班分け

 外は蝉のかしましい大合唱が流れ続ける中、教室内に意識を戻すと学級委員が前に立っていた。


 うちの学校では、こうやって入学ししばらくして学校に慣れただろうこの二学期の初めという時期に、宿泊研修を行っている。その内容は、学校で班を決め、そのグループで野外炊飯やフィールドワークを行うといった、極めて一般的な内容。あと、夏にいくからだろうか、深夜散歩と言われる肝試しのようなものも行われるらしい。

 部の先輩は「楽しかった」と言っていたし、説明する先生も、楽しさから毎回盛り上がると言っていた。なので、俺も結構楽しみにしていたりする。


 だが、俺はクラスで中心にいるわけではない。代表者が班分けをしていくスタイルなので班分けなどに口出しする事はできない。だから俺は、できればサト、佐奈、響花、その中の誰かと一緒になってくれと願いながら流れに身を任せ、外を眺めることしかできないのだ。

 

「どしたの? そんなにすべてを悟ったような顔して」


 俺の顔を覗き込んできたのは、さっきまで朝のことで恥ずかしがって近づいてこなかった響花だ。


「……響華、もう恥ずかしくないのか?」


 少しからかうように言う。

 

「……そのことは忘れてって。また恥ずかしくなってきた……じゃなくって、なんでそんな顔? 蒼真は楽しみじゃないの?」

「ああ、知らないのか? この研修は、クラス関係なく学科全体で割り振りされるから、全く話したこともない人と同グループになる事があるんだ」

「へー」

「それに、俺はあまり交流が広いタイプではないから、全員微妙な関係になるだろ? そうなったら気まずいから、響花かサト、あと佐奈の中の誰かが一緒になっているように願ってるんだよ」


 俺が説明をするも、響花はまだ全然興味なさげだ。響花もまだ転入してきたばかりで気にするのではと思っていたが、案外気にしないタイプだったのか? 小学のときとは変わったな……。


「たぶんね、蒼真が思ってるのとは違うと思うよ。私はまだ正直気まずいかもって思ってる。でも、前のとこ見て」


 前には、クラスの代表者と、一部の人気な生徒たちが、班分けに勤しんでいた。


「あれがどうした?」

「よくメンバー見てみて」

「……あ」


 しげしげと眺めて、初めて気がついた。振り分けるメンバーの中に、サトと佐奈がいた。サトは俺の目線に気がつくと、親指を立てた。任せろ。そんなふうに口元を動かしながら。


「なるほど。……響花も同じ班になるのか?」

「うん。さっきサトくんと佐奈がこっちに来て、よかったら一緒にどうかって誘ってくれたから」


 今回の班は四人班だ。つまるところ、メンバーはほぼ決まり。

 ……これは、一番望んだ展開なのでは?


 班分けが終わったのか、サトがこちらの机に近づいてくる。


「よし、やってきたぜ」

「一応聞いておくけど、メンバーはどうなった?」

「想像通りだよ。俺、蒼真、佐奈、響花ちゃんだ。一番楽しそうだからな」


 正直、嬉しい。一番仲が良いメンバーはその四人だ。この四人なら、きっと楽しい宿泊研修ができるだろう。


「ああ、あとこれは連絡なんだが……今年から、場所が変わったらしい。やることは変わらないらしいから、去年までと大きく変わることはないだろう。でも、一応な」

「へえ、どこに?」

「元々予定のところのまだ上に新しいのができただろう? あそこだ」

「……あの森の中か?」


 元々の予定では、ダムの近くの開けた場所に建てられた、少し古い自然の家だった。これまではそこで様々な学習をしていたのだが、最近になって、新しく代わりにもなるようなものが建った。

 

 一見、新しい方が大人気になりそうなものだが、古い方の自然の家と違って、深い森の中にあるため、生徒が迷ってしまう可能性もあるし、散歩道ルートを教師が把握しにくいし……これだけでなく、結構不便な面が目立つこともあり、いい評判は聞かなかった。


「でも、新しいとこなんでしょ?」


 響花が言う。そういえば、あそこが建てられたのは響花がもういなくなってからだ。響花からすれば、自分がいない間に建った、興味深いものなんだろう。


「まあ、でも新しいとこなんだし、決まってしまったものだしな。楽しくないなんてことはないだろう。佐奈も穴じように言ってたしな」


 確かに、危険性的な問題での評判は悪いかもしれないが、楽しさという面では悪い評価を聞いたことがない。俺たちももう高校生だし、きちんと自分で気をつけていれば、予定より新しいところでより楽しめるだろう。


「楽しみだな」

「うん! こっちに来て早速こうやって楽しい行事があるんて思ってなかったよ!」

「そうか。響花ちゃんはまだ転入してきて数日だもんな」

「……せっかくの行事だし、楽しく過ごせたらいいな」


 班分けは今日もう済んでしまった。出発は明後日からだが、響花からすれば頼れる人が少ない中での行事となるだろう。それでも笑って、楽しかったと言って追われるような、そんな楽しい思い出になってくれたらいいな。だなんて、そう思った。

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再会した小学校以来の親友と女友達がバトってる! すずまち @suzumachi__

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