最終話 卒業
「俺、鞄取りに行く!」
「空雅、元気で!」
「たまには、会おう」
「おう、またな」
二人に手を振って、俺はその場を後にする。あーもう、あいつの姿見るだけで嬉しくなってしまう。
自分でも思っていたよりも、重症なのかもしれない。俺は自分の手で顔を仰ぎながら、教室へと向かう。
そこで、いちゃついているバカップルの声が聞こえてきた。俺はため息をついて、勢いよく後ろ側のドアを開けた。
すると俊幸と、見つめ合っていた陸がこっちに気がついたみたいだ。何かイラついたから、皮肉たっぷりに言いたいこと言う。
「言っただろ、少しは場を弁えろ」
俺も人のこと言えないが、そう思いつつも言いたいことを言った。そして鞄を持って、教室を後にする。
あの二人は……俺だからいいが、他のやつだったらどうするんだよ。陸は知らないと思うが、みんな二人が付き合っているのは周知の事実だ。
しかし陸の、ファンクラブとかいうあの狂った集団は危険だからな。まあそんなことは、俺の知ったこっちゃないか。
それよりも今日これから、秋也とすることが想像できない。恥ずかしさとこれから、起こること。
そんなことを考えていたら、急に恥ずかしくなった。そしてその場にしゃがみ込んで、悶々と考えていた。
「あー、もう……どうすりゃあ良いんだよ」
「おい、どうした? 腹痛いのか」
「秋也……えっと」
俺が何を言えば良いのか悩んでいると、複数人の階段を登ってくる音が聞こえた。秋也は俺の腕を引っ張って、屋上へと続く階段のところに連れて行った。
「ど、どうしたんだよ」
「そんな真っ赤な顔、俺以外に見せる気か? あり得ない」
「つっ……だ、だって」
そんな真面目な顔されたら、胸が熱くなるに決まってんじゃん。それに……これからのことを、考えると正気でなんかいられない。
予習の意味も込めて、男同士のやり方調べてみた。しかし経験のない俺には、刺激が強すぎて見ることが出来なかった。
すると、優しく微笑まれて抱きしめられた。たったそれだけのことで俺は、心が満たされていく。
頬を触られて真っ直ぐに目を見られて、耳を触られる。一瞬体がビクリとして、目を閉じてしまう。
「空雅……」
「あ……きや」
瞼のところにキスをされて、更に恥ずかしくなってしまう。やっぱ、この優しくて甘い雰囲気に慣れないんだよな。
それでもゆっくりと目を開けると、いつもよりも優しく微笑んでいた。それに戸惑っていると、秋也に話しかけられる。
「じゃあ、帰るか」
「他の奴らに、何も言わなくて良いのか」
「言っただろ。そんな真っ赤な顔、俺以外に見せる気か?」
少し怒ったように問いかけてきたから、俺は思わず俺は首を横に振る。秋也は俺の頬を触ったまま、もう一度優しく微笑みかけてくれる。
それからは終始下を向いて、秋也に手を繋がれて車に乗せられる。その間の記憶が、俺の中にない。
とにかく恥ずかしくて、周りを見る余裕がなかった。つーか……担任なのに、他の生徒放って置いて良いのかよ。
でも嬉しそうに運転しているこいつを見て、俺だけを見てくれて嬉しいと感じてしまった。
気がつくと部屋についていて、秋也にベッドに押し倒されてしまう。優しい笑みを浮かべた秋也に、俺の唇を触られる。
「あ、秋也! その、風呂に……」
「えー、良いじゃん。それに、その格好で出来るの今だけだし」
「……お前って、おじさんか?」
俺が若干引き気味にそう言うと、こいつは何やら考えていた。そして不敵な笑みを浮かべて、更に凄い二択を迫ってくる。
「じゃあ、今お風呂に入るか。それとも、明日以降に制服姿でするのとどっちがいい?」
「何だよ! その、二択……」
「どっちにする? 空雅に選ばせてあげる」
「……好きにしろ」
俺がそう言うと秋也は、舌舐めずりをした。その余裕のない表情に、俺はゾクリとした。
嬉しそうに俺の制服を脱がせ始める。俺が少し怖くなって両腕に、しがみつくと優しく微笑んでいた。
その笑顔がカッコよくもあり、少し怖いとも思えた。上着を器用に脱がされた時点で、俺は我に返って声を出す。
「あっ……えっと、自分で脱ぐから」
「好きにしろって、言ったじゃん」
「たっ……確かに、そう言ったけど」
好きにしろって自分で言った手前、止めることも出来ない。俺がそう思っていると、急に抱きしめられた。
そうして耳に息をかけられて、体がビクリと反応する。すると秋也の笑い声が聞こえた。
何か唐突にイラッとして顔を見ると、愛おしいものを見るような瞳で見つめていた。
「……んだよ」
「あー、ごめん。つい意地悪したくなって。いいよ、無理しないで」
「無理だなんて」
「体、震えてるだろ。怖いからだろ」
怖いに決まってんじゃん。いわゆるエロいことを、すんの初めてだし。でも秋也だから、怖くても平気だ。
俺は秋也に何も言わずに、抱きついた。そして下から秋也の顔を見て、自分の言いたいことを言った。
「怖いけど、嫌じゃない」
「空雅、無理は」
「秋也だから、良いんだろ!」
そう言って俺は頬を触って、軽く触れるだけのキスをする。今度は上手く出来たから、いい感じだろ。
「お前、煽って後悔すんなよな」
「やりたいなら、素直にそう言えよ!」
「そっか……じゃあ、泣いても止めないから」
あっ……ヤバい、秋也の目がマジになってる。笑ってはいるが、完全に理性失っているわ……。
それからまあ、色々された。恥ずかしすぎて、思い出すのが困難だが……。それでも、最中に嬉しそうにしていた。
それだけで、俺も嬉しくなってしまった。まあそれと、腰と尻が痛いのはまた別の話だがな。
「くうがあ……」
俺の隣でスヤスヤと、気持ちよさそうに寝ているこいつを見る。色々と合ったが、それでもこいつといると幸せなんだよな。
少し素直になってみたいが、まだそれは出来そうにない。だって、こいつに本心言うと調子に乗りそうだし。
そう思って秋也の鼻をつっつくと、寝ぼけている秋也に抱きつかれた。何とか離れようとしたが、全身の痛みのせいで無理だった。
「マジで……どんだけ」
「あっ……空雅、起きたのか?」
「起きたのか? じゃねーよ! いつっ……」
「あー、悪い。やりすぎた」
大声で叫んだせいで、体が悲鳴を上げてしまった。秋也に心配そうに見つめられて、腰をさすられた。
つーか、こいつのせいじゃん。そう思ったが、どのタイミングでスイッチが入るか分からない。
そのため黙っておくことにした。まあ……優しく摩ってくれているし、それだけで満たされている。
俺が抱きついてそう思っていると、何やら時計を見ていた。そして、いきなり慌て始めていた。
「やばっ……もう、夜じゃないか。親御さんに、連絡」
「大丈夫だ。今日は、泊まるって伝えたから」
「はあ……でも、着替えとか」
「ちゃんと、昨日のうちに運んでおいた」
こんなこともあろうかと、既に何日か分の着替えは準備済みだ。それにもう少ししたら、俺に荷物を運ぶんだよな。
それなのに頑なに、卒業してからだって言うんだよ。こいつのこの頑固さは、一体何なんだろうな。
まあでも別にいいや……これからは、四六時中一緒に居られるからな。そう思って再度抱きついて見ると、優しく微笑んでいた。
「空雅……好きだ」
「俺もだ……秋也」
俺たちは当たり前のように、もう一度優しくて激しいキスをした。それからこいつの、スイッチが押されてもう一回やったのは別の話である。
それでも小学低学年の時に、出会えて本当に良かった。こいつから、話しかけてくれて良かった。
――――この人と出会えてよかった。
きっとこれまでも、これからも……五十嵐秋也と出会えたことが、俺にとっての一番の幸福なのだろう。
まあこいつが調子に乗るから、絶対に口には出さないが……。俺のことを、好きになってくれてありがとうな。
お前の隣にいたいんだよ!〜素直になれない不良高校生が、実は甘えん坊な高校教師に溺愛されています〜 若葉有紗 @warisa0430
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