第10話 最終話

 ~数ヶ月後~


「マヤさん時間を空けて欲しいのだけどいいかなー?」


「いいいですよ。何かわからない問題がありましたか?」


「いや、違う。違わないが、違う。昼休みに体育館まで来てくれ欲しい」


「キャァーーーーーー!!」


 何?女生徒が黄色い声を上げた。


「ここではダメですか?」


「う~ん。できるなら体育館がいいな~」


「そうですか。わかりました」


「ごめんね」


「ねえクララ~体育館に一緒に来てくれない!」


「ダメに決まってるじゃない!!」


「どうして?」


「あなたユートリから体育館に来てくれと言われたのでしょ」


「そうなの。でも一人で来てくれと言ってなかったわ」


「バカね。それは一人で来て欲しいという意味よ」


「あれ?でもなぜ体育館だと知ってるの」


「みんな知ってるわよー」


「えーどうして?」


「女子の顔を見てみなさい。その日が来たという覚悟の顔をしているでしょ!」


「わからないわ?」


「あなたが鈍感なのよ。いいから早く体育館に行きなさい!!」


 アカデミー附属高校では告白は体育館ですることが恒例になっていたから、ユートリがマヤを体育館に誘ったため女子は自分の芽がなくなったことを悟った。




「ユートリさん、あの~何の用事でしょうか?」


「そのー、あのー、つまり、それが~、え~と」


「こら!ユートリ早く言え!!あんたが言わないなら私が代わりに言うよ!」


 クララが大声で叫んだ。


 あれ!


 体育館の換気用の下窓からクラスの女子が覗いている。


 私に興味を示す男子はいなかったから男子は来てないとおもったけど、女子の後からこそっと見ている。きっと賭けの対象になってるわ。


「あの。マヤさん。付き合ってください。できれば結婚してください」


(え、なに、どうしたの、ユートリ狂ったの?)


「あのー。ユートリさん?相手を間違ってませんか?」


「間違ってません。マヤさんです。結婚してくれますか?」


「私でいいのですか?」


「マヤさんがいいのです!!」


「私の顔知らないですよね」


「顔なんて関係ありません。僕はあなたの内面に惚れたのです」


「醜いですよ。前に住んでいたところではあまりにも醜いので小さいときから仮面をしていたのですよ」


「関係ありません。あなたがどんな化け物であっても僕の気持ちは変わりません」


 私はどうしても信じられない。もし、信じて『冗談だよ』とか言われたらもう生きていけない。



 体育館の下窓には他のクラスからも生徒が集まって覗いている。同じクラスの男子も集まっている。『史上最大の余興だぞー』という声が聞こえた。


「おい!知ってるか。ユートリがマヤに告白しているらしいぞ!!」


「あの仮面女か?」


「ああ、俺はないな!」


「俺だってないぞ!!」


「あれはないよな!」


「豚の仮面だぞ!!あのセンスがおかしいだろう。せめて『おかめ』ぐらいにしてほしいぞ」


「ユートリがゲテモノ趣味とはなあ」


「いや、ゲテモノ以下だろ」


「スタイルはいいんだがなあ。あの仮面の下はきっと酷いブスだぞ」


「知ってる。本人も言ってた。前住んでいた国ではあまりにも醜いから仮面をつけさせられていたらしいぞ」


「面白いから行こうぜ。今年の大ハプニングだな」


「おいおい、人がいっぱいだぞ」


「教師まで来てるぞ」


「全クラスから集まったみたいだぞ」


「俺はこんな余興にこれ以上我慢できん。小窓から見るなんてもういい、体育館の中に入る!!」


「俺だって入るぞ!!」



 告白のとき、他の者は体育館に入らないのが暗黙の了解だったが、とうとうゾロゾロと体育館の中に入ってきた。ユートリとマヤを囲むように生徒と教師が見ている。




 女子はマヤを応援していた。


 世の中の人はみな自分が美しいと思っているナルシスト以外は自分に自信がないものだ。自分の顔に自信のあるものなど数える程しかいない。だから女子はマヤの気持ちがわかった。


 男子は面白い余興と思って見ていた。



「ユートリ様本当に私でいいのですか。きっと後悔しますよ。それに他の男子にからかわれますよ」


「それでもいい。僕は真剣にあなたが好きだ」


「からかってませんか?」


「どうしてそんなことをする必要がある?」


「だって、私そんなこと言われたことありません」


 嬉しいのだけど、嘘ではないのかという疑いがどうしても頭から離れない。


「ねえ、マヤの立っている床が濡れてるわよ」


「そうよね。嬉しいよね。でも嘘だったら悲しいよね。苦しいよね。わかるわ。葛藤するものね」


「あら、あなたの立っている床も濡れてるわよ」


「あなただって濡れてるじゃないのよ」


「うまくいくといいね」




「本当の本当に私でいいのですか?日本では知らない人がいないほど醜い顔としてさらされてきました」


「マヤのいた国が君をどのように扱ったかは知らないが、僕はマヤを顔で判断しているわけではない。心配しなくても君の心は美しい。そんな君を僕が好きになった。それでいいじゃないか」


「ウーーーーッ……」


 返事をしたくても声がでない。


 だからコクリと頷いた。


「それはOKということかい?」


 もう一度頷いた。


『んーーーーーーーーーーーーー』


 我慢していたものが切れてしまった。私はとうとう声にならない声を出して泣いてしまった。


 私もずっとユートリが気になっていた。でも私には人を好きになる資格がない。そんな私を化け物でもいいと言ってくれた彼を信じよう。


 女子の声援する声がする。一緒に泣いてくれている。


「マヤよかったね」


「幸せになるんだよ」


「ユートリかっこいい。見直したよ」




 男子生徒は


「あれはないよなあ。論外だろ~」


「豚仮面女はないよなあ。なんであんなのに告白するかな~」


「ユートリもバカだよなあ。あいつならいくらでもいい女を選び放題なのに!」



 女子生徒は男子生徒に


「あんたらは、顔で人を判断するんかい!」


「年取ったらみんなシワシワになるんだよ!!」


「男子っていやよねー。顔で人を判断するんだから」


「私誠実な人がいいわ」


 体育館ではマヤが肩をふるわせて大声で泣いていた。


 ユートリがゆっくり歩いてマヤを抱き寄せる。


 マヤの涙で緩んでいた紐ゴムがずり落ちた。



「ウオーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!」


「イヤーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!」


「ガーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!!!!!!」


「俺、バカだった!!」


「お前だけじゃない。俺も大バカだ!!」


「俺、人生誤ったーーーーー!!」


「ハーーーーー!!」


「俺はアホだーーーーーー!!!」



 男子生徒の叫び声のあとは落胆の声があちらこちらから出ている。


 ショックでその場にへたれ込む男子も多い。




 そこには誰も見たことのない超美少女がいた。


 この学校の誰も寄せ付けない気品にあふれ、しかも嫌みではないとびきりの超美人がいた。


 そんな超美人が声を出して涙を流している。




 男子生徒の敗北感は崖の上から真っ逆さまに落とされたほど衝撃的だった。誰にでもチャンスがあっただけに立ち直るのに時間がかかった。


 ユートリはまだ気づいていない。それは抱いたままだからまだ顔を見ていないのだ。


 体育館の周りが大騒ぎになっているが、ユートリは他の誰よりも遅れてマヤの顔を見て腰を抜かした。


 マヤは仮面を外した。長年の被っていたため朽ちたからだ。

 マヤは仮面を夜店で買ったため耐久性に難があった。

 国家最高研究機関では数々の発明をした。どれもこれもすばらしいものだが元々は仮面のためにしたことだ。

 まず、消臭剤。これは同じ仮面を被っているため臭いが酷くなってきたため発明したものだ。いまではコンパクトな吹きつけ式まで出ている。

 接着剤はヒビが入ってきた仮面をなんとかしたくて発明した。同じ材料からゴムも作った。

 洗剤は仮面の汚れを落とすためだ。だが無残にも仮面は割れた。太陽に当たっているうちに仮面の強度は脆くなってしまった。


 私の仮面は外れた。木を彫って作ろうとしたがユートリに止められた。今でもジロジロ見られるけどユートリが側にいるから顔のことでいじめられることはない。最近では私の親衛隊ができたらしい。近隣の学校から私を見に来るので守ってくれている。不良さんたちもお手紙をくれるけど全部ユートリが取り上げる。ありがたい。毎日300通くらいくるらしい。きっと私が魔法を使えることがわかったから果たし状だろう。




 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 ~1年後~


「国王様どうしましょうか?マヤ様のことが噂になって他国からも勝手に視察団がきてます。もう各省庁は収集がつかないことになってます」


 話が終わると、ゴルドンは段ボールの束を国王の前に置いた。


「顔のことがバレる前からマヤ様は数々の発明で有名でしたが、仮面を取ったことで堂々と視察団という名の王子や大統領の子息を送ってきました。実体は顔を見に来たようですが、顔を見た他国の王子がゾロゾロ来て面会申込みをしているため、外交省はすでにパンクしています。早急に結婚式を行なわないと国が混乱します」


「しょうがないな。マヤ様をもう少し自由にしてあげたかったが、来週結婚式をする。コビッチに準備させてくれ」


 マヤとユートリは結婚した。それはそれは素晴らしい結婚式だった。コビッチは完璧といえる飾り付けをした。だがその飾りもマヤの美しさ際立てさせる脇役だった。


 世界中の来賓が新婦の美しさに見とれていた。


 女性でさえ見とれてしまう美しさだった。


 彼女の後方では宰相のコビッチがまた鼻提灯でコックリコックリしている。


 彼はこの結婚式の手配の全てを寝ずに行ったのだ。ゴルドンも今回はしょうがないと許してくれた。


 ~5年後~

 ジャバルは国王の座をあっさりとユートリに譲った。コビッチが完全に引退したため、彼の代わりにセレストと供にマヤを影から支える後ろ盾となることにした。


 ユートリが戴冠した後、国民は知性を持ち合わせ数々の発明をし、宮廷魔道士に勝る魔力を持ち、おごることもなく国民を大切にするマヤ王妃のことを、その美しさも相俟って『キロハルの女神』とあがめた。


「Fin」


<最後まで見ていただきありがとうございました>

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電車で寝てしまったら、いつの間にか異世界の馬車に乗っていた。日本では醜いと言われて仮面を付けていた。そんな私を好きだと言ってくれる人がいた。 まとゆく @sumi6479

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