第16話 “大人”の保健室の先生エチア

<エチア視点>


 こんにちは、私の名前はエチアといいます。

 普段は保健室の先生をやっています。


 え、誰に向けて話しているかって?

 人には誰かに悩みを聞いて欲しい時があるじゃないですか。

 でも、こんな事は誰にも相談できなくて、仕方ないので脳内で話してます。


 さて、悩みというのは、最近困っている事があるんです。


 あ、ちょうど生徒たちが来ましたね。


「エチア先生~!」

「今日もお願いします!」

「私達に教えてください!」


 保健室の扉を開けて、こちらにまっすぐ走ってくる子達。

 素直でとってもかわいい生徒達です。


 そんな彼女達が、口をそろえて聞いてくるのが──


「「「大人の恋愛術!」」」


 これです。


「はいはい。今日は何を教えようかしら」


 最近、世界で唯一スキルを使える男の子が発見されました。

 学院に通っているアルス君です。


 すごく貴重な存在ですが、それゆえに外部に情報をらせば混乱を招きかねないので、学院で面倒を見ています。

 お世辞にも強いとは言えませんが、努力家で毎日頑張ってます。


 また、この学院に通う生徒は、何らかの才能を持つ女の子たち。

 英才教育をほどこされた、いわゆるエリート達です。


 ですが、年齢的には思春期真っ只中。

 幼少から男の子と関わってこなかったこともあり、アルス君には夢中みたいです。


 それはすごく喜ばしい。

 私にとって生徒の笑顔は何より幸せです。

 でも、だからこそ問題が発生しました。


(私、男の方と手すら握ったことありません……!)


 なので生徒の質問に答えられないのです。

 全部想像で話すしかありません。

 だけど、たとえ知らないことでも聞かれたことは答えたい。


(それが先生ってものだから……!)


 と、そんな事情はいざ知らず、生徒たちはどんどん質問してきます。

 期待しまくりの目で。


「保健室の先生って……エロいよね」

「ね。ちょっと……大人な感じ」

「すんごい体験してるんだろうなあ」

「一体何人の男性と……きゃっ!」


 それはもう好き勝手に言ってきます。


 どうしてこんな勘違いが起こったのか。

 もう一度聞いてみないと。


「で、でも先生が“大人”とは限らないわよ?」

「えーぜったい嘘!」


 ですが、完全に無駄でした。

 生徒たちは疑うどころか、私の外見をあこがれの視線で見てきます。


「サラサラの金髪で~」


 地毛です。


「胸がチラっと見えてて~」


 支給された服です。


「香水も大人って感じ!」


 同僚からもらったものです。


「「「ね~先生!」」」

「……っ!」


 保健室の先生としては、すごく期待に応えてあげたい。

 でも、何をどうしたらいいの!


 そんなところに、一人冷静な子がいました。


「ダメだよみんな。エチア先生困ってるよ」


 はっ!

 その声はミリアさん!


「先生、この前はアルスと仲良くなる方法教えてくれてありがとう」

「え、あ、ああ! お、教えたわね!」


 何て言ったんだったかしら。

 たしかあの時はテンパっていて……って、ああ!


『男の人と仲を深めるには、一緒に寝ることよ』


 私のバカ!

 生徒になんてことを教えてるの!?


「ど、どど、どうだったの!?」


 そんなことがあれば大問題じゃない!

 でも、少し不器用なところがあるミリアさんはそんなことしな──


「仲良くなれました」

「ええええ!?」


 したの!?

 まさかアルス君と一緒に寝たって言うの!?

 なんてうらやま──じゃなくて、どんな度胸をしてるの、この子!?


「だからみんな安心して。焦らなくても、エチア先生は本物・・の知識を教えてくれる」

「「「わあ……!」」」


 やめて!

 それ以上期待の目を向けないで!


「「「はっ!」」」


 そうこうしている時に、廊下から足音が聞こえてきました。

 生徒たちもさすがと言うべきか、気づいたようです。

 が来たことに。


「先生、私たち隠れる!」

「大人の恋愛を見せて下さい!」

「脱がしたりしちゃって……きゃっ!」


 生徒たちは小声でそう言うと、さささっと物陰に隠れました。

 すると、すぐさま扉が開きました。


「エチア先生、今大丈夫ですか」


 噂のアルス君です!!


「あ、あらアルス君! またどこか痛めた?」

「ごめんなさい……」

「ううん、頑張ってる証拠よ!」


 アルス君はとっても頑張り屋さん。

 だから、こうして傷を作ってくることがよくあります。


「じゃ、じゃあ傷ができちゃったところ脱いでくれる?」

「はい」

「……っ!」


 アルス君はなにも構わず、上半身を脱ぎ始めました。


「「「……っ!」」」


 後方からは生徒達の息を呑む声も聞こえてきました。

 私同様にドキドキしていることでしょう。


「じゃ、じゃあ治していくわね」

「先生……」

「ん?」


 だけど、どこか申し訳なさそうなアルス君。

 すると、バッと頭を下げました。

 

「ごめんなさい!」

「な、なにがごめんなさいなの?」

「顔を真っ赤にするほど、先生を怒らせてしまったかと思って」

「……っ!」


 それは男の子の体を見慣れてないからです!

 でも、それを悟らせるわけにはいかない!


「そ、そんなことないわよ! 傷は努力の証なんだもの!」

「本当……?」

「え、ええ、もちろん!」


 その上目遣いズルだわ!

 ドキドキしてしまう!


 でもダメよエチア、ここは治療に集中!


 私は意を決してピンクのステッキを取り出す。

 そのままくるりんと回した。


「いたいのいたいのとんでけ~」

「傷が……ありがとう先生!」

「え、ええ! いつでも来るのよ!」


 そうして、アルス君は笑顔で手を振って出て行きます。

 

「ふぅ~」


 よかった。

 今日も生徒の笑顔を守ることができたわ。


 なんて思っていた矢先──


「「「先生!」」」

「はっ!」


 物陰から生徒たちが出てきます。


 しまった、アルス君に夢中で彼女たちを忘れていたわ!

 全然大人っぽいところを見せられていないじゃない!


 もうバレたかな。

 素直に謝ろう……とした時。


「「「さすがです!」」」

「えっ?」


 生徒達が一斉にキラキラした顔を向けてきます。


「先生はあえてきょどることで、アルス君に緊張させないようにしたんですね!」


 いいえ、緊張してました。


「アルス君を本気で心配するからこそ、ちょっと怒ってたんですよね!」


 いいえ、上半身見て興奮してました。


「アルス君にも『いたいのいたいの』やるなんて! 大人な先生の前では、誰も彼もが赤ちゃんなんですね!」


 それ、治療スキルの合言葉です。


「「「さすが先生!」」」

「……はい」


 生徒の期待はまだまだ重そうです。

 もっと男の人を勉強しなければ、なんて思う一日でした。





─────────────────────

この先生、未経験──。


“大人”に見られがち、でも実は初心うぶなエチア先生。

彼女を応援したいって思った紳士の方、ぜひ★★★をお願いします!

なにとぞ(o_ _)o


次回からはまた第三小隊が動き出します!

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