第16話 絶叫中毒
下調べしたときはこんな怖いところじゃなかったのにな……」
いつもの元気な声とは違い、今にも泣きそうなか細い声で言う楓乃。
「怖がりの人は苦手だろうなこれは」
「私はもう無理かもしれない……」
「せっかくここまで来たのにか?」
「でもここを乗り越えたら晴天の青空と爽快に吹き付ける風が私を待ってる……!」
「そうそう、ポジティブ大事」
ビビッて縮こまっている楓乃の姿をあまり見ないからか、いつもより増して可愛く見える。
チラリと顔を覗かせては、子犬のような声を上げ、俺の方を見てはホッと安堵する。
不意にもドキッとしてしまう。
「もう少ししたら乗車口だからファイト」
「早く風を切りたい……心臓がヒュンってなる感覚を味わいたい……」
「普通の人は怖がるの逆だと思うんだけどな――」
どっちかというと、乗る方を怖がる人のほうが多い。なにせ、今日来ているテーマパークは日本でも屈指の絶叫アトラクションが集まる場所だ。
狂っている人が集まっていると言っても過言ではない。
どおりでカップルが少ないと思った。いるとしても、同じ匂いを感じる人たちばかりだし。
そんな事を考えながらも道に沿って進んでいくと、ついに日の光が見える。
「やっと天の恵みが私のもとへ……」
青空を見るや否や、天を仰ぐ楓乃。
「本番はこっからだからな」
「この高さからさらに上がってくんでしょ? テンションも爆上がりなんですけど!」
今いるのは地上から約20メートルほどのところ。
スタート地点から延びるレールを見ると、楓乃のテンションはみるみる上がっていく。
「どこからともなく聞こえてくる悲鳴……耳が気持ちいっ」
「確かに、興奮してくるな」
一般人が絶叫するということは、それほど怖い。つまり、俺たちにとっては楽しみでしかない。
考え方がサイコパスなんだよな、ここまでくると……
「お待たせしました~。ご乗車ください~」
スタッフの人のアナウンスでついに俺たちの待ちに待った瞬間が訪れる。
運よく、乗るのは最前列。
一番風を感じられ、爽快感が段違いの場所。絶叫好きなら順番を待ってまででも乗りたい場所だ。
一番後ろも、重力と遠心力を感じられて楽しいのだが、やはり最前線には勝てない。
「やばい、楽しみすぎて心臓爆発しそうなんだけど」
安全バーが降り、注意事項などがアナウンスされる中、楓乃の目は既にキマっていた。
「俺もドキドキしてきた……これ絶対楽しいぞ」
「目の前に広がるコースを見るだけで息切れしそうなんですけど!」
「呼吸を落ち着かせておかないとこれから風で息しにくくなるから死ぬぞ?」
「フゥ……もう大丈夫」
胸に手を当てて深呼吸をする楓乃だが、まるで変った様子はない。
さらに興奮しているような気もする。
俺も絶叫好きであまり人のことは言えないが、ここまでくると中毒と言ってもいいくらいだな。
彼氏に振られて病んでいる幼馴染を慰めたら更に病まれた もんすたー @monsteramuamu
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