國都くん、いただきます……♡

「初めまして、勇者様。わたくしはガーデニングを担当しております、ロザリーと申します。以後お見知りおきを」



 ロザリーは両手をお腹の前に添え、優雅に一礼すると、にっこりと優しい笑顔を浮かべた。清楚で上品な所作に、國都くにみやくんも見惚れているようだ。


 確かにロザリーは、男ウケする見た目だ。

 ピンクの綺麗な髪はサラサラつやつやでいい匂いがするし、スタイルも抜群だし、胸なんて『センチ』どころか『メートル』で表すべきぐらいの……。



 けど、騙されてはダメよ國都くにみやくん!


 ドリアード・・・・・のロザリーは、魔力の補給と称して男も女も見境なく襲い掛かり【ピ——】するド変態!


 清楚で上品そうな見た目と振る舞いの裏はドロッドロなのよ!



 食事をせずに水と魔力で生きるドリアードだから、勇者である國都くにみやくんを嗅ぎ付けてくるとは思っていたけれど……まさかこのタイミングで来るとは……!



「ご丁寧にどうも、俺は國都くにみや 龍斐りゅうひです!」


「噂に聞いておりますわ。なんでも、異世界から召喚された勇者様だとか……」


「はい、まぁ、実感ないですけど勇者らしいです」


「謙虚な方ですわね♪ わたくし、あなたに興味があってここに来ましたの」


「それってどういう……」


「ダメよ國都くにみやくん! ロザリーはあなたを襲う———ムグッ!」


「あらあら、淑女がそんな言葉遣いではダメですよ、エスフォリーナ様」


「えっ、ちょっ、大丈夫ですか魔王様!?」



 ロザリーから伸びた蔦が私の口を塞ぎ、しかもそのまま両手も背中側で縛られて身動きが取れなくなる。


 あんた私の部下でしょ!

 魔王の私に対してこの仕打ちってどういうこと!?

 今日のこの子、本気すぎるっ……!



「ムググ~~~~ッ!」


「あの、えっ? 魔王様、ですよね? 縛っていいんですか?」


「えぇ、エスフォリーナ様は縛られるのが好きなので」


(そんなわけないじゃない!?)


「なるほど、そうだったんですね」


國都くにみや君も信じてるんじゃないわよ!)


「それで、ロザリーさんはどうしてここへ?」


「ドリアードであるわたくしは、魔力を吸って生きているのです……勇者様、どうしてもあなたの魔力が欲しくて来てしまったのですわ!」



 ロザリーはメイド服のスカートの裾を摘まみ上げ、バサッと靡かせる。

 直後、放たれた甘い香りが部屋に充満し、私も國都くにみやくんもその香りに包まれる。



「っ!」



 あっ……これはヤバい。


 理性が本能に塗り潰されていくのが分かる。

 ゾクッと体が震え、身体の奥が熱くなる。

 心臓の鼓動がうるさい。

 神経がむき出しになったかのように感覚が研ぎ澄まされて、意識が飛びそう。


 そして何より、國都くにみやくんが美味しそう・・・・・に見えて仕方がない。



「ふふふ、どうですか勇者様。 この香りは、人間も魔族も関係なく本能を呼び起こす・・・・・・・・魔法の薬! 難点は、わたくしにも効果抜群という……くっ、ふぅぅっ……♡」



 さぁ勇者様!

 わたくし自身の身も犠牲にした自爆覚悟の渾身の魔法!

 酒池肉林の宴と参りましょう!



「ちょっ、魔王様大丈夫ですか!? ロザリーさんも! 変な汗かいてますし、体調が悪いんじゃ……」


「全然効いてない!?」



 そんな……エスフォリーナ様でさえ瞬時に【ピ——】させる特製の薬なのに……。


 まさか———この人ずっと本能のままに生きているってこと!?



「ロザリーさん! 魔王様が苦しそうです!」


「大丈夫ですわ……この薬は害がありませんもの。それよりも、わたくしの蔦が———」



 ブチブチブチッ!!



「フシュ——…………」



 蔦の猿轡を噛み千切り、腕の拘束を引きちぎった私は、ゆらりとベッドの上に立ち上がる。すでに私の意識は朦朧としていて、記憶が曖昧だ。


 ヴァンパイアクイーンの能力を全解放した私がどんな姿だったかも、それを見た國都くにみやくんとロザリーがどんな顔をしていたかも、もちろん記憶にない。


 ただ、目の前の快楽を欲して、私は本能のままに行動していた。



「あら、思ったより効き過ぎ———みぎゃぁぁぁぁぁっ!!」


「ロザリーさぁぁぁぁんっ!!」



 牙を剥き出しにした私は、ロザリーの首筋に噛み付き吸い上げる。うーん、野菜ジュースの味。全然足りない……私の渇きを満たしてくれない……。


 ビクビクと身体を震わせ、なぜか真っ赤になってハァハァしてるロザリーの首筋に舌を這わせながら、ふと目の前の國都くにみやくんに視線が映る。


 とても美味しそうな……



「んっ……はっ、國都くにみやくん……」


「お、落ち着いてください魔王様!」


「だめなの……あなたのが欲しくて仕方がないのぉっ」


「その言い方は誤解を生みますよ!?」


「お願い……ちょっとだけ、先っちょだけでいいからぁっ」


「それはこっちの台詞———じゃなくて。正気に戻ってください!」


「んくっ……もうダメっ……全部私に任せればいいからっ、ね? いただきます———」


「ちょっ、待っ……アッ———————!」

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