お前のせいかぁっ!!

「んぅっ……あれ……?」



 私、いつの間に寝てたのかしら……。


 ふと意識を取り戻すと、何の変哲もない天井が見える。どうやら私は、ベッドの上に横になっていたようだ。



 えっと、確か……ロザリーが國都くにみやくんを狙ってやってきて、変な魔法薬をばらまいて……


 凄い吸血衝動に駆られた気がする。

 それでその後は……ほとんど覚えてないけど、悪くない……というか、至福の時間だった気がするんだけど、何をしたんだろう……。


 というかそもそも全部ロザリーのせいなのに、何で私がこんなもやもやした気分にならないといけないわけ?



 ナタリーやメアリーはともかく、マリーとロザリーは國都くにみやくんを狙ってきてたし、私が隣にいるってのに、限度ってもんがあるでしょうが!


 はぁ……一日でこれか……幸いぐっすり眠れて疲れは取れたとはいえ、このままだと今日も心ぱ───



「───い?」



 ゴロンと横向きに寝返りを打つと、目の前に現れたのは、國都くにみやくんの横顔。



「っ!? えっ、うそっ、何でっ!?」



 なんで國都くにみやくんと一緒に寝てるわけ!?


 必死に昨日の記憶を遡るも、途中から全く覚えていない。あるのは、『なんとなく至福だった』という印象だけ……



 ───はっ!


 慌てて毛布を捲り上げ、自分の身体を確認する……どうやら衣服の乱れは無い様子。


 ということは、そういうこと・・・・・・は無かった……?

 いや、國都くにみやくんのことだ、後から服を綺麗に整えるスキルを持っていてもおかしくない。



 うぅぅぅ、分からない……國都くにみやくんを起こして聞いてみようか……? いやでも、そんなことがあっても素直に答えるか分からないし……


 第一……私の視線の先には、すやすやと気持ち良さそうに眠る國都くにみやくんの寝顔。



 ……なんだろう。

 起こすのがもったいないと思ってしまうのは変なのかしら。


 そ、そうよね……気持ち良く寝てるのに、いきなり起こされたら嫌よね。うん、きっとそうよ……



「……でもちょっとだけ……」



 人差し指で、國都くにみやくんの頬をつついてみる。


 プニッとした感触……男の子も結構柔らかいのね……。


 プニプニとつついていると、小さく声を漏らしながら顔を横に向ける國都くにみやくん……あっ、これなんだか良いわね……。


 薄い反応が逆に新鮮というか……あれだけグイグイ来る國都くにみやくんが、今は私のされるがままになってるってところが、すごくイイ!



 ふふふ、やっぱり起こさなくて正解かも。

 この魔王に隙を見せたな勇者よ!

 このままなす術なく───



「まおーさま、つつくの楽しい?」


「えっ……?」



 唐突に聞こえた声の方を見てみると、ベッドの端に顎をのせてこちらを見つめる大きな目。クリクリで純粋無垢なその瞳は、ただただ興味津々でこちらを覗いていた。



「エ、エミリー……いつからそこに……?」


「ついさっきだよ! まおーさまを起こしに来たのに、自分の部屋にいないからこっちに来たんだ♪︎」



 エミリーは『楽しくて仕方がない』といった様子で立ち上がると、翼になっている両腕をパタパタと動かす。


 エミリーの種族は『ハーピィ』だ。10歳の彼女はまだまだ見習いといった立場だが、いつも楽しそうに動き回る様子に、皆が元気を貰っている。



「そ、そうなの……でも、部屋に入るときはちゃんとノックしなさいね?」


「あっ、忘れてた! ごめんなさい!」


「いいのよ、エミリーはしっかり直せる子だから」


「へええ♪︎」



 魔王であるエスフォリーナも、純粋無垢な幼女のエミリーには弱いようで、優しく諭してそれで終わりだ。


 ……これがロザリーだったら怒鳴って追い返すところだけど……ノックしないのもわざとだし……。



「それでまおーさまは、ゆうしゃさま? の頬をつつくのが好きなの?」


「すっ、好きって訳じゃないわよ! いや、その……まぁ悪くないかなって……」


「俺はむしろもっと触ってほしいと思ってますよ!」


「ぇ……?」



 視線を落とすと、しっかり目を開いている國都くにみやくんと目が合った。



「ぇ……いつの間に起きて……?」


「そりゃ結構大きい声で会話していましたし、起きますよ。フフ……魔王様の素敵な指でなじられるのもまた一興……」


「忘れなさい!」


「んぐぇっ!」



 頬が大きくへこむほど、指を押し込んでおいた。


 まったく……やっぱり起きた途端この反応じゃない。寝てるときの方がまだ可愛げがあったわ。













 だ・か・らっ!

 違うでしょエスフォリーナ!

 こいつは勇者!

 『可愛げがある』とか、そういうのじゃないんだって!



「ひ、ひどい……昨日はあんなに優しくシてくれたのに……」


「ちょっと、一旦ホントに昨日何があったのか教えてくれない?」


「……俺はもう魔王様じゃないと満足できない身体に……」


「だから何があったのよ! もーっ!」


「二人とも仲よしだね♪︎」


「そ、そう見えるのかしら……」


「うん♪︎ なんだかゆうしゃさまをゆーわく? するのがいけないことだと思っちゃう」


「えっ、俺を誘惑?」


「待って、なんだか聞き捨てならない単語が聞こえたわよ!?」



 國都くにみやくんを誘惑?

 いったいどういうこと!?



「あっ、言っちゃダメだった! エミリー怒られちゃう!」


「……大丈夫よ、どうせナタリーから広まったんだろうし……エミリーが素直に教えてくれたら、私が誉めてあげるわ」


「ならいっか♪︎ んーとね、グリムガルさまが『ゆうしゃさまを認めない!』って言って、エミリーたちにゆーわくするように言ったんだよ! それで、もしゆうしゃさまがなびくようだったら許さないって。それでみんなも『面白そうだから』って乗り気で……」


「あー、エミリー……もう大丈夫よ、ありがとう」



 お前が発端か! このクソ親父ぃっ!

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