穏やかな終焉
久流井 淳
穏やかな終焉
星を数えていた。
一つ、また一つと輝きを放ち命を終えていく星を。近づいてくる星を。
ヒトからすれば永遠にさえ思えるだろう悠久の時を生きる星ですら、命の光を失い、
それが、今だった。
それに初めに気づいたのは、やはり、天文学者だった。観測データから得られる情報が、ある時を境に予想との差異が出て来たのだという。小さな違和感ていどだったのだが、しばらくすると銀河が衝突するという予測が急激に増え始めた。銀河の衝突はまれに起きる現象だ。それだけなら自然現象の一つと言える。だが、その予測は、自然と言うにはあまりにも数が多すぎた。
全世界で原因究明が行われ、そのかいあって判明した。
宇宙が収縮に転じたのだ、と。
あらゆる検証をして、そうであると断じたのだ、と。
宇宙政府のトップが、沈痛な面持ちで全世界に向け同時発表をした。
それまで、宇宙の姿には大きく三つの説が存在した。
一つは、ビッグフリーズ、ビッグリップという終わりを迎えるもの。はてしなく拡大を続けていき、いずれは重力をはじめとする引きあう力すら引きちぎった結果、星の誕生も無くなり、すべてバラバラになって死に絶える。
二つ目は、終焉などなく、永遠に現在と同じ状態であるというもの。
三つ目は、ビッグクランチ。今は膨張を続ける宇宙も、いずれその力が失われ収縮に転じる。その結果起こるのは、ビッグバンの逆。全てが一つに戻って、宇宙が生まれる前の姿に戻るというものだ。
信じたくはないが、三つ目のビッグクランチがおこり、それは避けられないものなのだと、長期にわたるあらゆる研究検証の結果断定された。そして、世界がゼロに戻るXデーも研究結果をもとに提示された。
その発表から何億という年月が流れた。その日については何度か修正が行われたのだが、初報との誤差は百年ほどだった。
宇宙規模であればゆっくりと、ヒトからすれば急激に宇宙は収縮をしている。そして、収縮速度は日毎に増している。何十億年をかけて広がった宇宙は、同じような年月をかけて収縮しているが、その収縮速度はすでに、コンマ数秒の間に太陽系すべてを豆粒より小さく圧し潰してしまうほどだった。
あの日以来、その時をどう迎えるかについて様々な考えが成された。
今、自分がいるのは、かつて太陽系が存在した空間、太陽の墓場とも呼ばれる場所だ。
地球で生まれたヒトが宇宙へ飛び出したのも、生き残るためだった。
太陽の寿命が近づくと膨張が始まり、やがて地球すら飲み込んでしまう。飲み込まれる前に、地球上では生きられなくなる。その前に、外部へ避難することにしたというわけだ。その時も、地球と運命を共にすることを選んだ人達もいたという。歴史教科書の一文に書いてあるだけだったのだが、今、ここに集った自分たちも、彼らと変わらないのだろう。
「最期の時は、わたしたちの故郷でむかえませんか?」そんな終末旅行ツアーの広告に惹かれて集まったのが、同じ宇宙船に乗っている人達なのだから。
太陽も地球も、もはやみるかげもない。かつて太陽と呼ばれ地球と生命を育んだその星は、寿命を終えると冷え切った小さな暗い星へと姿を変え、すいぶんと前に他の星の重力に捕まり、飲み込まれた。太陽系を構成した全てが無くなっているが、かつて地球が最期を迎えた座標は分かっている。
その座標に何隻もの宇宙船が並び、その時を待つ。
少しでも楽にその時を迎えるためにと、肉体はコールドスリープで精神は電脳空間で過ごす者もあれば、最期の時くらい自身の肉体で過ごし肉眼で見ていたいという者もいる。両方の希望に添えるよう、宇宙船は設計されていた。どちらにせよ同じだ。肉体で過ごしていようと、宇宙船の破損に気づく間もなく飲み込まれいるのだから。
電脳空間で大切な人の手を握り、顔を見る。
この瞬間死ぬのは決まっている。逃れる術などありはしない。ここで死ぬ運命を受け入れているから、恐怖はない。
最期に見たのは、大切な人の穏やかな表情。
それだけでいいよ。
穏やかな終焉 久流井 淳 @Kurui_Jun
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