第5話 魔法


「マヤ・アサオカ様がいらっしゃいました」


「マヤ様ですか。いい名ですな。こちらへ案内してくれ」


 私は広い部屋の真ん中で食事をしている家族の輪に案内される子羊だ。


「私の前にいらして」


 セレスト様が『おいでおいで』をしている。


「まあ、よく似合ってますわ」


「かあさま、私はこんなお面女に興味はありません」


「ユートリ!!そんなこと言って失礼ですよ!!もう少し人に対して言葉を選びなさい!!」


「おい女、お前は学生だったんだってな。何年生だ!!」


「あ、はい、2年生でした」


「俺と一緒だな。俺の学校は王立アカデミー附属高校だ。この国で一番頭がいい者が通う学校の中で俺が入学から1番を続けている」


「すごいですね。私はそこまでいい成績ではありませんでした」


「そうだろう。俺は賢い。まあ解らない問題があったら教えてやってもいいぞ」


「はい、ありがとうございます。でも私は学校には……」


「マヤ様には明日からアカデミー附属高校に編入してもらいましょうよ」


「あの~奥様付きのメイドをするのではないですか?」


「お会いしたときはそのつもりでしたが、それではあなたはもったいない」


「おお、そうだな。それがいい。ゴルドン、制服の用意をしてくれ」


「そう言われると思いましてすでに準備しています」


「さすがゴルドンだな。影で活動するのはいいが、お前やっぱり現役復帰しないか?」


「ははは、コビッチに経験させないとこの国の将来が心配ですから、このまま執事をさせていただきます」


「そうか、残念だ。お前が現役復帰してくれたら私服を肥やす貴族をバンバン潰してくれるんだがなあ。コビッチはぬるいからなあ」


「まあまあ二人とも、コビッチもがんばってるから、それぐらいにしてあげて。それよりマヤ様わからないことばかりでしょうが、ゆっくり慣れてください。分からないことがあったら私に直接言ってください。バカ息子は気にしないでね」


「セレスト様ありがとうございます。とても助かります。でも私は働かないとお金を稼ぐことができません。会ったばかりの方に居候をするわけにはいきません」


ジャバル様はユートリ様の頭をグーで思い切り殴ってから

「失礼なことを言う馬鹿息子と一緒に学校に通っていただければそれが給金です」


「ジャバル様そんなのでいいのですか?」


「いや、むしろお願いしたい」


 訳がわからない理由だけど仕事が学校に行くこととはありがたい。本当にいいのだろうか?



~~~~~~~~~~~~~~~~~~



「マヤ様おはようございます」


「あ、はい、おはようございます」


「これにお着替えください」


「あの~、あなたは?」


「今日からマヤ様付きとなったメリナと申します」


「あ、はい、よろしくお願いします」


 アカデミー附属高校に通うことになった。油断はしない。いつも通り仮面を付けて学校に行く。


 私はユートリの後ろに付いて歩く。


「お前、仮面を外さないのか。そんな面をつけていたら人が見るだろう。目立ちたいのか?」

ユートリがぶっきらぼうに話す。


「いいえ、目立ちたくないのです」


「いや、むしろ目立ってるぞ」


「ユートリ様よ!!」


「いつ見てもかっこいいわね!」


「あの後ろにいる面白い仮面をつけてる子は誰?」


「なかなか愉快ですわね」


「いいのではないの個性があって」


「ここは変わった子が多いですからね」


 私を見る人は多いけど、日本のように奇異な目で見られることはなかった。


「今日から転校してきたマヤ・アサオカさんです。マヤさんは極度の恥ずかしがり屋なので仮面について誹謗中傷をしないようジャバル様から通知がきています。みなさんもそのように対処願います」


「では、今日の1時限目は魔法学について学びます。危ないので外に出てください」 


 魔法学?聞いたことないよ。


 ユートリとは同じクラスだった。


「ユートリさん何でもいいから魔法を使ってください。くれぐれも以前のように調子にのって校舎に向けて発射しないでください」


 魔法?アニメでしか見たことないよ。私できないよ。


「魔力の清泉たる神よ、我に与えよ、ファイヤー」


 フワッと出た火の玉がゆるゆると目前3メートル落ち葉の塊に落ちた。当然ながら火がつく。


「ウオオオーーーー」


 歓声があがる。


「キャーーーー。ユートリー。カッコイイーーーー」


「え、え!あれでおしまい?魔法ってあんなもの。あれならライターでいいんじゃない?」


「すばらしいですね。ユートリさんの魔法は今日もキレキレですね。皆さんも練習してください」


 各生徒が落ち葉にさらにファイヤーを放つ。いやそれマッチと名前を変えた方がいいのでは?


 この程度がこの世界の魔法であるのなら魔法が使えなくても私は火薬で代用しよう。火山があるから硫黄もあるだろう。


「では、そこでモジモジしているマヤさん、ユートリさんの指名です。やってみてください。初めてですからできなくても恥ずかしくありませんよ」


「気にするな。できなくてもいいぞ。あとで俺が教えてやる」


「え~と、なんだっけ。あがってしまってど忘れした。できるわけないよ。だって魔法のない世界から来たんだもの」


「頑張れ!」


「ファイト、マヤちゃん!」


 前の世界とは違ってみんなが応援してくれる。もういいや。できなくても失うものは元々ないんだもの。


「……ファイヤー」


「ズドーーーーーーーーーーーーーーン!!!!!」


 枯れ葉の山がなくなって後ろの木が根こそぎ黒こげに燃えた。

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