再放送ですか?

「今日はありがとね」

「何がだ?」

「朝ごはん。毎日一人で食べるの、寂しかったんだ。久しぶりに誰かと食べられて、楽しかった」

「そっか」


 ご飯の後片付けも済み、紗耶と響花と一緒に家を出てしばらく。さっき紗耶と別れたということもあってか、さっきも見せた、少し申し訳無さそうな顔を浮かべた響花は言った。それに、俺はなんと答えていいかわからずにそっけない態度で返してしまった。


「……そんな顔、似合わないからやめとけって」

「ひどいなあ、そんなこと。たまには殊勝な態度でもしてよっかなって思ったのにさ」


 空元気、といえばいいのだろうか。そんな虚しい元気な様子を見せる響花。さっきまで紗耶と楽しそうに話していた響花も、こうやって弱みを見せる響花も、どちらも同じ響花なんだ。


「……変わってないな」

「何がー?」

「そうやって、本音と意地を交えた態度とか」

「……やっぱり蒼真は一番の親友だね。でもさ、せっかく意地張ってるってわかってるならそのまま張らせてくれてもいいじゃん?」


 腕を取って、それを抱きしめるようにする響花。昔から変わらない、癖のようなものだろうか。小学生の時も、何度かされた記憶がある。


「……それはわざとなのか?」

「ん?」

「心にもないこと言うときにそうやって俺の腕を抱くのだよ」

「んぇ?」


 響花は、驚いたように自分の今の状況を見た。


「あえ? わ、わたし、なんで?」

「だから、癖だろ? 小学のときからの」


 響花は顔をほんのり赤くする。……まさか、今初めて知ったというわけではないだろうに。


「……小学生のときもしてた?」

「ああ。してた。というか知らなかったのか? わざとやってんのかと思ってたが」

「う、うう……初耳だって……教えてくれればよかったのに……蒼真も恥ずかしかったでしょ?」


 うぐ、痛いところをついてくる。


 ……俺がこれを響花がわざとやっていると思いつつも、やめろと言えなかった理由がある。それは……


「嬉しかったから……」

「え?」

「だから、嬉しかったからわざわざ言ってまでやめさせようとはしなかったんだよ!」

「そ、そっか……」


 こちらの顔まで赤くなってきた気がする。

 ほら、この気まずい空気をどうする。お互い顔を赤くして、響花はそれでも俺の腕から離れない。

 ……はたからみれば、付き合いたての初々しいカップルか! と言いたくなるだろう。


 まあ俺達は親友同士だし、可愛く、それでいて性格もよい響花と俺は釣り合わないだろう。とすれば、いつか響花に彼氏なんかができるときに、変に俺との噂があったりしたら迷惑になるかもしれない。


 でも――


「う、うう……そうまぁ……」


 ひどく恥ずかしがる響花は、もっと俺の腕を引き寄せ、体を隠すようにひっついてきた。


 ……なんで響花はまた、勘違いしそうな態度ばかりするんだよ! 心の中で叫ぶ。

 俺は響花と仲良くしつつも、変な噂で迷惑がかからないようにしようとしてきた。でも、響花はそれを知らないはずのに、一歩下がったら二歩近づいて来るような距離感の詰め方をしてきた。

 

 そうしていくうちに、思わず勘違いしそうになったこともある。――響花は、俺のことが好きなんじゃないか。

 でも、その度に考え直すのだ。いやいや、響花は幼なじみだ。まさか俺のことを好きなるわけない。

 

 よく考えろ。幼なじみとは恋愛にならない。そんな心理効果もあったはずだ。落ち着け、落ち着け俺。今の俺は響花が帰ってきてから一番落ち着いてないぞ。冷静になるんだ。


 そんな葛藤をしていると……


「ねえねえ、なんで響花さんが蒼真に抱きついてるのかな?」


 何故か、底冷えするような聞き慣れた声が響いた。これは……


「ああ、佐奈! おはよう!」


 響花がすっと離れていく。

 た、助かった! こういうときに佐奈だよな。本当に助かった。あのままだったら更にパニックが進行してたかもしれないからな。


「ねえ、私が蒼真とこうやって登校してることが、佐奈には関係あるのかな?」

「あるかなあ、『親友さん』。私は『一番の友達』だからさ。独り占めするのはよくないと思うな」


 あっこれ再放送か……! 二人はまた怖い笑顔で相対している。この前見た光景と重なる。


 なんで親友と女友達がバトってるんだよ!


「お、面白いことになってるな」

 

 それを眺める俺の後ろから声をかけてきたのは、サトだ。そういえばこの前の教師るの一見はサトが休んでて知らないんだな。


「ああ、これはこの前も同じことをやってたよ。佐奈は響花と仲良くなれそうって言っておいてこれだからな……」

「まあ、お互い似た者同士だし、すぐ仲良くなるだろ。それは佐奈の分析があってると思うぞ」

「この様子じゃとてもそうには思えないが?」

「案外、すぐ打ち解けるもんさ。相性がいい者同士ってのは」

「そんなもんかねえ」


 少し離れた場所から、サトと二人のバトルを眺める。……何故か話題の中心が俺なのはなぜなんだろうか。


「……これは、鹿波は入院しててよかったかもな」

「ん? なにか言ったか?」

「いや、なんでもない」


 さっき、ぼそっとなにか言ったような気がしたんだがなあ。まあ、サトの顔的にも悪いことじゃなさそうだし、いいだろう。俺は響花と佐奈の応酬を眺めるのだった。

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