第4話 仮面の下

 私はゴルドンさんに案内されて広い部屋を与えられた。とても憶えられそうにないくらい沢山の部屋がある。王宮という表現がふさわしい。


「食事はこの部屋の正面前のローカの突き当たりの部屋でございます。18時になったら来てください」


「はい、前の部屋ですね」


 時計も立派な鳩時計だ。


 ゴルドンさんが質問してきた。


「お名前を伺っておりませんでした」


「あ、そうですね。急展開で慌ててました。麻丘麻耶といいます」


「マヤ様ですか。かわった名字ですな」


「マヤが名前でアサオカが名字です」


「マヤ・アサオカ様ですか。よいお名前だ」


「恥ずかしいです」


「それはそうとこちらにお着替えください」


「あのー。これはメイド服ではありませんよ」


「はい、旦那様がこちらに着替えていただきお食事に来ていただくよう申し付かっております」


「あのー。仮面を着けたままで失礼ではないでしょうか」


「旦那様がいいと言われてます。環境に慣れて外す気になったら外されたらいいですよ。長旅でお疲れでしょう。食事まで時間がありますからお風呂に入られてゆっくり休まれるといいですよ。一応入り口に護衛の者を置いておきます。分からないことがあれば彼らに聞いてください」


部屋は広々として壁紙は使っていないようで全部手書きだ。


「あー。疲れた。なんか急展開過ぎて頭が混乱したわ。でもみなさん優しい人でよかった。これまでこんなに親切にしてもらったことなどなかった。日本とは違う国だし、たぶん違う世界だ。でもここでよかった」


 私は油断してしまった。セーラー服のままベットに横になったらそのまま寝入ってしまった。


「あら、食事の時間になりましたけどマヤ様が来られませんね」


「そうだな。様子を見に行くか?」


「私も行きますわ。女性の部屋に殿方が一人で伺ってはいけませんわ」


「ゴルドンも一緒だから男二人だぞ」


「なおさらいけませんわ」


「かあさん。仮面女なんか誰も襲わないよ。ははは」


「あなたは黙って食事をしていなさ!!」


「はい……」


ゴルドンが護衛に話しかける。


「マヤ様に何か変わったことはないか?」


「はっ!まだ一度も出られておられません」


 ゴルドンは執事兼護衛なのでジャバルとセレストの側にいる。


「ギーーーーー」


 ゴルドンがドアを開ける。


「あらら疲れて着替えずに寝てしまったのね。まあかわいい靴下だこと。それにプリーツスカートの折り目がこんなに綺麗に出せるなんてどうしたらできるのかしら。前襟はV字、後ろ襟は四角で青色よ。この縫製はすばらしいわ。どうしたらこんなに綺麗に縫えるのかしら」


「奥様、女性だから服装に興味があるのはよくわかりますが、そこはまたの機会にしてもらえるといいですな」


「あら、わたくしとしたことが、ごめんなさ~い」


「まあ、今度マヤ殿とゆっくり洋服について語ると言い。それより仮面が少しずれているだろ。見てごらん」


「あらまあ仮面がずれて、顔が全部隠せてないわよ」


ジャバルは半分ズレた仮面をそっと持ち上げた。


「どうだ。すごいだろ」


「そうね。これは……こんな桁外れなのは見たことないわ。ユートリはどうするつもりかしら?」


「こ、こ、これはーーー!!」


「ゴルドン!!声が大きい!!」


「はっ!申し訳ありません。いや~ビックリしました。これは……むしろ仮面を外させない方がいいですね。大騒ぎになりますよ」


「ビックリしたか!俺も初めて見たときは狼狽ろうばいしたぞ。他の客が全員変装した俺の護衛だったから口止めできたが、もし一般人がいたら大事だったぞ」


「やつらは儂の部下ですが……儂にも報告がありませんでした。いい判断です。もしこのことを漏らすようでしたら死罪ですな」


「それだけではないんだ。これを見てごらん。カバンと筆記具の精巧な作りがすばらしいだろう。これは要研究対象だ。だが私とゴルドンが一番驚いたのは彼女の持っていた書籍とノートだ」


「これは……読めませんわ。何語でしょうか?こちらのノートに書いてあるのは微分と積分ですね。でも簡単に解いてますね。


 私はこれでも王立アカデミーを首席で卒業したのですよ。自信なくなりましたわ。


 これは……私もよくわからないわ。これは教授レベルでないと解けない問題だわね。


 この実験図は極秘に進めている植物からアルコールを抽出する方法よ。とんでもない子ね。


あとでゴルドンに迎えさせましょうか?」



「そうだな。我々が来たことを知ったら慌てるだろうからな」


「ゴルドンお願いね」


「はい、承知しました」




「トントン」


「マヤ様お迎えに来ました」


ドアの向こうでゴルドンさんの声がする。


「あー!!寝てた!!!」


 仮面がずり下がっている。見られなくて良かったわ。


「すぐ着替えます!!!」




 用意された白いドレスに着替え終わった頃にゴルドンさんが再び迎えに来た。広い廊下を渡る。ピカピカだ。すれ違うメイドがゴルドンさんに頭を下げる。


 正面からどこかの貴族であろうか偉そうに真ん中を歩いて、廻りには部下らしい者を引き連れていた人が端に寄り深々と頭を下げ


「これはゴルドン様どちらへ行かれるのでしょうか」


「これから食事です。ヨドン殿あなたはもう少し自重したほうがいいですよ。悪い噂もありますよ」


「それは私へのネタミで悪い噂を流す悪いやつがいるのですよ。ところでそちらの面白い仮面をした者は誰ですかな?何かの余興ですかな?それともゴルドン様の新しいチョメチョメですかな」


「それをゲスの勘ぐりと言うのですよ。では急ぐので失礼」


「ふん、国王の信頼をいいことに引退したというのに未だにウロウロしやがって!」




「ヨドンの尻尾は掴んだか?」


「は!!不正蓄財の場所と証拠は全て押さえました」


「そうか、では明日監察官にヨドン侯爵を逮捕させろ」


「承知しました。あとはコビッチ様にまかせることにします」


「ああ、それでいい。頼むぞ」


ゴルドンさんの周囲にはいつのまにか数名の人達が集まり指示を受けていた。ゴルドンさんってただの執事ではなかったんだ!



 扉を開けると雪国……ではなく……広い部屋に豪華な食事とメイドが何人いるの?数え切れない。

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