#42

 天気は晴天、真夏前にも関わらず大きな入道雲。

 

 日差しはじりじりと肌を焼きますが、気温自体はそれほどでもなく。


 体感23度ぐらいの温度の中、

 動きやすい程度の風を感じて、


 りゅうねえは角と僧衣をふるわせ、


 金髪短髪少女わたしはがっかりします。


 「どうした妹よ、びみょーな顔をして」

 「いやー、その」


 龍ねえの問いに口が止まります。


 実は初異世界の町ということで、ワクワクしていた節がありました。


 ですが、門をくぐって出迎えた街並みは見知ったモノ。


 木造の家屋、

 電灯すらない道路、

 舗装されていない地面。

 

 ありたいでいえば昭和の殺風景な一部という感じです。


 「意外と田舎ですね」

 「辛口だな、妹よ」


 もう少しファンタジー味がある町並みを要求したいところです。

 

 イメージとしては中世なのですが、

 山に囲まれた場所でレンガを使って、

 わざわざ家を作る理由もありませんし。

 

 (妥当と言えば、妥当ですね)


 土を靴底で踏みしめながら私は歩きます。


 「車が走る訳でもないですし」

 「クルマ? 魔導具の名前か」

 「ええっと、馬車でしょうか」

 「ああ、貴族の乗り物かぁ」


 龍ねえは思い当たったように話します。


 この世界だと馬車は高価な乗り物なんでしょうか。


 (できるだけ異世界の方との認識のずれは潰しておきたいですね)


 何が元で、荒事に発展するか分かりませんし。


 「とりあえず角鹿の角を売るところからですね」

 「安心しろ、どーせ全部一か所で終わる」


 意味深に話す龍ねえ。


 「それは、どういうことですか?」

 「ほらついたぞ」


 案内されたのは、

 町の中でも一際大きい建物。

 木造2階建ての建物は昔の学校という風貌です。


 赤の屋根が目立つ入り口からは、様々な声がひびきます。


 「ここがこの街のギルドだ」

 「えっ、これがギルドなんですか」

 「そーだぞ、ここしか無くて不便とも言うがな」


 龍ねえは、ずかずかと中に進んでいきます。


 慌てて、私も彼女の背中を追いかかます。


 背中の角鹿の角が入り口に引っ掛かったのは内緒です。

 

 ◇◆◇


 ギルドの内部。

 木材を中心とした室内。

 木目を基調とした一枚板のテーブル。

 一歩踏むたびに床はぎこぎこ鳴ります。

 

 (思ったより広く、ケモ耳が多いですね)


 食べ物を食べている方もいるので、食堂もあるようです。


 販売や買取と書かれたカウンターの前には列ができ、


 色々な素材や道具がカウンターに置かれています。


 

 そんな中、龍ねえはカウンターのおばさんと話していました。


 (列、すっ飛ばしてますけど良いのでしょうか?)


 談笑する2人は騒がしく、

 周囲の視線は呆れを含み、

 私は少し申し訳ない気分になります。


 「あらリンさん。また昼からお酒かい?」

 「ばーか、ちげェよ」


 龍ねえは顎で私を差します。


 「今回は妹の案内だ」

 「あら可愛い」

 「だろ」

 

 おばさんもこちらを見ます。


 犬耳、

 エプロン、

 名札にはギルド職員の文字。

 

 雰囲気はギルドの職員というより、

 基地食堂のおばちゃんに近いですね。


 「この子が大きくなったらリンさんみたいになるのは嫌だねえ」

 「馬鹿、大きくなったら私みたいに美人になるんだよ」

 「美人は自分では言わないモノよ」

 「こまけーことはいいんだよ」


 2人の話は長くなりそうなヤツですね。


 後ろも混んでますし、強引に私の話をねじ込みにいきます。


 「あのー、査定は」

 「あら、ごめんなさい」

 「今ちょっと混んでるから、あずかっといてもいいかしら」

 「構いませんよ」


 私は籠の荷物を、おばちゃんに渡します。


 「以上です」

 「角鹿の角6本ね」

 「はい」

 「じゃあ、コレ持っといて」


 返しにおばちゃんから、9と書かれた番号札を渡されます。


 きっとこれが呼び出し番号というやつなのでしょう。


 龍ねえの元に、とてとて戻ります。


 「さて飯でも食っていくか」

 「でもお金は必要分しか無くて」


 私の財布の中にはメモの商品を買うための金額しかなく、


 実は長耳モヒカンエルフから昼ご飯は渡されています。


 「問題ねぇ、私が奢るからな」

 「いや、流石にそれは」

 「いいから食うぞォ」


 どうやらこの姉は人の話を聞かないようです。


 結局、昼ご飯がもったいないので飲み物だけ頼んで食事をすることになりました。


 昼から豪快に肉をほおばる龍ねえは、イメージ通りと言えばそれまでです。


 ◇◆◇


 渡された番号が呼ばれ、私はカウンターに行きます。


 受付にいたのは、先と同じおばちゃんでした。


 「早かったね、嬢ちゃん」

 「呼ばれたのですぐに来ました」

 「まったく、他の奴に聞かせてやりたいよ」


 文字が書かれた紙を見せられます。


 買取(担当 サーシャ)

 角鹿の角×6 (銀貨3枚)

 ───────────     

      サイン____


 「これでいいかい」

 「多分いいと思います」


 私に相場とか分かりませんし。


 長耳モヒカンエルフからも売ってこいとだけ言われましたので。


 「じゃあサインを」

 「全部の名前ですか」

 「わかりゃ、偽名でも何でもいいよ」

 

 紙を受け取ったおばさんは、

 慣れた手つきで紙に判を押し、

 袋から数枚の硬貨を取り出します。


 「狩った奴に言っときな、もう少し上手く剥ぎ取れってな」

 「りょ、了解です」


 渡されたのは銀貨が3枚。

 

 龍ねえ曰く、常人3日分、私で1日分の食事代らしいです。


 「おー、買取終わったか妹よ」

 「アンタまた昼からお酒飲んで」

 「何を飲もうと私のかってだろ」

 「アンタ、またお金無くなるわよ」

 「金が無くなったらまた武器を売るさ」


 おばちゃんと龍ねえは、また雑談を始めます。


 (今、妙な発言が聞こえましたね)


 「武器を売る?」


 私は疑問を口にします。


 「ふっふふーん、実はこう見えても鍛冶師なのだ」


 龍ねえは胸を張って言います。 


 「ゴミ作り職人の間違いでしょ」


 おばちゃんからの反応は冷たいです。


 「いいか、私の作る武器はなァ」

 「限界を穿ち、未来を得る武器」

 「よく知ってるじゃないか」

 「腐るほどアンタの口から聞いたよ」


 やはりおばちゃんの対応は冷たいです。


 「割と崇高な理念だと思いますが」

 「それで出来たのがあの素材ゴミだから手に負えないよ」


 そう言ったおばちゃんの視線の先には、隅に立てかけられた剣。


 無骨ながらも鈍く輝く剣。


 武器に疎い私でも“いいモノ”と感じる作品です。


 ですが、


 ギルドの壁に無造作に立てかけられた剣は、

 誰もが触れる場所にありながらも、

 誰も盗もうともしません。


 「なんていうか、デカいですね」


 剣の全長は5m超。

 横幅、厚みも相応にあります。

 私が握ったら潰れる自信があります。


 「デカすぎなのよ、ウチに巨人族の冒険者はいなくてね」

 「結構な力作なんだけどなー」

 「アンタ基準の武器を誰が握れるって話よ」


 ですが“いいモノ”には変わりなく、

 

 剣は見世物のように壁に立てかけられているようです。


 (それはそれでアリな気もしますが)


 武器が使われず、評価されるのは平和な証です。


 「まっ、用事がすんだらさっさとどけな」

 「そうですね」


 気づけば後ろには、また列ができていました。


 少し不機嫌な龍ねえを引きずって、私は買い物に移ります。



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