来ちゃった……(怒)

「おい、あれ見てみろよ」


「うわっ、めっちゃくちゃ可愛い! 外国人?」


「っぽいな。うちの制服着てるけど、あんな娘いたっけ」



 その日の終鈴の時間、窓の外を眺めてそう呟く男子生徒が大量発生するという、謎の現象が起きていた。


 誰か有名人でも来ているのかと思い、窓に視線を向ける龍斐りゅうひ。どうやら、校門の辺りに人だかりができている様子。そして、その中心には──


 腕を組んで仁王立ちする、俺の予備の制服を着たエスフォリーナ様が校舎を睨み付けていた。



        ♢♢♢♢



 もう終わるはずの時間だってのに、なかなか出てこないわね、龍斐りゅうひくん……。


 私の方から出向いてあげたって言うのに、待たせるなんてダメじゃない。学校の中でやたら他の女子とイチャイチャしてたってのもあるし、ちゃんと分からせてあげなきゃダメね。


 それにしても……なんでこんなに注目されてるのかしら。



 まさか、私が魔王・・だとバレたわけではないはず……人間の姿に変身するなんで、造作もないんだから。


 それに、この統一されてるらしい服も着てきたんだし、抜かりはないはずよ。



「君、何か困っているのかい?」


「んっ……?」



 私を囲む人だかりがの中から一人出てきて、私に声をかけてきた。


 なぜか前髪をファサッとし、ネクタイを整えながらキメ顔で近づいてくる男……なんなのだろう?



「……誰?」



「おっと、これは申し訳ない。俺はサッカー部のキャプテンもやってる、3年の結城ゆうき啓祐けいすけさ」


「あら、そう」


「これでも学校では有名人なんだけど……俺を知らないってことは、最近転校してきたのかな? 良ければ俺が学校を案内してあげるよ!」



 スカした感じの彼がそう言い放つと、周りの男子は『結城ゆうき先輩が行ったぞ!』とか『先輩ぐらいのイケメンならワンチャン……』とか口々に囃し立てる。


 逆に女子は、『結城ゆうき先輩に学校を案内してもらえるとか羨ましい……』とか、『うわ……おっぱいでっか……』とか、ヒソヒソと話している様子。


 別に、案内とか要らないんだけど……。



「初めて来る学校で不安も多いと思うし、俺が色々と───」


「結構よ」


「───えっ?」


「要らないわよ。必要になったら龍……別の人にお願いするしね」


「えっ……結城ゆうき先輩がフラれた……?」

「他に解釈のしようがない拒絶だったな……」

「りゅう……? そんなやつ居たか?」



 ざわざわ……



「そ、そんなこと言わずにさ……君も知らない人ばかりで大変だろうし、俺は君ともっと仲良くなりたいなって───」


「私と仲良くって……もしかしてあなた、友達いないの? それは何か……可哀想ね……?」


「  」



「プッ!」

「ちょっ、返しの切れ味よww」

結城ゆうき先輩に『友達少ない』は草ww」

「まぁ完全に脈無しってことが分かったな」



 『フラれた』とか『脈無し』とか、どういうことかしら? 私今告白されてたの? どこら辺が告白だったのかしら……人間ってよく分からないわね……。



「とにかく、私は今人を待ってるんだから、放っておいてくれるかしら?」



 肩を落とし、とぼとぼと群衆の中に戻っていく結城ゆうき先輩とやらを眺めつつ、待つことしばらく。



「フォリアちゃん!」


「っ……!」



 この声……そして群衆の向こうから走ってくる、どこか抜けた感じのそこそこなイケメンは───



龍斐りゅうひくん!」



        ♢♢♢♢



 まさか学校にエスフォリーナ様が来るなんて……あんなに可愛いエスフォリーナ様が来ちゃったら、確かに騒動になるな。


 エスフォリーナ様の姿を見つけた俺は、急いでその場所へと駆け付ける。


 周りを囲む大勢の生徒達の間を抜け、俺はようやくエスフォリーナ様の元にたどり着いた。



「フォリアちゃん!」


龍斐りゅうひくん! やった来たわね、遅かったじゃない!」


「学校まで来ちゃったんですか? 勝手に出歩いたらダメって言ったじゃないですか!」


「何よ、私に家でじっとしてろって言うの? だいたい、あんたが誰彼構わず女の子にアプローチするのがいけないんじゃない!」


「アプローチなんてしてませんよ!?」


「遣い魔を通して全部見てたわよ? デレデレしちゃって……」


「まさかこいつが彼氏?」

「そんなバカな……」

「でもなんか修羅場っぽいぞ?」

「彼氏が浮気したって?」

「いいぞ、そのまま爆発しろ!」



 結城ゆうき先輩がフラれた時以上のざわめきが広がっていく!


 そのどれもが、凄まじい美貌を持つエスフォリーナと仲が良さそうな様子の龍斐りゅうひに対しての嫉妬のようだ。


 自分ではこの超美少女と絶対に釣り合わないと分かっているからこそ、せめて修羅場ってこの男がフラれますように───



「家に帰ったらこの埋め合わせをしてもらうんだから、覚悟しなさいよね!」


「くっ……受けて立ちますよっ!」



 …………………………。


「えっ、同棲してる?」

「いや、えっ、嘘だろ?」

「ちょちょちょちょっと待てぇっ!」


「……何よ、うるさいわね」



 ついに我慢できなくなったらしい一人の男子生徒が、エスフォリーナと龍斐りゅうひの会話を遮るように声を上げた。



「もしかして、この男と付き合ってるんですか? しかもなんか、一緒に住んでるみたいな……」


「付き合っ……ま、まぁそうだけど?」


「一生幸せにするって誓いましたもんね!」


「そんな大きい声で言わなくていいでしょ! まだパパに認めてもらってないんだから!」



 一緒に住んでる……?

 一生幸せにする……?

 まだ・・認めてもらってない……?


 何の取り得もない一般学生が、超絶美少女外国人の親に挨拶までしてるらしい。



「「「それもうほぼ婚約済みじゃねぇか!!」」」



 あまりに衝撃的な事実の判明に、この場には嫉妬に狂った男達によって地獄が出現した。

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異世界召喚された俺、チョロイン魔王様が可愛すぎてとてもつらい。 風遊ひばり @Fuyuhibari

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