第15話 苦手なもの

「ほら、ファストパスの列はこちらになりますよ」


 俺の手を引くと、行列の横を颯爽と走り出す楓乃。


「並んでる人を抜くとなんか罪悪感だな」


 嫉妬の視線を感じるのは気のせいではない。人を追い越す度に、痛い目線を向けられている。


 まぁ、ぶっちゃけそんな視線全く持って痛くないんだけど。

 逆に王様のような気分が心地よいまである。


 それにこっちは金を積んでるんだ。羨ましそうにこっちを見るなら同じくらいお金を積めばいいだけの話だ。


 ……この日の為だけに大金を使うバカは律儀に並んでいる人の中にはいないだろうけど。


「フゥ……最前列からの眺めはいいね~」


 グネグネとしている全長数百メートルはあるであろう列の始まりから見る光景は圧巻だった。

 人がゴミのようだとはまさにこのこと。


「これが金の力か……世の中できてやがるぜ」

「今日のために頑張ってバイトしてよかった……世界の頂点に立ったような気がする」

「言い過ぎなきもするけど、これを見たらその気持ちも分かる」


 アトラクションの行列も醍醐味の一種という人種がいるが、多分頭が湧いている。

 友達と喋ったり、恋人とイチャイチャする時間ができて楽しいとか……そんなの行列じゃなくてもできること。


 いちいち並んでする意味が分からない。

 さっさと乗って次のアトラクションを乗る方が効率がいいのに……これを楽しめない俺が悪いのか?


 なんか自分の性格がひねくれているんじゃないかと不安になってくる……いや、ひねくれてるのか。


「次来るときは貸し切りにしようね」

「宝くじに当たったら考えなくもないな」

「一生乗り回せるよそしたら!」

「そりゃ最高だな」


 夢のまた夢の話だろうけど……なんか楓乃なら当てそうな予感がするのは俺だけだろうか。


「ファストパスのチケットはスタッフの人に渡すだけだから楽なんだよね~」


 お願いします、と、人当たりのいい笑みを浮かべながらチケットを渡し、アトラクション内へと進んでいく俺達。


「雰囲気あるなー」

「コンセプトは襲ってくる幽霊から逃げる、的なやつだからね」

「通りでお化け屋敷みたいな薄暗さと内装だと思った」


 お化け屋敷よりかは行かないが、小さい子なら泣きそうなくらいのギミックがある。


 壁に掛けられている人物画が動き出したり、人形がピクリと動いたり、不気味なオブジェや音楽流れている。


 ちょっと待て……普通に説明してたけど、楓乃ってお化け屋敷苦手――


「理仁……私は理仁の背中に顔をうずくめてるから誘導よろしく……」


 ――だったよな。



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