お、お邪魔します……

「私のお城より高い建物がこんなに……しかも馬もいないのに馬車が入ってるなんて……」


「ふふ、そんなベタな反応するんですね」


「何よ……バカにしてる?」


「そんなつもりはないですよ! ただ、こっちの世界・・・・・・では当たり前の光景に、こんな反応してるのが新鮮で……」



 そう、俺と魔王様は、魔王様の魔法によって俺が住んでいた元の世界に帰ってきたのだ。


 まさかこんなに簡単に世界間を渡れるなんて……。

 これは魔王様がすごいと思った方がいいのかな。



「それにしても國都くにみやくん……私に家出をそそのかして、しかも『家に来い』だなんて……どれだけ悪い人なのかしら」


「魔王様だって、すごく楽しそうな顔してますよ」


「だって異世界に来るなんて初めてだもの! 向こうと全く違って、なんだか凄いわ!」



 キラキラと目を輝かせて辺りを見回す魔王様は、年相応でものすごく可愛い。


 一応、なんか都合のいい魔法で見た目を変えているらしく、翼も牙も無くなっている。『現実離れした可愛さ』以外は、普通の人間にしか見えない状態だ。



「それにしても、すごい世界ね……魔力を全然感じないのに、ひとりでに動く馬車とか、動く絵とか……」


「自動車にテレビですね。魔力じゃなくて、電気やガソリンで動くんです」


「……全然分からないわ」


「大丈夫ですよ、俺がついていますから!」


「……頼りにしてるわよ、龍斐りゅうひくん?」


「っ!! このタイミングで名前で呼んでくれるなんて……すごくドキッとしました!」


「……知らない世界で不安だから、本当に助けてよね」


「もちろんです! とりあえず俺の家に向かいましょう!」














「珍しい服ね……ユ○クロ? って言うの? こんなに質の良い布、初めてだわ!」



 ───可愛い!



「クレープって言うの? これ、すっごく美味しいわね!」



 ───可愛い!



「何このシュワシュワ!? 何このシュワシュワ!?」



 ───可愛い!



 せっかくエスフォリーナ様がこっちの世界に来たのに、まっすぐ家に向かうのもどうかと思ったので、ユ○クロで上着を買って、クレープを食べてもらって、炭酸ジュースも飲ませてみた。


 その全部に素晴らしい反応をしてくれて、俺も勧めた甲斐があったってものだ。



 特に炭酸ジュースはなかなかの衝撃だったようで、語彙力が無くなっていて可愛かった。


 まさかエスフォリーナ様とこんな風にデートできる時が来るなんて……俺はもう幸せすぎて死ぬかもしれない。



龍斐りゅうひくんの世界って、刺激的で面白いところじゃない」


「確かにエスフォリーナ様の所と比べたら、娯楽は段違いかも知れませんね……独りでどこかに行ったらダメですよ?」


「子供じゃあるまいし、そんなの言わなくても分かってるわよ。さすがに知らない世界を一人で歩くのは怖いしね」



 交通ルールとか知らないから、事故に巻き込まれる可能性があるのはもちろんそうなんだけど……それ以上に、エスフォリーナ様の見た目は、めちゃくちゃ人の目を引く。


 二次元から出てきたお姫様のようなエスフォリーナ様の美貌に、誰彼構わず周囲の視線を集めてしまっているのが分かるのだ。



 もしエスフォリーナ様が一人でいたら……あっという間に大勢に囲まれてナンパやスカウトの嵐だろうなぁ……。


 ……と、噂をすれば、話しかけるタイミングが見計らってるかのような、男数人のグループを発見……うーん……



「俺の家はここから少し離れてるんで、急ぎましょう!」


「あっ! ちょっと、手……っ///」



 エスフォリーナ様の手を取り、早足で歩き出す。

 エスフォリーナ様を、他の誰にも渡すものか!



        ♢♢♢♢



 電車移動も含めて、およそ15分ほど。中心地から外れた普通の住宅街の中の一件に到着した。


 表札は『國都』……つまり、俺の実家だ。

 一泊二日の異世界旅行から帰ってきたことを実感する。



「ここが龍斐りゅうひくんの家なのね……ま、さすがに私の城ほどじゃないか……」


「あれと比べないでください……ただの庶民だって言ったじゃないですか」


「貶してるわけじゃないわよ? 私はすごく楽しみなんだから」



 声を弾ませるエスフォリーナ様の表情はキラキラしていて、お義父さんとケンカしたときの暗い表情が嘘のようだ。


 それだけで、ここに連れてきた甲斐があったというもの。あとは上手く家族に説明しないとな……



 そんなことを思いつつ、俺は玄関を開けた。



「ただいまー」


「えっ、お兄帰ってきたの?」



 姿は見えないけど、リビングの方から声がする。この声は、妹の陽愛ひよりの声だ。



龍斐りゅうひくん、妹がいたのね」


「はい、まぁ……我が儘で無愛想で、可愛い妹です」


「褒めてるのか貶してるのか、どっちなのよ……」


「一応褒めてますよ?」


「昨日帰ってこなかったから、久しぶりに静かな夜を過ごせたと思ったのに……もう帰って───」



 そんなことを言いながらリビングから顔を出した陽愛ひよりは───



「あっ、お、お邪魔します……」


「 」



 俺の隣にいるエスフォリーナ様と目が合ってフリーズした。


 動かない陽愛ひより

 困惑するエスフォリーナ様。


 しばらく見つめ合った陽愛ひよりは、ギギギッ……とぎこちない動きでリビングの方へと身体を向け直す。


 そして……



「ママーッ! お兄が女の子誘拐してきた!!」



 待て待て待てっ!

 何を言い出すんだ陽愛ひよりさぁんっ!

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