魔王様、歓迎される。

「ごめんなさいね……私ったら、早とちりしちゃって……」


「い、いえ、大丈夫です……」



 龍斐りゅうひの妹、陽愛ひよりが『女の子を誘拐してきた!』と声を上げた結果、母親である光莉ひかりも飛び出てきて……


 最初は疑っていた母親も、龍斐りゅうひの隣にいる超絶美少女外国人の存在を見てフリーズ。


 龍斐りゅうひの友達とか彼女とかよりもまず、『攫ってきたのでは』という考えに至った母親も龍斐りゅうひに迫り、カオスな状況に。


 エスフォリーナの必死の説得が功を奏し、ようやく全員落ち着いて席に着くことができたのだった。10分ほど経過した後であったが。



「改めまして……あなたはいったい……」


「えっと……私はエスフォリーナ、と言います」


龍斐りゅうひとはどういう関係で?」


「か、彼女、です」


「あらまぁ……」


「彼女!?」



 声を上げたのは陽愛ひよりだった。


 お兄に彼女!?

 あのどんくさ二次オタ残念モブのお兄に!?

 しかもこんな……こんな美少女だなんてっ……!


 は? なにこの顔面偏差値の暴力!?

 髪さらっさら! 目デッカ! 睫毛ながっ!

 しかも……うぉぉ、でっけぇ……何がとは言わないけどでっけぇ……。


 モデルや女優なんか目じゃない。

 お兄風に言うのなら、『この一人の姫君を狙って戦争が起こる』レベルだ。

 とにかく、それぐらい現実離れした美少女ってことだ。



 絶対騙されてるよこれ。

 こんな可愛いエスフォリーナさんが悪女なわけないから、絶対お兄が騙したんだ。

 お金か!? お金で釣ったのか!?



「失礼ですけど、どうして龍斐りゅうひを? こんな冴えない息子のどこが良いのかしら」


「母さん、凄いディスってない?」


「最初は、その……龍斐りゅうひくんの一目ぼれで告白してきたんですけど、その熱意に当てられて……」


「大丈夫? 龍斐りゅうひの勢いに負けてるんじゃないかしら?」


「い、いえ! 真っすぐに愛を伝えてくところとか、どんな誘惑にも負けないところだとか……龍斐りゅうひくんが本気で私を、その、好きだってことが伝わってきて……」


(あ、甘酸っぺぇ~~……)


「あ、それに、私のパパに紹介したときも、堂々としていてかっこよかったわ!」


「えっ、親御さんに紹介? 龍斐りゅうひを?」


「えっ、はい」



 ポカンとした様子の光莉ひかりに、エスフォリーナは首を傾げる。



「エスフォリーナちゃん、龍斐りゅうひと出会ったのは昨日の話じゃなくて……?」


「はい、そうですよ?」


「え、出会って一日目で紹介したの?」


「はい、その、私の家で住んでもらう予定だったので、パパには隠しておけないなと……」


「「いきなり同棲!?」」


「でもパパは簡単に認めてくれなくて! メイドの皆は『早く跡継ぎを産め』って囃し立ててくるし……」


「「もう赤ちゃんのことまで考えてる!?」」


「なかなか大変でした。マリー……メイドの一人にお風呂で襲われてた龍斐りゅうひくんを助けたり、別のメイドに変な薬を盛られたりしたし……」


「「変な薬って何!?」」


「それで、昨日の夜はそのまま龍斐りゅうひくんと一緒に寝たんだけど、昨日の記憶がなくて……」


「「寝っ……出会ったその日に!? しかも記憶をなくすほどっ!?」」


「でも、龍斐りゅうひくんと一緒に過ごすことができて、すごく楽しいですよ!」


「お、お兄が大人の階段ダッシュしてる……」



 陽愛ひよりの声が震えている。

 陽愛ひよりは、可愛い顔をしてとんでもない経験値を持つエスフォリーナが怖くなってきていたのだ!



「そ、それでエスフォリーナちゃん……どうしてうちに……?」



 お母さん、何とか耐える!

 たとえ息子が超絶美少女に見初められ、想像もできないような経験をしてきたとしても、大人の女性は簡単に取り乱したりしないのだ!



「それなんですけど、龍斐りゅうひくんのことでパパとケンカしちゃって……衝動的に飛び出してきてしまったんです。私が悪いのは分かってるんですけど、どうしても……」


「それは……ご両親も心配してるんじゃないかしら?」


「そうなんですけど、今は帰りたくなくて……しばらく泊めてくれませんか?」


「うっ……」



 上目遣いで不安そうな表情を浮かべるエスフォリーナに、光莉ひかりは口元を手で隠して目を逸らした。


 ……あまりにも、可愛すぎて。

 こんな超絶美少女の上目遣いを正面から受けて、光莉ひかり陽愛ひよりも無事では済まなかったのだ!



「ダメ……ですか?」


「もちろん大丈夫よ。ずっとここで暮らしなさい。いえ、むしろうちの子になりなさい!」


「えっ、うちの子ってなんだか分からないですけど、ありがとうございます!」



 パァッと笑顔になるエスフォリーナ。

 その笑顔に見惚れて、ほぁぁ……と声を漏らす陽愛ひより

 この子を家に迎えるんだ! と鼻息を荒くする光莉ひかり

 そして、これから始まるエスフォリーナとの生活を想像してにやける龍斐りゅうひ


 この場には、不思議な幸せ空間が広がっていた。










 その日の夕方、仕事から帰ってきた龍斐りゅうひの父親が、エスフォリーナを見て龍斐りゅうひに詰め寄ったのはまた別の話だ。

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