第17話 かつての名コンビ

<三人称視点>


「ア~ルス君っ!」

「わわっ!」


 廊下を歩くアルスの後ろから、セリカがひょっこりと姿を現す。


 ふいな登場にびっくりしたのか、アルスは足を滑らせた。

 そして、あろうことか──


「わぁお」

「……!?」


 セリカを押し倒したような態勢となり、胸元へ頭を突っ込ませた。

 

「ずいぶん積極的だね」

「~~~っ!?」


 その柔らかさと息苦しさに、アルスはあわてて顔を上げる。

 そのまま、その場で平謝りした。


「ご、ごめんなさい! 僕また!」

「ううん、お姉さんの方がごめんね。急に声をかけちゃって」

「い、いえ……」

 

 まだ若干残る柔らかな感触と、甘い香りにドキドキするアルス。

 そんな彼の腕を、今度は後ろからガッと誰かが掴む。


「アルス、鼻の下伸ばし過ぎ」

「ミ、ミリア!」


 ほおをぷくっとふくらませたミリアだ。

 彼女のじっとした視線は、アルスの次にセリカへ向く。


「セリカもイタズラが過ぎると思う」

「えーそんなことないよ。みんなで仲良くしようよ」

「いいけど……でも」


 ミリアは、アルスへ絡めた腕力をギュっと強める。


「アルスと一番仲良しなのは私」

「ちょっ、ミ、ミリアさん!?」


 その引き寄せる力が強かったのか、アルスの腕には、またも柔らかい胸元の感触がダイレクトに伝わる。

 この数秒で二人の感触を味わったアルスは、ドキドキするどころではない。


「ハァ、何やってるんだか」


 後ろから歩いてきたルージュも、この状況にはお手上げのようだ。


 ──と、そんないつもの彼女らの前に、新たな人影が現れる。


「相変わらずだね。第三小隊」

「え?」


 アルスが見上げた先にいたのは、ボーイッシュな女の子。


 勝ち気そうな顔つきに、明るい金色のショートヘア。

 セリカの茶髪のショートヘアとは、どことなく似ている感じもする。

 隊員制服を着ていることから、どこかの隊員だろう。


 そんな女の子は、床に座っているアルスにぐーっと顔を近づけてくる。


「お。君が噂の男の子か」

「は、はい」

「私は第小隊隊長『アルカ』だ」

「え、あ、隊長さん!?」


 こんな失礼な姿はダメだ、とアルスは急いで立ち上がる。

 そのまま一礼しながら、一応自己紹介をする。


「第三小隊のアルスです! よろしくお願いします!」

「おー元気がいいね。それと──」


 ふっと口元を緩めたアルカは、いたずらっぽく言葉にする。


「噂通りスケベそうだ」

「す、すけ……!?」

「ははっ、まあいいや」


 一旦満足したのか、アルカはセリカへ目を向けた。


「伝言だよ、セリカ」

「なにかな」


 しかし、セリカはどこか素っ気ない返事を返す。

 隣にいたアルスは違和感を覚えた。


「……!」


(あれ? セリカさんならもっと『どうしたのかなぁ』って感じだと思ったのに。なんだか態度が冷たい……?)


 そんな気は知れず、アルカとセリカは会話を続ける。


「この後、緊急で隊長会議。場所はいつものとこ」

「わかった。伝言ありがとう」

「うん、じゃ」


 事務連絡だけを済ませた両者は、その場で別れる。

 行き場所は同じのはずだが、一緒に行くことはないようだ。


 セリカはくるりと第三小隊の方へ振り返り、一言告げる。


「てことで、お姉さんちょっと行ってくるね。みんないい子で待ってるように。特にアルス君っ」

「は、はあ……」


 そうして、第四小隊隊長アルカとは距離を置いて歩いて行った。

 そんな様子に、ルージュとミリアが言葉をこぼす。


「相変わらずね」

「うん。そうらしい」


 何かを知っているようだ。

 だが、一人置いてきぼりのアルスは思わず尋ねる。

 

「あの、アルカさんとセリカさんと仲が悪かったり……?」

「悪いというか、悪くなった・・・が正しいわね」


 ルージュは、二人が歩いて行った方を見つめながら話す。


「あの二人、かつては『アルカ・セリカ』なんて言われるぐらい、親友で名コンビだったそうよ」

「え? じゃあどうして……」

「さあね」


 首を左右に振ったルージュは、少し目を細めたまま続けた。


「アタシもミリアも隊員になる前の話よ。当時はアルカさんとセリカは同じ隊の隊員だったけど、とある事件からああなったらしいわ」

「とある事件?」

「アタシは詳しくは知らないわ。けど、それがきっかけだったのは確かね」

「そうなんだ……」


 普段はほとんど自分の事を語らないセリカ。

 彼女の事を少し知り、アルスは複雑な顔を浮かべる。


 だが、この後さらにセリカの事を知ることになるとは、思いもしなかっただろう。







「アルスくーん!」

「わあっ!?」


 バタンっと第三小隊の部屋の扉が開き、セリカが入ってくる。

 ちょうど入口の傍に追いやられていたアルスが、ひっくり返りそうになった。


「あらら、またやっちゃったかな。ごめんね」

「い、いえ……」


 今度は何も起きなかったことを良いことに、アルスは聞き返す。


「そういえば、呼び出しはなんだったんですか?」

「……通達だよ」


 そう言いながら、セリカは会議で用いられた資料を見せる。


「アルスダンジョンに、複数の大型の痕跡を発見」

「……!」

「数日後に出発するよ」


 セリカの言葉に、アルス達は嫌でも思い起こす。

 アルスダンジョンで戦った大型魔物のことを。


「それと、今回は共同戦線だよ」

「え?」

「相方は第四小隊」

「……!」


 どんな感情か、セリカは冷静な表情を浮かべた。


「アルカのところだね」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ダンジョン女学院の男子生徒~目覚めたら女性しかスキルを使えない世界だったけど、僕だけスキルを使える男みたいです。貞操が逆転してる学院で唯一男子の僕は、気がつけばハーレムに!?~ むらくも航 @gekiotiwking

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ