最終話
イヤーカフは見つからず、心のうちをうだうだと考えているうちに約束の土曜日が来てしまった。
「ごはん何食べる?」
「んー、うどん食べたいかな」
とりあえず謝罪はうどん食べて落ち着いてからでいいだろう。わざわざ迎えに来てくれた彼氏の車に乗り、彼氏の運転でうどん屋に向かった。助手席に乗り込んだ私は、そこであることに気が付く。
「何してるの、ばたばた暴れると危ないでしょ」
「そ、そうだね!ごめん」
そう約一か月前、私はこの車に乗車したのだ。身の回りにはなかったがここにあるかもしれない。走行中のためシートベルトを着けたまま座席付近を捜索する。
「ないかぁー…」
「何が?」
不覚にも口に出してしまっていたようだ。今、正直にばらそうか。そうすれば無くしたことへの後悔が薄れるかも。いやこれからの時間が気まずくなるのは嫌だ。
「あー、っとその…」
「何?」
運転中の彼はまっすぐ前を見ている。こちらを見ていないのでいくらか話しやすいだろう。
そこで私ははっと気づいた。今まで考えていたことは全部自分しか考えていなかった。無くして気まずいとか、消えない罪悪感とか。すべて自分が傷つきたくない言い訳でしかない。
「あの買ってくれたイヤーカフ、なんだけど、無くしたみたいで…」
「あぁ、あれならこの前車に落としてたのを拾ったよ」
「え!?」
ちょうど赤信号で停車したタイミングで彼は自分の財布から、無くしていたイヤーカフを取り出した。
「あっっったー!!」
見つけた高揚感で早速耳につける。
「気を付けろよな、それいい値段したんだから」
「うん、なるべく気を付けるね!」
「そこはもう無くしません!じゃないのかよ」
「それはちょっと自信ないな」
あって良かった。推測だがあのまま見つからなくてもこの人は少し残念そうにするだけで怒らなかった、と思う。いやこれも私の都合のいい推測かもしれない。
また青になったとき彼の運転する車はうどん屋に向かって走り出した。
きまずい 雪田るま @koyuma0905
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