第八章 クッキーボックス①

翌日は雲ひとつない晴天だった。


俺は半分眠ったまま、目覚ましが鳴る前に起き上がり、窓辺に歩み寄って「サッ」とカーテンを引いた。陽光が一気に部屋を満たし、部屋中に散らばった雑多な物たちが輝きを取り戻した。外の景色に変化がないのを見つめながら、寝癖のついた髪を弄っていると、違和感に気づいた。


俺は振り返り、部屋を見渡し、乱れたベッド、漫画と段ボールが積まれた床、書棚の隅の秘密基地、椅子に掛けられた女性用の薄手のジャケット、書棚の一角に置かれたキャップ……そして再び窓の外のゆっくりと昇る積乱雲に目を向け、やっと異変に気づいた。


──之橋の姿が見当たらない。


俺はとりあえずトイレに向かい、やはり誰もいないことを確認した。


「昨夜の喧嘩でまた出て行ったのか……まったく、もう大学生なんだから子供っぽいことはやめてほしいよ」


俺はため息をついた。


大学でも宋之橋と喧嘩することはあった。大抵は俺が先に謝って終わるが、大学一年の後期に一度、ほぼ殴り合いになりかけたことがあった。宋之橋が怒って殴ってきて、俺の鼻血が出るほどだった。


細かいことは忘れたが、たぶん彼女がある授業の時間変更を忘れていて、クラス全員が俺が彼女に知らせるだろうと思っていた。禾樺も曉文も何も言わなかったので、ちょうどその時期に彼女に会うことがなかった俺も当然伝える機会がなかった。結局、授業をギリギリまでサボっていた宋之橋は、自分で教授にお願いして落第しないように頼む羽目になった。

最終的には、今後は絶対に授業をサボらないという約束で教授の許しを得て、落第は免れたが、その怒りを理不尽にも私にぶつけてきた。


その時、どうやって和解したのだろうか?


網戸越しに無限に広がる青空を見つめながら思い出そうとするが、彼女が怒って唇を突き出している横顔は鮮明に浮かぶものの、和解の部分は全く思い出せなかった。



夜遅くのコンビニは相変わらず賑やかだった。


何人かの客が通路で商品を悠々と見て回り、隅の三つのプラスチック製のテーブルと椅子はすべて埋まっていた。


髪が乱れた中年男性がテーブルに伏せて寝ており、肘のそばには空の弁当箱が置かれていた。ボブヘアの若い女性が涼麺を美味しそうに食べ、足元にはピンク色のスーツケースとストローハットがあった。制服を着た二人の中学男子がスマホゲームに夢中で、ほとんど会話を交わさず、画面に集中していた。


大学時代、俺も多くのパズルゲームやタワーディフェンスゲームに熱中していた。周年記念のライブが終わるとすぐに禾樺と熱心にチャットしていた。卒業後は話す機会が減り、一人でレベルアップするのも面白くなくなり、気づけばすべて削除してしまっていた。


「本当につまらない大人になったもんだ……」


俺は冷凍ケースの前に立ち、反射的に之橋にどの味が食べたいか尋ねようとしたが、口を開けたまま愕然として黙り込み、ソーダアイスを一つ手に取ってレジで会計を済ませた。自動ドアを出ると、夏の夜の微熱が再び体全体を包み込んだ。


俺はコンビニの脇の石段にしゃがみ込み、ソーダアイスを小さくかじった。


今夜は雲がほとんどなく、夜空には星がまばらに輝いていた。一匹の蛾が光る看板にぶつかり続けていた。


ゴン、ゴン、ゴン。


耳元で響くその衝突音は徐々に鼓膜に浸透し、細かい血管を通って広がり、ついには脳の深部に達し、そこに留まり続けた。


ゴン、ゴン、ゴン。


ゴン、ゴン、ゴン、ゴン、ゴン、ゴン。


そのリズムに合わせてソーダアイスを食べ終え、ズボンを軽く叩いて立ち上がった。棒をゴミ箱に投げ入れると、コンビニに入ろうとする腕を組んだカップルとすれ違った。


携帯の画面には、もうすぐ日付が変わることを示す時間が表示されていた。


今日一日、俺はずっと自分に言い聞かせていた。前回と同じように、之橋は宋之橋に関連する場所に行っているだけで、翌日には疲れ切った顔で戻ってくるだろうと。そして、まるで自分の家かのようにベッドでごろごろするのだ。


もしかしたら、今すでに部屋にいるかもしれない。


俺が帰ったら、きっと一緒にコンビニに行かなかったことをぷくっと頬を膨らませて文句を言うだろう。


しかし、帰宅して二階の自室に入ったとき、そこには誰の姿もなかった。全身の力が抜けたように、俺は床に崩れ落ちた。


之橋が窓から入ることはあり得ないと分かっていたが、念のために窓を少しだけ開けていた。湿った夜風が微かに吹き込み、部屋にこもった負の空気をわずかにかき混ぜていた。


──もしかして、之橋は元の世界に戻ってしまったのか?


そんな考えがまた頭をよぎった。


彼女はなぜこの世界に来たのか分からない。流星に願っただけでその原理も知らない。そうでなければ、トイレで俺と鉢合わせたときのように無防備な姿を見せるはずがない。そう考えると、ふとしたきっかけで七年前の世界に戻ることも十分あり得る。


未来の自分がどんな生活を送っているのか知りたいという願いは、今や叶ったと言える。


言葉にできない直感から、彼女が元の世界に戻ったことを確信した。


之橋は戻ったのだ、元の世界に。


宋之橋は自殺した。


どうしても、もう彼女には会えないのだ。


その事実を思うと、耳鳴りがするほどの心臓の鼓動が止まらない。両親を起こしてしまうかもしれないことも気にせず、俺は階段を駆け下り、靴も履かずに家を飛び出した。


足元の固いアスファルトを強く踏みしめながら走った。


一歩踏み出すたびに、その衝撃が頭頂まで響き、全身が痺れるような感覚が広がった。


呼吸は乱れ、下腹部には激しい痛みが走り、喉には先ほどのソーダアイスの味が上がってくる。それでも、脳の片隅には理性が働いており、信号がなく車通りの少ない方向へと体を導いていた。


今ここで立ち止まったら、何か大切なものが消えてしまうような気がした。だが、その大切なものが何なのかは分からなかった。ただひたすら、夜風に向かって走り続けるしかなかった。


「歯を食いしばりたい」と「大きく息を吸いたい」という相反する思いが交錯し、最終的には交互にそれを繰り返す妥協策となった。歯を食いしばるたびに、呼吸が「シューシュー」と音を立て、空気が歯の隙間から漏れ出すのが分かった。


目の端には、いくつかの星がちらちらと瞬いているように見えた。だが、しばらく走って気づいたのは、それは星ではなく街灯だったということだ。それが何であれ、どうでもいいことなんだ。大学時代と同じように、俺は何も成し遂げられず、何も本音を彼女に伝えられなかった。


視界に重なり合う黒い影が現れ、俺はやっと足を止めた。溝のそばにしゃがみ込み、吐き気をこらえながら大きく息を吸った。


「一体、何をしてるんだ、俺は……」


顎まで流れ落ちた汗を手の甲で拭い、ふと足元を見ると、一匹の小さなカエルが前へ跳ね、小さな「ポチャン」という音を立てて水に落ちた。波紋はすぐに消え去った。

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