モブだからって、青春は諦めない!

@satoru_shoyou

プロローグ

 カーテンの隙間から光が差し込むと同時に、部屋中にアラーム音が鳴り響いた。


「…もう、朝か」


 そう言い、重い腰をあげ、準備を始める。今日から高校生になる俺こと天沢卓也あまさわ たくやだ。一応、モブ代表として活動している。そんな俺は容姿、勉強、運動全てにおいて人並みである。しかも、体育祭や文化祭などのイベントにおいて重要な役割を担ったことが一度もない。だから、中学時代は教室の隅っこでラノベを読む日々を送っていた。そんな俺でも、好きな相手がいる。

 その相手は、同い年の幼馴染である音海星奈おとみ せいなである。容姿端麗で優等生、おまけに運動神経抜群という完璧超人だ。老若男女問わず、みんなから好かれている。俺もそんな彼女を好いている人の内の一人だ。だからこそ、彼女に振り向いてもらえるように高校生活では悔いのないように過ごしてやる!


「俺は青春を謳歌してやるーー!!」

と、つい勢いで叫んでしまった。


ドンドン!!(扉の音)

ガチャ!

「たく!朝っぱらからうるさいんだけど?叫ぶ暇があったら、入学式の準備しな!

入学早々遅刻するよ?」


俺のことをと呼び、勢いよく扉を開けて入ってきたのは、姉の天沢琴音あまさわ ことねだ。琴姉ことねえは、同じ高校に通う二年生で、凛とした顔つきにポニーテールをしており学校でも人気者らしい。おまけに、俺よりも勉強、運動ができる。たまに口うるさいところはあるが、とても弟思いの良い姉だ。


「ご、ごめん琴姉!急いで準備するよ!」


急いで身支度を済ませ、リビングまで下りていく。

「おはよう、たく」

「おはよう~、たくちゃん。朝ごはんできてるからね♪」

「父さん、母さん、おはよう」


そう言って席に座り、朝ごはんのパンと目玉焼きを食べる。食べている途中で、隣に座っている琴姉が俺に声をかける。


「そういえば、あんたも今日から怜悧れいり高校の生徒なのは信じられないな~

今まで勉強嫌いだったのに何か特別な理由があったの?」

と琴姉が懐疑的に見つめる。


「え、いや、ただ勉強したいなと思っただけだよ」

( 星奈と同じ高校に通いたかったなんて口が裂けても言えない... )


「ふーん。まあ、たくと同じ高校に通えるのはお姉ちゃんも嬉しいけど、勉強についていけるか心配だな~」


琴姉が不安そうに言った。まあ、そう思うのも無理はない。なぜなら、怜悧高校は県内でも有数の進学校であるからだ。毎年、T大合格者を十数名輩出している学校だ。元々、偏差値が人並みだった俺は到底行けるような高校ではなかった。それでも、星奈が怜悧高校を志望していることを聞き、琴姉に泣きついて勉強を教えてもらったのは良い思い出だ。


「今は勉強のことはいいでしょ!俺だってやるときはやるんだ!」

「それもそうね、困ったときは星奈ちゃんに頼ってみたら?いっその事、彼女にしちゃいな!」

「ゴホっ、ゴホっ!う、うるさいな!今の話に星奈は関係ないだろ」

「ごめん、ごめん!ついからかっちゃった♪」


クスクスといたずらな笑みを浮かべながら、食器を片付けにいった。俺も残りの朝ごはんを食べ、急いで玄関に向かった。


「たくちゃん、忘れ物はない?ちゃんと確認した?」

「母さん、子供扱いするのはやめてよ。俺だって、もう高校生だから大丈夫だよ。それじゃあ、行ってきます!」

「いってらしゃーい、気を付けてね」


扉を開けた先は、いつもの景色であるはずなのに風景も街の匂いも新鮮さを帯びているように感じた。まるで別世界に来てしまったのではないかと疑ってしまうほどに見えるもの全てが別物だった。


「たく、急がないとおいてくぞー」

「ちょ、ちょっと待ってよ琴姉ー!」


そして、俺の新しい生活が始まる——

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