とある騎士の独白

俺は幼いころに両親に捨てられた。


裏通りで捨てられた衣服や食料を漁り、その日暮らしの日々を過ごしていた。


そんなある日、俺は綺麗な女の子に拾われた。


王女だと名乗った彼女は周りの反対を押し切り、俺を城へと連れてきてくれた。


いきなり王城へと連れてこられた俺はそのまま騎士の下働きとして雇われた。


さんざん雑用でこき使われたが、寝る場所も食う物もあったから別に苦にならなかった。


時々貴族の騎士からの鬱憤晴らしで剣の相手をさせられることも有った。


向こうとしてはただ俺を殴ろうとしていただけだろうが、それでも体裁を持たせるために俺に木刀を渡してきた。それのおかげで剣の扱いを独学で学んでいった。


雑用によって筋力と体力がつき、鬱憤晴らしという名の鍛錬によって剣の扱いを学んだ。


そんな生活が何年か過ぎれば、俺の実力も十分ついてくる。


いつからだろうか。鬱憤晴らしのはずだった鍛錬が、ちゃんとした鍛錬になったのは。


いつからだろうか。見下していた周りの目が変わり、友ができたのは。


いつからだろうか。ただの下働きの俺が認められていたのは。


そんな中、俺を拾った王女の騎士が選ばれるという話が出た。


あの王女には拾ってもらった恩がある。騎士となれるのならばなりたかった。


だが、俺はもともと平民の孤児。王女の騎士になるとは思えなかった。


しかし、そんな俺を王女は騎士へと選んだ。


そんな王女に反対の意見が周囲から言われる。当然だ、王女の騎士とあればしっかりとした家格が必要になるはずだ。


だがそんな意見を王女は聞かなかった。この当時王女の父である国王は暴君であり、その不満が国民の中で渦巻いていたからだ。


そんな中で平民を騎士として選べば、少しはその不満が落ち着くかもしれない。そういった考えの元でもあったらしい。


まあ、そんな理由なんて俺にはどうでもよかった。


あの時、地獄の中でも歯を食いしばって生きていた。そんな地獄から拾い上げてくれたんだ。そんな恩有る人を護る騎士になれるのならば命を懸ける。


そして王女の騎士となり、数年が経過した。


その間、王女は父である国王の恐怖政治を何とかしようと奮闘していたが、うまくいくことはなかった。


それどころか何度か彼女の命を狙う暗殺者にすら襲い掛かってきた。


まあ、そこらへんの奴らはすべて返り討ちにしたのだが、それでも彼女は止まらなかった。


そして彼女が止まらないのならば俺も止まる必要がなかった。常に彼女を守り続けていた。


そんなある日、突如彼女に解雇を告げられた。


なぜかわからなかった。自分に不備があったのか。問いかけても彼女はただ謝るだけだった。


その時知らなかったのだが、国民の現王政に対する不満はどうしようもないほど溜まっていたらしく、いつ反乱がおきてもおかしくなかったらしい。


その気配を感じた彼女は自分を逃がすために王族の傲慢によって解雇されたという形で自分を逃がしたかったようだ。


そんなことも知らず、唐突に解雇された俺は落ち込みながら王城を後にした。


それからしばらくしてから俺に声をかける者がいた。それが反乱軍の幹部だった。


現王政の被害者でもある俺を反乱軍に加入させたかったらしい。しかし王女の奮闘を知っている俺はそれを拒否した。


するとその幹部は俺を王家の犬だと罵倒しそのまま立ち去った。


そこで俺は国民に対する王政への不満の強さを知った。そして王女がなぜ俺を解雇したのかも。


彼女を助けたかった。しかし、ここまで膨れ上がった不満を解消することはできない。反乱を止めることはできないだろう。


だから彼女を逃がそう。そう考えた。


反乱軍が王城へと突入する。


そんな混乱の中、俺も王城の中へと侵入して王女を探す。


何年も過ごしていた王城だ。入ることを許可されていない場所もあったが、勝手知ったるなんたらというやつだ。俺は王女がいそうな場所を探す。


そして王女を見つけた。彼女は少し奥にある植物園の中で優雅に過ごしていた。


俺の姿を見た彼女は最初驚いたような表情を浮かべたがすぐに笑顔へと変わった。


そして彼女はぽつりぽつりと語りだす。


彼女がなにを考え、何をしたかったか。


それはまるで遺言だった。聞きたくなかった。だから彼女に手を差し出し、逃げ出そうと告げた。


しかし彼女はそれを拒否した。これは王家の罪だから、と王族である自分の罪でもあると。


悪いのはすべて父である国王だ。彼女はそれをどうにかしようと奮闘していた。


しかし国民には関係ないのだろう。不満の行き先は王家だ。そこに属する彼女も例外ではない。


何もできない。それが歯がゆかった。恩有る彼女を助けたいのに助けることができない。


そんな彼女から最後の命令が下された。


自分を殺せと。俺の手で恩有る彼女を殺せと命令された。


俺は依然解雇された。だから従う必要はないと突っぱねた。しかし、そこを王族としての命令へと変えた。


拒否したかった。さらうように彼女を連れていきたかった。


だがそれを時間が許さなかった。反乱軍の足音が聞こえてくる。


このまま彼女を生かしておくと彼女はひどい目に遭わされるだろう。せめて彼女の意のままに。高潔なままに。


俺の持つ剣がゆっくりと彼女の胸を貫く。


せめて穏やかに死ねるように。痛みが少ないように。


彼女の目が俺をじっと見る。俺の目に宿る光が好きだと言ってくれた。


俺には見えない光。俺の中にある光は彼女だった。そんな光が失われる。


もしかしたらそれと共に俺の目に宿る光も消えるかもしれない。それでもいい。それを彼女が知ることはないから。


静かに息を引き取り、力が抜けた彼女の体を俺は抱きしめる。


剣を体から抜き、鞘へと納めて彼女の体を横抱きに抱え上げる。そこに反乱軍が押し寄せてきた。


俺の腕の中で息絶えた彼女を見て反乱軍達の顔に驚きの表情が浮かぶ。


しかし、すぐに気を取り直し、彼女の死体を引き渡せと言ってきた。


それを俺は拒否する。怒りに顔をゆがめたやつらが強引に奪い去ろうとしたがそれを斬り伏せた。


国王や他の王族貴族がどうなったかは知らない。興味もない。


だが彼女だけは。彼女だけは貴様らの好きなようにさせるつもりはない。


俺の怒気と殺気に怖気づいた反乱軍のほうへと歩き出すと道を開けさせる。


穏やかな笑みを浮かべた彼女の遺体を抱き、俺は王城を後にする。


もうここに戻ってくることはない。あとは彼女が穏やかに眠れる場所を探し、そこで共に過ごそう。


私が眠り、また会える日が来るまで…。


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とある人物の独白 黒井隼人 @batukuro

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