朝ごはんも一緒にね

 ピンポーン。インターホンが鳴った。


「はーい! 私が出るね」


 外に対してそう返事したあと、紗耶が玄関に行く。


「えっ!? もしかして響花ちゃん!?」


 あ、もしかして響花が来たのだろうか。


「響花ー?」

「きたよー!」


 キッチンから声を上げると、玄関から声が返ってくる。昨日一緒に帰ってきたことだし、多分一緒に行こうということだろう。


「あー、今からご飯だから上がってってくれ」

「はーい。じゃあ紗耶ちゃん、上がらせてもらうね!」


 がちゃん、という扉を閉める音とともに、紗耶と響花はリビングに入ってきた。


「響花、ご飯は食べたか?」

「うん。ちょっとね」

「ちょっとか……良ければ少し食べていくか? 朝はしっかり食べとかないとうまく頭が働かない気がするだろ」


 俺は少なくともそうだから、しっかり朝は作って食べることが多い。品数が多い訳では無いが、食べ過ぎなくとも満足できるくらいの間で食べる。もちろん紗耶も同じように。


「良いの? 私も貰っちゃって」

「ああ。俺たちはいつも大皿でおかずを食べてるから、それが嫌じゃなければ」


 こうやって気軽に誘えるのは、こういう理由もある。皿洗いが面倒だし、お互い気にしないからという理由で、魚などの個人で量が決まっている物以外はだいたい大皿で出しているのだ。なので、余っている茶碗にご飯を着いでもらえば、もうご飯を分けられる準備は整うわけだ。


「じゃあ、もらうね。小学校の時と食器の位置は変わらないの?」

「ああ。勝手についでくれていいからな」

「はーい。まああんまり食べられないけど」

「響花ちゃんは前からあんまり沢山食べるわけじゃなかったしね」


 確かに、紗耶の言う通り、もともと響花はあまり食べる方ではないからな。逆に俺がついでしまったら多すぎてしまう可能性もあるから、個人に任せるのが一番だ。


 響花は少しだけよそって、それを紗耶の隣に置いた。そうしてそのテーブルの椅子に座る。


「じゃあ食べるか」


 頂きます。きちんとそう言って、全員手を合わせてから食べ始める。


「ん、今日も美味しいねえ」

「そうか?」

「うんうん。もうお兄ちゃんのご飯をずっと食べてたいくらいだよ」


 そう言ってうんうんと頷く紗耶は、どうもやっぱり俺の料理が好きみたいだ。今回はちょっと焼いたりするだけの簡単なものが揃っているので、そんなに凝っているわけではない。それなのにここまで言ってくれるのだから、やっぱり作りがいがあるものだ。


「うん。私もそう思うよ? 毎日食べたいくらい美味しいもん」

「おおう……響花ちゃんなんか積極的になった?」

「積極的ってどういうこと?」


 同調した響花に、紗耶が返す。積極的ってどういうこと……って、わからずに使ってたのか、その言葉。……これが天然たらしの才能というやつだろうか。実際気分いいし。


「まあ……そこまで言ってくれるなら、前日に連絡してくれれば響花の分も朝作っておくから」

「……良いの?」

「お兄ちゃんが良いって言ってるんだから良いって! それにお父さんもきっといいっていうはずだから!」


 突然、さっきとは打って変わって少し申し訳無さそうな響花。流石に、そこまでしてもらうのは……と言った感じだろうか。でも、俺からすれば別に一人も二人も変わらない。紗耶が作る日もまあ同じようなものだろう。


「……じゃあ、たまにお邪魔しちゃおうかな」


 響花は、まだ少し遠慮が残ったようで、されど確かに嬉しそうにそれを受け入れてくれた。


 ……あ、響花はまだ最近こっちに帰ってきたばかりで、それに親とも離れたわけだ。つまり、今の食事は自然と一人になっているだろう。

 俺は結構一人で食事をするのが苦手なタイプだ。そして、それは響花も同じ。過ごしていて知っていたことだ。


 できれば、これからの朝の時間で、少しでも響花の寂しさを和らげてあげられたらいいな。そんなことを思った。

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