第13話 絶叫系には逆らえない
「まぁその完璧な足が拝めるのも、全部お前が可愛いからだよ」
不機嫌そうにプクリと頬を膨らませる楓乃の頭を、俺は優しく撫でると、
「……全然フォローになってないからそれ」
少しはにかみながらも、照れくさそうに俯く。
不意に見せてくる、幼馴染の時には見せなかった表情。
流石に可愛いが過ぎる。
今日の服装と相まって新鮮で、惚れ直しそうだ。
「せっかく褒め直してやったのに、可愛げがないやつめ」
かと言って、俺が顔を赤くするのも気まずくなりそうなので、照れ隠しに楓乃の頭をわちゃわちゃと撫でる。
「それは酷い! ならちゃんと可愛いって言って欲しいんですけど!」
「わがままか」
「私がわがままなことくらい理仁も知ってるじゃん」
「直してほしいところではあるけどな」
可愛いわがままなら許せるが、別れて俺にすがりよってはいきなり付き合って欲しいと言われるようなのはもうごめんだ。
理由を知らなかったとて、今思い出してもなんかムカつく。
………今はそんなことを考えても仕方がない。なんたって今日は楽しいデートだ。
不満なんていつでも言える。そうえば楓乃とはそうゆう関係だったな。
「ジェットコースター! 早く乗りにいこ!」
俺は後ろで不貞腐れている楓乃に手を伸ばす。
目の前に広がるのは、入場ゲートの向こう側にそびえ立つ絶叫アトラクション。
乗客の悲鳴や歓呼の声がそこら中へ響いている。
俺よりも、そびえ立つアトラクションに目を光らせた楓乃は、
「うん! 行こ!」
と、おまけついでに俺の手を握りながら歩き始める。
ロマンチックな展開になるはずなのに、なんでこう上手くいかないのだろうか。
思い通りに動かないやつだよ本当に。
入口のキャストに予約しておいた電子チケットを見せると、夢の扉は開かれた。
どこもかしこも、目に映るのは高層ビルよりも高いであろうアトラクション。
その光景に、楓乃同様俺も目を光らせる。
「何あれ! 人が真っ逆さまに落ちてるんだけど! 絶対あれ乗る」
「あそこの吐きそうなくらい回転するやつも絶対乗る」
「あとあと、宙吊りになって落っこちてるやつもヤバそう」
「見てるだけでよだれが出てくるな」
ゲートをくぐるや否や、アトラクションにだけ目が行くカップルなんて俺達以外誰もいないだろう。
本来、テーマパークはアトラクションもそうだが、それよりも一緒に居る誰かと楽しむことが目的。
それが彼女なら尚更だ。
アトラクションに乗って笑顔になる彼女を見て微笑んだり、美味しいものを一緒に食べてあーんし合ったり、手を繋いで、帰り際にはキスをしたりなんかして……
これが理想。
だが現実、というか俺たちは、絶叫アトラクションを笑顔で乗るというカオスなデート。
カップルらしいことをしたいという気持ちはもちろんある。それは楓乃も多分同じだ。
けど、やはり絶叫の前には逆らえない。
カップルというのを楽しむのは、アトラクションを堪能してからでも遅くはないだろう。
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