お兄が連れてきた彼女がとんでもない件

まえがき


久しぶりにちょっと復活


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 お兄が連れてきた彼女が、とんでもない件。


 いや、ホントに。

 違う世界線から来たとしか思えないほど可愛い。

 嫉妬する気も起きないというか……『住む世界が違うんだな』で納得できる。


 それにしても、すっぴんでこれ・・っていうのが驚いた。お風呂に入る時にメイクを落とす素振りも無かったから聞いたんだけど……メイクって何? って状態だった。


 えっ、メイクをしたことない?

 いったい何処に住んでたの?

 というか、SNSとかで流れてくる加工写真より可愛いすっぴんってどういうこと?


 しかもスタイルがいい。

 超えてでしょこれ。格差っ!!



 ……なんでそんなこと知ってるかって?

 当然、一緒にお風呂入ったからに決まってるでしょ。

 『使い方教えてあげる!』で押し通したら何とかなった。

 ふへっ、ふへへへへ……最高ですわ、もう!


 とにかく、容姿は完璧、スタイルも完璧。

 気が強い所はあるけど、根は素直で本当に可愛い。



 ホントになんでこんな人がお兄の彼女に?

 この人だったらどんな男性でも選びたい放題なのに……。


 と思って聞いたら、『熱烈なアプローチで私もその気に……って何を言わせるのよ!』だって。


 お兄のくせに一丁前に青春しやがって!

 くそっ、私だってこんな人とイチャイチャしたい人生だった……いや、ワンチャンお兄とこの人が結婚したら、この人が私の義姉に……?


 ふへっ、そういう未来もありかぁ!

 いや、でもまだそうなると決まったわけではない……冴えないお兄がすぐに捨てられても不思議じゃないからね。


 これは、私が何とか繋ぎとめてあげないとね!

 超絶可愛い義姉との生活を実現してみせる!



「これがこっちの世界のお風呂……色々と凄いのね」


「こっちの世界?」


「あっ……ううん、日本のってこと。特に深い意味はないわよ」


「ふーん、まぁいいですけど……とりあえず着替えは私の服でいいですか?」


「そうね、ありがたく貸してもらうわ」



 服も下着も、お兄の物を使うわけにはいかないしね。

 いや、お兄のシャツ一枚だけ着せて……いやダメだ! そんなエッチなの、私でも耐えられる気がしない!



「ひ、陽愛ひよりちゃん……その……」


「ん? どうし———」


「そのっ、ごめんね……胸がキツくて入らない……」


「どエッッッッッッッ!」


「???」



 途中まで下がったものの、胸がつかえて下がらなくなったシャツがパツパツに張り、今にもはちきれそうになっている。


 恥ずかしそうにシャツを引き下げるも、全然隠れてない下乳。

 お風呂上りということも相まって、赤く上気した頬。

 全く隠れてないお腹と、その下の———


 なんか、もうっ!



「神っ……!」


「ちょっと! 急に跪いて拝むのやめてくれる!? 何があったって言うのよ!?」


「一生ついて行きます、お義姉ねえさま!」


「この話を聞かずに突っ走る感じ、さすが龍斐りゅうひくんの妹って感じね……」



 いや~、いいものを見ましたわ。

 こんな、もう色々と凄いお義姉ねえさま、絶対誰にも渡しちゃダメね!



「とりあえずお兄のシャツ持ってくるから、ちょっと待っててくださいね」


龍斐りゅうひくんの……うんっ」



        ♢♢♢♢



 龍斐りゅうひ君のシャツ……おおきい……。

 ちょっと胸はキツいけど。


 なんでだろう……きちんと洗濯されたシャツなのに、龍斐りゅうひくんのって聞くと、なんだかいい匂いがする気がしてくる。


 鏡に映るのは、表情が緩み切っている私の姿。

 私って、こんなに単純だったかしら……。











龍斐りゅうひくん、お風呂空いたわよ」


「どエッッッッッッッ!」


「きゃっ! 倒れっ———ちょっと、龍斐りゅうひくん大丈夫!?」


「だ、大丈夫じゃないです……」


「えっ、もしかして何処か打って———」


「いえ、身体じゃなくて心がもう……っ!」


「えっ?」


「だってエスフォリーナ様がお風呂上りに俺の服を着てるんですよ!? 最高過ぎて……神ぃっ!」


「何跪いてるのよっ! その反応もう見たわよ、兄妹そっくりねあなた達」


「違います! 俺は拝みたいから拝んでるだけです!」


「ちょっ———下から見上げないでよバカッ! 別にあんたに拝んでもらうためにこんな格好してるわけじゃないんだからっ!」



 まったく……まぁ、いつもの龍斐りゅうひくんって感じね。


 それにしても……この『彼シャツ』っていうの? これ、めちゃくちゃ効果あるわね。陽愛ひよりちゃんの言ってたことは本当だったみたい。



 男の子からしたら、彼女が自分のシャツを着てると嬉しいものなのかしら。……泣きながら跪く龍斐りゅうひくんを見る限り、そう言うことなのだろう。


 ふふ、悪くないわね。

 龍斐りゅうひくんが望むなら、またやってあげないことないかしら……



 私がやりたいわけじゃないわよ?



「じゃあエスフォリーナさん、私の部屋にお布団敷いたからそっちで一緒に寝ましょう?」


「えっ……エスフォリーナ様は俺と一緒の部屋で寝るんじゃないんですか!?」


「ダメに決まってるでしょお兄! こんなエッ……じゃない、可愛いエスフォリーナさんと一緒の部屋だなんて、ケダモノのお兄が何するか分かったもんじゃないわ!」


「くっ、否定できない……っ! エスフォリーナ様、それでいいんですか!? 昨日一緒に寝た仲じゃないですか!」


「昨日はロザリーのせいだから! 別に一緒に寝たくて寝たわけじゃないんだからねっ!」


「いくらツンデレだからって、言っていいことと悪いことがありますよ!」


「ツンデレを狙ってるわけじゃないから! 我慢しなさい!」



 ロザリーの魔法薬があればともかく、素面の状態で一緒に寝るなんて、そんな恥ずかしいことできるわけないわよ!



 咽び泣く龍斐りゅうひくんをしり目に陽愛ひよりちゃんの部屋に入る私は、『素面じゃ無ければ一緒に寝てもいい』と心のどこかで思っていることに、自分でも気づいていなかった。

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