第14話 天才かバカか

 最初に向かったのは、高さ60メートルまで登り、上下左右に回転しながら急降下するジェットコースター。


 準備運動がてらに軽めのモノから乗りたい気持ちもあるが、今日は初っ端から飛ばす。


 ここに来るまでに食べ過ぎたから吐かなきゃいいのだが……まあもう既に吐いている人も隣にいるんだけど。


「……結構並んでるな」

「週末だからね」


 乗ろうとしていたジェットコースターの最前列は、遥か遠くに見えている。

 最後尾にいる俺たちは180分待ち。


 色々乗ろうと計画を立てていたが、ここまで混んでいたら数か所削って優先順位を決めておいた方がよさそうだな。


「クックック……そう絶望した顔をするでない理仁」


 ニヤニヤと不吉な笑みを浮かべ、俺の肩を浮かぶ楓乃。


「急になんだよ」

「こんな列じゃ全部回れない~って思ってるでしょ」

「全部混んでるだろうからな、数か所は妥協する必要があるだろ」

「心配はご無用。私達にはこれがある!」


 ドヤ顔をしながら、スッと肩掛けバッグからとあるものを取り出す。


「私は抜かりない女だからね! よっ! 完璧な女!」


 手に持つのは、ファストパスチケットが数枚。それも全部、行く前に2人でマークしていた絶叫系のものだ。


「天才かお前――って、いつの間にこんなの手に入れたんだ?」


 今までずっと一緒に行動してたから、これを手に入れる方法なんてないはずだ。


「私がバスで吐きそうになってるとき、何してたと思う?」

「吐くのを我慢してた」

「違う! スマホでこのチケットを取っておいたの! んでトイレで吐くついでにチケットを発行してきたの!」

「スマホ見てたから酔ったんじゃないかお前」


 てっきり食べすぎで吐いたのかと思っていたが、わざわざ気を利かせていたのか。


 ごめんな……ただの食いしん坊だと思ってたよ……


「でも、お金かかるんじゃないか? そのチケット」


 行列を並ばないで乗れるチケットが無料なわけがない。


「それなりに掛かったよ? でもこれは今日の為に必要な投資だから心配はいらないよ」

「ちなみにいくら?」

「もう一回2人でここに来れるくらいかな」

「……さっきの訂正。お前はバカだ」


 今日に命掛けすぎだろ。


 こんなチケット取るなら、帰り際に2枚チケットを持って「また来ようね?」と言って欲しかったものだ。


 素直に嬉しい気持ちもあるが……大金をかけてると考えると、バカという言葉しか出てこない。

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