今となっては、遠吠え

那須茄子

遠吠え

 当たり前だと思ってたんだ。

 君が隣に居るのは当然だと。


 季節がひっくり返ろうが、月日が捲られようが、ずっとずっと二人は一緒であるはずだった。

 お揃いのキーホルダーのように、二つで一対を成すかたちはまさに、僕たちと同じだ。


 あの過去を、疑いもしなかった。いや、疑いようがなかった。

 君が居なくなるなんて、フィクションじみてたから。


 

 もっともっと君の話を聞きたかった。僕の知っていることと言えば、君の偽りの名前と姿だけ。

 多分君は、わざとそうしたのだろう。自分が深い人間になってはいけないと。もうすぐ居なくなるからと。


 けど、僕はずっと前から、君が好きになってたから意味ないんだ。とっくに引き際なんて曖昧になってたよ。

 だったら言っとけば、良かったんだ。言葉選びに慎重になりすぎて、臆病になってた。


 春から夏になるまでに言えたら良かった。


 君の白い手を取って。

 

 ただ「好きだ」と一言。 

 恥も格好も捨てて、どこまでも愛を吠えたてていれば。


 少しは、季節も鬱陶しがりながら揺らいで霞み。


 君も表面は仕方なそうに.....本当は嬉しそうで、きっと君のことだからこう言う。


『私は大がつく大好きの方だよ』と。

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