3・あっという間に
「さぁ、まずはお祈りの時間です」
神父のおじ様―後に知ったけど司教さんらしい―の言葉に、わたしを含めた十人程度の子供達は膝を着いて胸の前に両手を組む。
時の流れとは存外あっという間だ。
あれから今世の母と話し合いをし、改めて家族をやり直すことになったり。定期的におじ様と交流した結果わたしは記憶喪失ということで落ち着いたり。
そんなこんなで早二年、わたしは五歳になった。
と、言ってもこの世界では誕生日で祝うのではなく、一年の節目で歳をとるらしい。つまり、極端な話日本でいう一月産まれの子供と十二月産まれの子供が同じ日にひとつ歳をとるという計算なのだ。
故に、私と同じ五歳といっても、明らかにでかい子もいれば幼い子もいる。
そんな私たちが揃って同じポーズをとってるのにも理由がある。
日本で言うのならば七五三にあたるのかな?
この世界では五歳になると“洗礼式”なるものがあるのだ。
洗礼式とはなんぞや?というと……
「よろしい。では、名前を呼んだら前へ出て、この水晶に手を当ててください」
そう!スキルや魔法を女神様よりいただく日なのだ!!
正直ウキウキが止まらずそわそわと落ち着かないが、それはわたしだけではない。
子供たちにとって、この洗礼式は自分の将来に直結する重要事項なのだ。
魔法スキルを得られる可能性は十人いてふたりが持ってたら多い方だと事前におじ様から聞いている。だから期待してはダメだよ、と。
(いやそんなの無理に決まってるじゃん!?)
異世界転生に魔法はつきもの。所謂俺TUEEEE的な。
まぁ、平々凡々なわたしはそんな、最強魔法みたいなものは求めない。せめて水魔法だとか生活に役立つものがあったら嬉しいな〜という程度だ(それでも世界的には充分高望みなのだが)。
あとは、母が薬師をしてるのを前世を思い出してからちょいちょい手伝っていたし、調薬スキルがあったらいいなぁ。魔法はともあれ、スキルに関しては遺伝も関係あると調べられてるようだし。
そうそう、母のことしか話していないけれど父親は?という質問に関しては“わからない”だ。
母に聞いてみた所、困った顔をして「お仕事に行ってるの」と言われた。
しかしまぁ子供とはいえ、村の人々の噂話はよく聞こえてくるし、善悪のつかない子供特有の言葉により何となく察してしまった。
恐らく、わたしの父親はわたしと母を捨てて蒸発してしまったのだろう。
そう思うほどに唐突に消えたらしい。夜逃げかな?
幸い、母はこの村唯一の薬師のようで、村人達から意地悪をされたりだとかは今の所ないと思う。まぁ、ここで母に意地悪したりしていざ病気になった時に薬貰えなかったらしんどいのは自分だものねぇ。下手なことしようとは思わないか。
そういう訳で、父親からの遺伝に関してはさっっっぱりわからないのである。気分はガチャだ。
「ソフィアが娘、ユオシー」
「あっ、はい」
ぼんやりと回想してる間に気づけばわたしの順番が来ていたようだ。
おじ様の元へと小走りで行き、おじ様が小さく頷いたのを見てそっと手をかざすと水晶は光る。
確か、光の強さが魔力量で、色が魔法だっけ?
習ったことを思い出しつつも目の前の白熱球くらいの明るさで光る水晶に呆然とする。
色は青、赤、黄色の三色。
そして光が止んだ後、頭の中に何となく調薬と言葉が浮かぶ。
なるほど、スキルは自分の頭に浮かぶと事前に習ってたけどこういうことか。
……ところで、わたしはいつまでこうして現実逃避をするべきなのだろうか。
おじ様は水晶とわたしを交互に見ながらもめちゃくちゃ驚いた顔をしていて、周りの子供たちは興奮やら何やらで大騒ぎだ。
どーしよ、まさか魔法三つとは。
ひとつあればすごいすごいとチヤホヤされるのが庶民の魔法持ち率だ。そんな中三つも持ってるわたしは異端だろう。
「……えと、おじさま?」
「――――はっ!あぁ、ごめんねユオシー、驚いてしまって……戻っていいよ。あ、でも後でソフィアと一緒に来てくれるかな?」
「う、うん」
あまりにも居たたまれず声をかければまさかの親呼び出し。当然か。こんな辺境のド田舎の村に三つも魔法を持った子供がとか、ましてうちは片親だ。恐らく父親に関係してるのは間違いない。事情聴取も然るべき処置だろう。
その後は残りの子供たちも水晶に手をかざしていくけれど、残念なことに魔法はなし。
あ、魔力はみんなすこーしだけはあった。多分だけど、この世界の人間はまったく魔力を持たない、ということはないのだろう。しらんけど。
「それでは、ここで見た事はもちろん、スキルに関してもみんなに言いふらしてはいけませんよ」
「「「はーい!」」」
にこやかに微笑むおじ様の言葉に元気に返事をして各々教会から飛び出していくのを眺めながら、わたしはひっそりとため息を吐く。
(子供に言いふらすな、は無理な話よねぇ)
恐らくわたしの魔法について明日には村中に広まっているであろうことを予想して、五歳児には似つかわしくない遠い目をしてしまったのは仕方ないと思うのよ。
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