第2話 ミネルダの過去

「ミネルダ!いつまで遊んでいるの!お父様が帰ってくるまでに片づけなさい!」


母はいつも口うるさかった。だがとても優しい母だった。


「はぁい、母様。」


私はまだ5歳だった頃に基本魔法は全て扱えるようになり、これは成人の魔法使い並みで、とても優秀だった。


「よぉミネルダ!庭で何してる?」


家の前を通りかかった商人、この人は両親の昔から友人でオリバーという。私にも良くしてくれている気のいいおじさんだ。


「オリバーだ!遊んでたのよ、見て!今日はルーシーの毛並みをフワフワにする魔法を覚えたのよ!」


ルーシーとは、家で飼っていた犬だ。私は一度手櫛でくしゃくしゃに毛並みを崩してから、オリバーに見せた。


「きれいきれいだよぉー!」


ひょいっと指先を動かした。瞬く間にルーシーの毛はつやつやになり、星をまとったように輝いた。


オリバー「こりゃぁたまげた、お前は天才だな!どんな魔法なんだ?」


「えとね、かぜとひかりの魔法を混ぜっこしてね―――」


オリバーはポカンとした顔で言った。


オリバー「お前はもう魔法の応用まで出来ちまうのか⁉すげぇや!」


母「オリバー、もう、調子に乗るでしょう!

早く片付けろって注意したところなのに。」


オリバー「まぁそういうなよミランダ!凄い魔法使いになるかもしれねぇぞ。」


そういうとニコッとウインクして、天才だと口パクで言ってくれた。


母「オリバーったら。そう、もうすぐ主人が帰ってくるけど夕飯食べていかない?」


オリバー「嬉しいお誘いだけど、ちょっと用事があるからさ、また今度!ミネルダも、またな!」


「えー。オリバーまたきてね!」


私は夕飯の手伝いをして、父の帰りを待っていた。


だがその日父は帰ってこなかった。


次の日から母の様子がおかしく、とても怯えているようだった。


「母様、父様はいつ帰ってくるの?」


そういう私を母は強く抱きしめた。


母「ごめんなさい、ごめんなさい…。私のせいなの。


よく聞いてミネルダ。魔族の国を知っているわね?」


「うん、皆が話してるよ、とても悪い国なんでしょ?」


母「違うの…違うのよミネルダ。誰にも言っちゃだめよ、私はねその魔族の国ソーリン出身なの。


ある日私は飛行訓練をしていた、その時お父さんと出会ったのよ。お父さんは人間で、その日は海に出ていたの。


だけど嵐が来て境界をこえてしまっていた。壊れた船で意識を失っていたお父さんを見つけて、隠れて手当てをしたわ。それから愛が芽生えてあなたが産まれたの。


私は両親がいなかったし、ソーリンを離れてスザークで過ごしたわ。」


「母様が、まぞく…?」


母「えぇ、でもね、ソーリンはみんなが思っているような国じゃない。


この国と変わらないわ。でもずっと対立してきた。


この国のほとんどの人がソーリンを見たことがないし、どんな国かも知らない。ずっと誤解をしているの。」


この時は分からなかったが、対立しているのは王族同士であり、世界を制したい王がソーリンを手の内にしようとした。


だがソーリンはそれを拒否した。それに怒った王が戦争を仕掛けたが返り討ちにあい、兵が全滅。


そしてソーリンを恐れるようになり、民には恐ろしい国と吹き込み以降スザークからソーリンは忌み嫌われるようになったと。


それは大昔の話であり、本当ならもう対立する理由はないはずなのだ。


母はその後私を教会に連れていき、それ以降姿を見せなくなった。


父も母も私を捨てたのだと思い毎晩泣いていたが、神父や他の孤児たちのおかげで次第に元気を取り戻していった。


12歳を迎えたころ、仙人の修行が始まった。


教祖「よいですか皆、修行を積み仙人の道を目指すのです。」


仙人とはすべての魔法を習得し、何にも動じない精神と体力、世界のすべての知識を持つ。一番神に近い存在になることだった。


孤児はみんなそれぞれ特殊な事情を抱えた、神に選ばれた子供だった。


「ミネルダ!今日は街に行こう、面白いものを見つけたんだ!」


マリサは一番仲の良かった子で、私と並んで魔法の成績は常に一番だ。


マリサは私を街のはずれにある小さな家に案内した。


マリサ「ここ、中を覗いてみて!」


窓の端からそっと中を覗いた。すると中には黒くて小さな何かが飛び跳ねていた。


「なにあれ!どうする?中に入ってみる?」


私たちはそっと扉を開け、中に入った。中はもう使われていない空き家で、真っ暗だった。


マリサ「電気付けよう!ひかりよ…!」


「まって!もしかしたら暗いところが好きなのかも、びっくりして逃げちゃうよ。


このくらいの光で試してみよう。照らせ…。」


マリサ「なるほど、確かに!」


私たちは懐中電灯ほどの光で足元だけを照らした。


マリサ「おーい、怖くないよ、食べ物を持ってきたの。」


マリサはポケットからパンくずをだした。


するとひょこっとそれは姿を現した。


「ねぇ、あなたは誰?よく見えないから、明かりをつけていいかしら?」


その黒いものは頷き、マリサが明かりをつけた。


その黒いのは可愛くて、とても小さい。


マリサ「この子って…まぁどうしましょう!」


「どうしたの⁉」


マリサ「か・・・可愛すぎるわ!ペットにしましょう!これは二人の秘密よ!


名前は、くろにしましょう!」


それから毎日、夜中に抜け出してはくろのもとへ遊びに行った。


くろはフワフワと浮いていて、色んな形に変化したりできるようだ。


言葉は喋れないが、こちらの言葉を理解しているようだった。


ある時くろを散歩させてみようとマリサが言い出して、小さく変形させたくろを鞄に隠して森に向かった。


マリサ「ここなら見つからないね、くろ出ておいで!」


ぴょこんと飛び出した。くろは初めて外を見たのか、興奮しているように見えた。


マリサ「ねぇミネルダ。私この前図書館に行ってくろのことを調べていたの。でもどの本にも載っていなくて…それでね…。」


マリサは恐る恐るという感じで、一冊の本を渡してきた。それは禁書だった。


「だめじゃない!罰を受けてしまうわ!」


マリサ「大丈夫、工夫はしてあるわ。」


色んな術の込められた禁書。


私たちクラスの魔法はとうに、そんな術くらい破れてしまうらしい。


「あなたって悪い子!それで、これがどうしたの?」


マリサ「ふとね、思ったの。確かに存在しているのにどの本にも載っていないなんておかしいじゃない。だから禁書の中に載ってるはずだわって。


で、禁書の棚を探していたらね、見つけたの。このページを見て。」


私はページをめくり、くろによく似た生き物を見つけた。


でもそれはくろとは違って不気味で、化け物みたいに見える。


「これ?でもくろはもっと可愛いわ!」


マリサ「だよね、それにここを見て。」


マリサが指を指したところには、魔物のしるしがあった。


「まさか…。」


マリサ「だから人のいないところに連れてきて、このしるしがあるか確かめたかったの。」


私達はくろの体の隅々まで確認した、そして発見したのだ。


くろが突然震えだし、頭の上にそのしるしが浮かび上がったのだ。


「マリサ!」


マリサ「うん、分かってる。でも、危険じゃないよ。」


私も分かっていた。魔物だとしてもくろは危険な存在じゃない。


でもこれで、絶対に人目に付けてはならないと確信した。


それから今までよりも慎重に、人気のないところでくろと遊ぶようになった。


だがある時忽然とくろは姿を消したのだ。


マリサも一緒に。





















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マジカル向いてへん!神様は世界の修正にとりかかる? ろみみん @romiosan

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