パパのバカッ! もう知らない!

「ロザリーも逝ったか……まさか魔法が通じないとは、さすがは勇者というべきか」


「イきましたわ……」


「ロザリー、見た目はええんやから、その発言をなんとかせぇへん?」


わたくしはいつも通りですわ」


「ロクな男が寄ってけぇへんで~~」


「順番で言うと、次はミザリー?」


「私? ……私は別に勇者には興味がないのだけれど」


「そういうのをクーデレって言うんやで! パパさんが満足するまで付き合ってやりぃや」


「ま、少しだけならいいけど」


「ナタリー……お前、私をバカにしているのか……?」


「エスフォリーナ様のことになると親バカになるやん?」


「ぐっ……それで、今フォリアちゃんは?」



(((あっ、反論できなかったんだな)))



「エスフォリーナ様は昨日の流れで勇者様の部屋で睡眠を取り、そろそろ起きる頃かと……」


「……ちょっと待て、勇者の部屋で睡眠を取っただと?」


「グリムガル様が心配するようなことは起こっていませんでしたよ」


「そういう問題ではない! 私でも添い寝してくれないというのに、ぽっと出の勇者と同衾だとっ……!?」


「そんなんだから親バカって呼ばれるんやで~~」


「とりあえず、いつものようにエミリーが起こしに───」


「なんだと……?」


「えっ……? だからエミリーが起こしに……」


「なぜエミリーに行かせた! あんな純粋無垢で嘘がつけないエミリーが行ったら、ここでの話もフォリアに筒抜けに───」


「あら……パパ、ここでの話って何かしら?」


「「「ひぇっ」」」



 突如として扉が開いたと思ったら、魔力を漲らせたエスフォリーナが現れた。


 とてもいい笑顔だ。

 笑顔だけど……明らかに怒っているのは、全く笑っていない目と浮かんだ青筋を見れば一目瞭然だ。



「何かおかしいと思ってたのよ……メアリーといいマリーといい、ロザリーだって……。私と國都くにみやくんの邪魔をするのが、まさかパパだったなんてね?」


「くっ……けどねフォリアちゃん。何を言おうと、魔王と勇者という関係性は変わらない。今まで魔王と勇者との間で、どれだけ戦いが繰り広げられてきたのか知らないわけではないだろう」


「それはそうだけどっ……パパだって見守るって言ったじゃない!」


「ぅっ……でも私だって心配して───」


「私だって、國都くにみやくんは勇者だってことは分かってるわよ……でも、一日しか一緒にいないけど、彼と一緒にいるのが楽しかったのよ! それを、メイド達を使って邪魔をして……」


「私だってフォリアちゃんには自由に恋愛をしてほしい。が、相手が勇者となれば話は別。政略結婚などと言うつもりはないが……魔界に住む住人達の未来も関わってくる。フォリアちゃん、分かってくれ」


「っ……パパのバカッ!」


「あっ……」



 反論ができず、走り去るフォリアちゃん。ハラハラしながら経過を見つめていたメイド達も、止めること無くフォリアちゃんの背中を眺めていた。



「……えぇんか? パパさん」


「フォリアちゃんも年頃だから、恋愛に燃えるのも分かる。私もそうだったからな……けど、魔界ここの皆を蔑ろにするわけにはいかない。それが魔王としての責務でもあるからな」


「ま、フォリアちゃんもそれぐらいは分かってそうやけど……否定された気分になって反発するのも分かるなぁ」


「言い方はキツかったかも知れないが……まぁ、とりあえずは一度落ち着くまで待とう」



        ♢♢♢♢



「えっ、お義父さんとケンカしたんですか?」


「うん……」



 『ちょっとパパに文句言ってくる!』と言って出ていった魔王様が返ってきたと思ったら、泣きながら部屋に飛び込んできて驚いた。


 グスグスと嗚咽を漏らす魔王様の背中を擦りながら落ち着くまで待っていると、ぽつりぽつりと話し始めた。



 どうやら俺を認めてほしい魔王様と、魔王としての立場を全うしてほしいお義父さんとで衝突したらしい。



「ん……でも、分かってるのよ……これは私が悪いんだって……。私はパパほど魔王らしいことはできてないし、皆の生活を守るのが魔王だから」


「フォリアちゃん……」


「んっふ……待って、今愛称で呼ばないで……/// 分かってるんだけど、私だってもっと女の子らしいことしたいのに! は、初めての……か、彼氏なんだし……」


「魔王様の方から彼氏なんて言ってくれるなんて……!」


「……今は甘えてもいいでしょ……?」


「っ……! かわい、すぎる……っ!」


「でも、どうしよう……ケンカしちゃったし、顔を合わせづらいな……」


「……それなら、少し悪い子になりますか?」


「……へ?」



        ♢♢♢♢



「グリムガル様! 大変です!」


「落ち着け、何があった」



 慌ただしく書斎に飛び込んできたメイドの一人に、グリムガルは怒るでもなく淡々と先を促した。


 『魔帝』の書斎にノックもなしに飛び込んでくるなど、失礼にもほどがある。が、そうするほどの理由があるのだろう。


 そう察したグリムガルは、メイドを咎めることもなく次の言葉を待った。



「グリムガル様! エスフォリーナ様の部屋にこんな置手紙が!」


「置手紙……?」



 メイドが差し出した一枚の手紙を手に取ったグリムガルは、そこに書かれた文字に目を通し———



 『しばらく家出します。探さないでください  エスフォリーナより』



「フォリアちゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁんっっ!?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る