第22話レクリエーションNo.0『ブラックハウス』

「——やば、あと20分で授業始まるのか」


 翌日、ベッドと机や空の本棚も準備された学園のワンルームを飛び出し。

 朝食も取らず、俺はスマホに表示された授業場所へと走っていた。


 あー、尾行なんてするんじゃなかったっ! さっさと自分の部屋に戻って満喫しとけばよかった。

 

『目的地付近へ到着しましたので、音声案内——』

「はぁっはぁっ、こ……ここか?」


 ズザーっと、足を滑らしながら止まり、ナビを切ると残り5分ギリギリ。

 そこには3階建てコンクリート製の普通な校舎へ入り、憂鬱そうな生徒たちとすれ違いながら案内表示に従って急いで階段を下る。

 んぅ、降りる? 振り返り、1階だったことを確認。

 この学校……地下もあるのか?


「おはようございます、持ち物は全てそちらのロッカーに預けてください」


 ズラーっと並んだロッカーの前に佇む警備員から案内されるまま、スマホや腕時計をロッカーへ入れ。


「薄暗い部屋で勉強する感じか? 監獄みたいな場所で」

 

 言われるまま全て預け、金がかかっているなぁっと眺め。

 案内されるまま、ついていくと銀行の金庫ぐらいな巨大なドアの前で止まり、ゆっくりと開かれる。


「っえ、死なないよな?」


 飛び込んできた光景で最初に思いついたのは、バイオハザードのアンブレラ社にある実験室。

 何もない、本当に何もない照明があるだけの真っ白な体育館ほどもある空間。

 そこに数百という男女生徒が立ち尽くし、暇を持て余していた。


「ふむ……ここで一体何の授業をするんだ、催涙ガス耐久でもさせるのか?」


 イチャイチャするような先輩カップル達はいない、新入生だけか。


「っあ」


 その中には月見もいて、呑気に手を振ってくる。これは……アクションしてくれたし、近づくべきか?

 それとも社交辞令をしただけで、知らないフリして遠くに行くか?


「昨日はその……ごめんなさい、雰囲気壊しちゃって」


 しばらく悩んだ末、会話がないなら離れようと決めて近づき。

 彼女はかかとを頻繁にあげながら、落ち着きなく謝ってきた。

 

「どっちも気にしてないと思うぞ」


 壁へ寄りかかり、白い部屋に目が痛くなってきたので瞑って座り込む。

 美術の時間に習った光の三原色で、白色って全色合わせた色と言われたっけ。

 色の元気玉だから目が疲れない訳がないよや。


「ねぇ……相手からどう思われるとか、考えたりしないの?」


 依然として、テンションの低い声。

 なんで昨日あったばかりの俺にそんな事を聞くんだ?

 他に相談……する奴はいねぇ……かぁー、苺谷は口が軽そうだしな。

 これは、変なことを余計なことを言ったらお前のせい、とか責められるかもしれないな。

 食堂でテレビから見た時はモテようとし、実際に会った後だと帰ろうとする。

 まったく青春をしているな、羨ましい。

 

「自分のしたいことをすれば嫌われたって納得がいくだろ? 他人の為に生きたって人生の責任なんか取らない。

 俺は別にモテたくないけど、モテたいなら応援はするよ」

 

 遠回しに失敗した時は自己責任だと誘導し、おまけ程度に応援の言葉もつける。

 そんな軽く、中身もない言葉に月見は小さく「ありがとう。うん、モテる」と相応しくないお礼を伝えてきた。


「一つ、聞いてもいいか?」

「なぁに?」

「お前たちって4人友達だったりするのか?」

「ううん、多くても3人だと思うけど…………ッ! もしかして、見えるの?」

「いや、期待に添えなくて悪いけど、見えない」


 本当に心当たりがないのか、深刻そうな声で聞かれる。

 昨日の人物が青葉たちを尾行していたことは確実、それなら学園で出会った人物か?

 単に幼馴染だけど関わりが無かっただけ、って線も捨てれないな。

 

『——おはよう、全員揃ったようだな』


 天井から聞こえた声に見上げると、そこには白いスピーカーが設置されており。

 ガチャン、と鋼鉄の入り口が閉められる。


「っえ、閉じ込められた? こんな何もない部屋で何をするんだ?」

『何をする、か。端的に言えば君たちは何もしなくていい』


 生徒の1人がドアを開こうとドアノブを回し、叫ぶと意外にもスピーカーの人物はすぐ答えてくれた。

 しかし肝心の内容が『何もしなくていい』ということで、生徒たちの中で混乱がより強く広まった。


『そう不安がるな、新入生が最初に受ける授業とはなんだ? そう、ただレクリエーション。

 これから始まるのは君たちEクラス用の仲良くなるための催し物だ。いぇーーい』


 ぱち、ぱち、とスピーカー越しでもやる気の無さが伝わる拍手が響く。


『ゲームはこの白いだけで何もない部屋で授業終わる6限まで、つまり8時間後である17時まで黙っていられたものが優勝する我慢大会。

 コミュニケーション能力も容姿も関係ない、モテない君たちにぴったりのレクリエーションだろう?』

「は、8時間もこんな目が疲れる部屋で無言でいろってのかッ?!」


 金髪ツーブロックで首に銀色のドクロネックレスをかけた男子生徒が叫び「はぁー」とため息が吐かれる。

 

『たかが8時間だ。72時間とか1週間閉じ込めると嘘をつきたかったが、アレなのでね』


 アレ、とはどれの事だ?

 と疑問が解消されることもなく、説明が終わったとも言いたげに仕切り直しの拍手され「ごほん」と声が整われる。

 

『そしてゲームを行う上で、ルールをいくつか開示する。

 一つ、意図した同性との会話を禁ずる、これを破った場合は即時退学

 二つ、睡眠を2時間以上してはならず、破った場合は6食分の食事を抜き。

 三つ、以上に関すること以外は基本的に法令遵守とする』


 退学、その言葉で再びざわざわし始め、

 

「はぁ、退学、退学だって?! たかだかレクリエーションで同性に話しかけただけでか?」

『——バンッ! キィィィィィンッ』


 内出血で真っ赤になってそうな台バンに続くハウリングで、無理やり静かにされる。

 

『そして肝心の一番我慢できた優勝者に与える景品だが——』


 会話する時間は終わった、というようにスピーカーの人物は話を続け。

 退学するかもしれないデメリット、それに見合うほどの景品?

 色々と手が混んでいるし、大金なのかな? 貰えるものはもらっておきたいよな、やっぱ。


「っごく」

 

 誰かの、はたまた無意識化のうちに鳴らした自分かもしれない喉の音に。

 もったいつけず、早く話せと急かす気持ちに駆られる。


『——2025年の空気を詰めたプレミアな缶詰を与えよう。では、スタートだ』


 しばしの静寂の後「ドンッッ!!」とスピーカーからノイズが鳴り、誰かが投げた靴がコロコロと転がる。

 そして靴は、ガムの付いた靴底を上に止まった。

 明日の天気は、良くないみたいだな。

 

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