お留守番もままならない!

「んっ……ふぁっ……」



 窓から差し込む光で、私の意識は急浮上する。

 ゆっくりと目を開けると、知らない天井が視界に広がっていた。


 そうだった、龍斐りゅうひくんの家に泊ったんだったわ……。


 服の乱れ、汚れ無し……同じ屋根の下で寝てても、龍斐りゅうひくんはそこ・・はちゃんとしてるのね。


 …………なんで私が気にしてるみたいになってるのよ!

 そういうのはまだ・・早いってだけで、別に私が期待してるとかそんなのじゃゴニョニョ……。



「あら?」



 ふと、陽愛ひよりちゃんがいないことに気が付いた。昨日は一緒に寝たはずなのに……先に起きてるのかしら?


 他人の家ですっかり熟睡していたことに若干の恥ずかしさを感じつつ、こっちの世界で買った服に着替えてリビングへ。


 すると、そこには陽愛ひよりちゃんも龍斐りゅうひくんも姿はなく、龍斐りゅうひくんのお母様……光莉ひかりさんだけだった。



「あら、おはようフォリアちゃん!」


「おはようございます……龍斐りゅうひくんは?」


龍斐りゅうひ陽愛ひよりも学校に行ったわよ~。フォリアちゃんが疲れてる様子だったから、起こすのは止めておいたって」


「あー、学校に通ってるのね……」


「フォリアちゃんは通ってないの?」


「はい、学園はあったんですけど、そこに通う子たちって上流階級のお坊ちゃんとかお嬢様とかばっかりでなんだか落ち着かなくて……私は家庭教師を雇って毎日勉強してたわ」


「上流階級のお坊ちゃんとお嬢様……海外にはそういう学校もあるのねぇ」


「いつ帰ってくるんでしょう?」


「夕方になるんじゃないかしら。それまでは家を自由に使っていても大丈夫よ♪」


「お母様は……」


「私ももうすぐパートに行く時間なの。ごめんなさいね?」



 夕方……まだ8時間はあるじゃない。

 それまで独り、か……全く、私に寂しい思いをさせるなんてダメじゃない。


 帰ってきたらいっぱい甘え……じゃなくて、オシオキしてあげないと。



「朝ご飯は用意してあるから、フォリアちゃんも食べちゃいなさい♪ 自由に過ごしていていいけど、あまり外には出歩かないようにね?」


「あ、ありがとうございます」


「じゃあ、私も行ってくるわね!」



 お母様はそう言い残し、家を出て行ってしまった。



「…………」



 ひとまず、朝ご飯食べちゃいましょうか。



        ♢♢♢♢



 AM9:00

 朝ご飯を食べ終わった私は、龍斐りゅうひくんの部屋でごろごろしてみる。


 ……龍斐りゅうひくんが使ってるベッド、なんだか落ち着くわね……落ち着く匂いがするというか……なんだか良いわね。


 それと、この『漫画』ってやつ!

 本なのに全部が絵でできていて、台詞を喋らせることで本当にその中に世界が広がってるみたい!


 パパが昔、勇者から漫画がどうこうって話を聞いてたらしいんだけど……確かにこれは勇者もハマるのは分かるわね。



 AM10:30

 漫画を読んでいるのも楽しいんだけど、こればっかりでもね……少し休憩しようかしら。


 本当だったら、漫画の内容で龍斐りゅうひくんと話したいんだけど……その龍斐りゅうひくんはまだまだ帰ってこないものね……。



 AM12:00


「あ~~……」



 暇ぁ……。

 漫画もだいぶ読んじゃったし、やることが無くなっちゃったわ。


 ……龍斐りゅうひくんは今何をしているのかしら……。気になるけど、知らない街を一人で歩くのはさすがに怖いし……。



「あっ……魔法を使えばいいじゃない」



 そうと決まれば早速実行ね!


 魔力を開放し、小さな魔法陣を描く。

 それは召喚魔法。私の眷属を召喚する魔法だ。


 黒紫の輝きが放たれ———魔法陣から現れたのは、小さな蝙蝠だった。


 ふふふ……この子は私の優秀な眷属、この子と魔力を繋げることで、この子が見た景色を私も見ることができるのよ!


 これなら、私は外に出なくても龍斐りゅうひくんの様子を見られるわ!



「さぁ、これが龍斐りゅうひくんの匂いよ。これを追っていきなさい!」



 蝙蝠を窓から放つと、蝙蝠は学校があるであろう方向へ真っすぐ飛び去って行った。


 ふふっ、龍斐りゅうひくんが普段どうやって過ごしているか楽しみね!







 PM13:00

 蝙蝠から送られてきた魔力が、脳裏に景色を映し出す。

 見上げるほど大きな建物、広い運動場、たくさんの若い男女……間違いなくここが学校ね。


 そして……いたわ、龍斐りゅうひくん!

 ふふ、さすがの勇者も、まさか日常が私に筒抜けだなんて思わないようね。さて、どんな風に過ごして———



『な、なぁ國都くにみや、昨日は休んだけど……体調はもう大丈夫なのか?』


紗香さやかさん? 別に風邪とかじゃなかったけど……大丈夫だよ。心配してくれてありがとう』


『べ、別に心配してたわけじゃないし……!』



 ……んっ!?



龍斐りゅうひくん、ちょっとこれ運ぶの手伝って? もう一人の係の子が休んじゃって!』


『任せて! たしかにこの量を一人で運ぶのは大変だよね……』


『ありがとう! 龍斐りゅうひくん、力持ちで頼りになるね!』



 ……んんっ!?



『天竜院さん、髪に芋けんぴ付いてますよ』


『っ! これは髪留めよ! 勝手に取らないでちょうだい』


『あっ、ご、ごめんなさい!』


『別に良いですわ。善意によるものですから』


『ありがとうございます。その……なかなか個性的で面白い髪留めですね』


『……ふふ、この天竜院真利亜まりあを前にして物怖じしない胆力……なかなか面白い殿方ですわね』



 ……んんんっ!?



 これはどういうことかしら!?

 なんで龍斐りゅうひくんの周りでラブコメみたいな展開が頻発してるのよ!


 あんたの彼女は私なのよ!?

 それなのにデレデレしちゃって……


 もう我慢ならないわ!

 私が直接行くしかないわねっ!

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