第110話 魔法剣士

 互いに自身へと身体強化をかけ、剣を構えなおす。


「リディアが本当に強いのはここからよ」


 マグナス陛下がそう呟く。どういう意味ですか、そう質問しようとしたとき、その質問の答えは目の前に広がっていた。

 アンナと相対するリディアの横に石……否、土の魔法で錬成された岩のかけらが二つ、身体の周りをまわっているのだ。魔法によって錬成されたそれは三角錐の形をしており、角は鋭くなっている。


「では、仕掛けさせてもらう」


 そう言って動いたのはリディアだった。今まで通り突きを主体とした攻撃を続けるリディア。アンナもその突きを避けようとするが


「……っ!!」


 避けようとした先には、リディアが操る三角錐の岩が待ち構えている。アンナは紙一重で突きに剣をあてがって軌道をずらし、半ば強引に防ぎきる。

 だが、そこで終わるリディアではなかった。リディアの攻撃を防いだと思ったらすぐさま三角錐の岩が飛んできて傷を負わせようとしてくる。アンナは飛んでくる三角錐を剣を振って消し飛ばし、次なる攻撃に備える。束の間、再びリディアの攻撃が飛んでる来る。その攻撃を防いだと思ったら、再生された三角錐が攻撃を仕掛けてくる。

 今まで均等だった戦況が、アンナの防戦一方へと変化していた。

 

「リディアの剣術は王国随一の強さを誇る。しかし、力の面において彼女を上回るものは少しだけいるのだ。そんなものたちを差し置いて近衛騎士団長を務めている所以があの魔法にある」


 確かに、アンナはあまり魔法が得意ではない。ああいった魔法を剣をふるいながら操作することはできないだろう。せいぜい、自身の身体に魔法を乗せたり、マナ障壁を張ったりするぐらいが精いっぱいだ。

 ただ、この一か月間、アンナは誰と修行していたのかを思い出してほしい。魔法の扱いにたけた師匠だぞ?


「大体動きは読めた。次からはこっちの番!」


  その瞬間、アンナの速度が爆発的に速くなる。リディアは二つの三角錐の岩を動かして迎撃を試みるが、それらを一閃にて消し飛ばし、一気にリディアの懐へと入りこむ。


「時間稼ぎにもならないか!」


 リディアがその声を上げた時には、すでにアンナの剣はリディアの胸へと吸い込まれていく。しかし、リディアもそれに反応して木剣で受け止める。その瞬間、木剣同士がぶつかり合い、乾いた音が鳴り響く。


「まだまだ!」


 攻撃を防がれたアンナは身体を回転させ、リディアに蹴り放つ。その蹴りをリディアは剣で防ぐが、少しだけ体勢が崩れる。その隙を逃すアンナではなかった。

 さらに続けてアンナは剣を振る。リディアは防ぎ、三角錐の岩で攻撃を仕掛けようとするが、再生したそばからことごとく壊されていった。

 戦況は先程とは一変し、リディアが防戦一方となっていった。

 やがて、アンナが勝負を仕掛けに行く。大きく踏み込み、リディアとの距離を縮めていく。いつしかリディアの操る三角錐の岩は四つになっていた。そのすべてを斬り裂きながら進んでいき、リディア自身に切りかかった。

 その瞬間、アンナのお腹めがけて大きな土でできた針が伸びていく。避けるか斬るか、さもなくば身体に突き刺さる攻撃。しかし、アンナの取った行動はそのどちらでもなかった。


「なっ!」


 アンナは何もせず、ただ真っすぐにリディアへと突っ込んだ。設置された針をマナ障壁によって防ぎ……否、破壊しながら。

 リディアの土魔法の強い点は半ば強制的に複数人対一を作り出すところだ。三角錐の岩の威力は高く、普通の剣士が身体強化を掛けながらマナ障壁で防ごうとすると、容易く貫き負傷する。それはアンナですら例外ではない。だが、マナ障壁に全力を注げれば?

 アンナは針とぶつかる瞬間、自身の身体強化を解除し、お腹の一か所にだけマナ障壁を全力で張った。結果、針はマナ障壁を貫くことなく、そのまま崩れた。

 アンナは再び自身に身体強化をかけ、リディアへと切りかかる。アンナの剣がリディアに届く、その瞬間。


「やめよ」


 マグナス陛下の声が練兵場に響き渡った。

 アンナの剣はリディアの首元、その寸前で止まり、いつの間にか再生していたリディアが操る三角錐の岩がアンナの首に触れていた。

 マグナスが止めた理由は危うく使者が出かけていたから。いくら木剣とはいえ、魔法で強化されれば人体ぐらい容易く斬り裂くようになる。まあ、直前に俺がマナ障壁を付与していたから、マグナス陛下が止めなくても死者は出なかっただろうけど。


「使者殿の力量はよくわかった。『探究者シーカーズ』相手に力強い味方となるであろう」


 マグナス陛下のその言葉に、観戦していた兵士たちはそれぞれ歓声を上げた。そんな中、アンナとリディアは剣を下げ、握手を交わしていた。


「見事な剣捌きと状況判断であった」

「そっちこそ魔法との連携が完璧だったわ」

「ふっ、其方にそう言われるのはうれしいものだな……勝敗はどうしようか」

「……引き分けでいいじゃないですか」

「それもそうだな、今のところは」

「ええ、今のところは」


 そうして、マグナス陛下の言いだした手合わせは終わったのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

次の更新予定

毎日 07:45 予定は変更される可能性があります

美少女に転生した俺は魔法で最強を目指す 彼方 @rupina

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ