反抗するプリン
黄間友香
反抗するプリン
カップの底の
「触んなよババァ!」
声変わりしたての不安定な男の子のように、少しだけ声が裏返っている。どうやら反抗期らしい。が、わざわざ買ってきて食べようとしている初対面の人間に対していう言葉ではない。一体全体どんな教育をすれば、こんな一昔前の反抗期中学生みたいなプリンが出来上がるのだろう。全く親の顔が見てみたいと思ったところでつまずいた。プリンの両親とは誰なのだろうか。卵と牛乳か?
プリンはぷるぷると震えながらも、立ち向かってきた。
「こっちは特殊な訓練受けて完全体プリンになってるんだ。無敵なんだよ。お前ごときが、俺を落とすことなどできないっ!! フハハ、フハハハハハハ」
多分プリン界では厨二病くさいと思われるセリフを重ねて、完全に若気の至りプリンだ。若いというか活きがいいというか。とにかく食べ物なのだし鮮度がいいのは良いことだろうと心を落ち着かせる。そういえば、三つの内このプリンだけ賞味期限が一日遅かった。製品としては十分でも、心はまだ未成熟なまま出荷されてしまったのだろうか。
「何見てんだよ」
頑張ってドスを効かせようとしているのがバレバレだ。世の中の強きお母さんたちの如く『ちょっと! プリンが反抗期よ! お赤飯たかなきゃ!』と一発芝居を打つのがいいだろうか。ただ、そんなことをしたらプリンが私のことを舐め腐ってしまう。
「そんな言い方していいと思ってるの?」
スプーンを近づける。私は捕食者だということを分らせないと、このプリンはいつまでもぷるぷるとカップの底に居座るだろう。
「無理無理無理無理! まじでやめろ。ごめんなさい」
プリンが美味しそうに震える。これが欲しかった。柔らかいプリンが揺れるのが見たくて、すっぴんスウェット姿にもかかわらずこんな夜中に私はわざわざコンビニに行って、プリンを買ったのだ。カップからするりと抜けてくれたら尚よかった。
本当はもう少し話を聞いてやろうと思っていたけど、我慢できない。私は容赦なくスプーンでプリンをすくって口に運んだ。いつも通りにおいしいプッチンプリンだった。
反抗するプリン 黄間友香 @YellowBetween_YbYbYbYbY
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
同じコレクションの次の小説
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます