第109話 手合わせ
代表戦力……俺たちってそう言う扱いなんだ。
「そうですね……
フェリックスさんは俺たちのことをそう評価してくれる。探究者の一人とは恐らく、ラファイエットのことだろう。
「ふむ……奴らにも力量に差があるからな。どれ、一つ手合わせをしてみぬか」
「……陛下と、ですか?」
「たわけ、余は頭脳派よ。肉体戦闘には向いておらぬ。代わりにリディアを出そう」
勝手に話が進んでいってるが……もしかして決闘みたいなことをする流れになってない?
「こちらは……」
そう言いながらフェリックスさんはこちらを見てくる。まあ、この中で行くなら俺が最適か……?そう思い俺が声を上げようとすると、後ろから肩を叩かれた。
「この戦いは、私に行かせてほしい」
アンナが、そう言ってきた。
「初めて見た時から思ってた。彼女の剣は美しい。だから、一回戦ってみたい」
「ラファイエットさん、アンナが戦いたいって言ってますけど、いいですか?」
俺の言葉に、ラファイエットさんは少し考え、そして
「いいですね、それで行きましょう」
笑顔でそう返してくれた。そしてマグナス陛下の方へ向き直ると、口を開いた。
「こちらからは、剣士アンナを出します」
「よいぞ。では、練兵場へと向かおうではないか」
その後、マグナス陛下と共に練兵場へと向かった。練兵場……というか軍の施設はこの城と隣接した場所に設置されており、移動するのにそこまで時間はかからなかった。
「マグナス陛下、お疲れ様です!」
「グスタフ団長、失礼するぞ。少しの間、練兵場を借りたいのだがよいな?」
「もちろんでございます。ただ、用途だけお伺いしてもよろしいでしょうか」
「シルトヴェルト共和国の使者とリディアの一騎打ちを行う。まあ、力試しのようなものだな。よかったら観戦しておくといい」
「はっ!」
グスタフ団長と呼ばれた男は、修練している兵士たちに声を掛け、即座に練兵場から立ち去り、観戦する姿勢を見せた。
「さて、早速手合わせをしてもらおう。双方、訓練用の木剣で戦ってもらう。こんなことで死者が出てもかなわんからな」
そう言って配られた木剣はごく一般的なものだった。アンナが普段使っているものよりも太いが、まあ相手と比べればマシな方だろう。リディアが使ってるのってレイピアっぽいし。
「リディア、怪我をさせないようにな」
「心得ております」
そんな会話が、マグナス陛下の方から聞こえてくる。
「ずいぶんと馬鹿にしてくれるね……アンナ、怪我しない程度にボコボコにしちゃって!」
怪我をしない程度にボコボコって……。そんなルリアーナの言葉に苦笑しながらアンナは俺の方を見てくる。こういうときって本当はもっとちゃんとしたことを言うんだろうけど。
「頑張って」
「ん、頑張る」
俺達には、これだけで十分だ。
「木剣であること以外は実践と同じだ。魔法を使ってくれたってかまわない。こちらも使うからな」
「それじゃあ、こっちも遠慮なく」
双方、木剣を相手の方へと構え動きが止まる。そして、少しの静寂が訪れる。
「始めよ」
マグナス陛下の言葉を合図に試合は始まった。
先に動き出したのはリディア。メインで使っている武器がレイピアだからなのか、初手で放ったのは突きだった。
剣術において、突きというのは最もリーチの長い攻撃であり、最も防ぎにくい攻撃だ。実戦であれば、横薙ぎなどによって切れない鎧や鱗でも、突きならば貫けるといった事態が多発する。
ただし、突きには大きな弱点が存在する。それは軌道が読みやすいことだ。斬る動作は途中で方向を変えることもできるため、軌道が読みづらい。一転、突きは一ヶ所集中に重きを置いているため、途中で軌道が変わることがない。よって、防ぎづらい攻撃であると同時に避けやすい攻撃でもあるのだ。
アンナは持ち前の動体視力を生かし、リディアの初手を躱す。交わされたリディアはすぐさま体勢を立て直し、前へと進みながら回転してアンナを斬りに行く。そんな斬撃をアンナがくらうわけでもなく、木剣で受け止める。
「存外、強いものだな。これが防ぎきられるとは思わなかった」
「そっちこそ、素早い身のこなし……今度はこちらから行くよ」
次に仕掛けたのはアンナだった。剣を握り締め、リディア相手に横薙ぎで立ち向かう。その斬撃をリディアは木剣を持って受け流すし、そのままの流れで突きで反撃を試みる。が、アンナはそれを身をよじって避け、すぐさま反撃を仕掛ける。
双方、攻撃を受けて、避けて、流して、反撃を相手に叩きこむ。その繰り返し。互いに普段とは長さも、太さも、重さも違う剣を振り回し、互いに無傷のまま時間だけが過ぎ去っていく。
そんな二人の打ち合いに、マグナス陛下や俺を含めた全員が息をのんで見つめていた。
やがて、アンナの力強い縦斬りを防いだリディアが後ろに大きく下がらされる。ここまでの戦いで、双方どちらも魔法を使用していない。
「単純な剣術勝負では勝てそうにないな、そろそろ全力を出させてもらおう」
「望むところ。私の力もここまでじゃないからね」
双方、自身の身体に強化魔法をかけ、この手合わせの第二ラウンドが始まる。
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