盛大に漏らした。

 ロリコンこわいよぉ(泣)

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