香水とかつけてみようかしら……

 再びグリムガルの元へと集まったメイド達は、彼氏くんとマリーとの間で起こった出来事を報告し、神妙な表情を浮かべていた、



「という訳で、マリーは失敗しました」


「そうか……マリーが逝ったか……」


「マリー生きてるよー」


「えぇ、やはり異世界の勇者は一筋縄では行かないようですね」


「あれ? ねぇ、聞こえてる?」


「しかし、マリーは我々メイド衆の中でも最弱」

「次こそは勇者の本性を暴いて見せますわ」

「えぇ、マリーの仇を取って見せます!」


「ぇうっ、皆ひどいよぉ……グスッ……」


「あぁぁぁごめんねマリー! ちゃんと声聞こえてるから安心して!」


「グリムガル様の戯言に付き合ってあげてただけだから! ね? 機嫌なおして?」


「もう少し付き合ってあげたら、グリムガル様も満足するから、ね?」


「お前ら~! 全部聞こえてるぞ!」



 グリムガルの怒号も何処吹く風、マリーを慰める者や次の作戦を考える者しかこの場にはいなかった。



「ではご主人様、次は私にお任せください」


「ロザリーか、何か作戦があるんだろうな?」


「えぇ、もちろんです。私の魔法を使えば簡単ですわ」


「ふむ……では行くがよい。次こそ奴の本性を暴くのだ!」


「畏まりました、ご主人様」



 優雅に一礼したロザリーは、艶やかなピンクの髪を靡かせ、龍斐りゅうひの元へと向かったのだった。



        ♢♢♢♢



國都くにみやくん……國都くにみやくん?」


「んっ……エスフォリーナ様……?」


「良かった、目が覚めた……気分はどう? あなた、逆上せて倒れたのよ」


「そうだったんですね……途中から記憶がなくて……なんだか柔らかいものに包まれて幸せだった気がしたんですが……」


「そ、それは忘れていいから……まだ治ってないのなら無理しないで。ほら、まだ寝てていいから」



 私が彼を抱き寄せたことは、都合よく忘れている様子。下手に触れず、そっとしておこう……。


 膝の上にある彼の頭を撫でてあげると、私を見上げる彼の目は少し驚いたように見開かれた。



「もしかして……俺って今膝枕されてます?」



 國都くにみやくんの言う通り、私は今彼に膝枕をしている。

 なんだかうなされてたし、やってみたいと思っただけで……別に他意はないわよ?


 膝に乗せたら安心したような表情になるし……ちょっと可愛かった……。

 って、違う違う。


 國都くにみやくんが倒れたのは、私の責任もちょっとだけあるし……これはそのお詫びよ、お詫び!



「えぇ、そうよ。男ってこういうの好きでしょ? 心の広い私に感謝しなさいよね」



 ふふふ……こう言っておけば、國都くにみやくんは『ありがとうございます!』なんて言って私に媚びてくるのよ。


 本当に単純で扱いやすいわ。

 ほら、咽び泣きながら感謝を———



「ありがとうございます……少し、甘えますね……」


「……あれ?」


「ス——……ス——……」



 静かにそういった國都くにみやくんは、私の太腿の上で寝返りを打つようにゴロンと身体の向きを変える。


 いつもだったら、うるさいぐらい元気に返事するのに……そんなに体調悪かったのかしら。それとも……そもそも無理して元気よさそうにしてた?



「ス——……ス~~~~」



 それだったら、むしろ私が気を遣わせたのかしら。

 すぐに寝ちゃうぐらいだし……少なくとも疲れはあったようね。



「ス——……スン……スン……フ——……」



 ……ところで、膝枕って普通うつ伏せ・・・・になるものだっけ? 息できなくない?


 國都くにみやくんの息が当たって擽ったい、というか……



「ス——、ハ~~……ス——、ハ~~……」


「嗅いでるんじゃないないわよ!」


「ンぐぇっ!?」



 私の太腿に顔を埋めていた國都くにみやくんを、ちゃぶ台返しのようにひっくり返す。



「あんたねぇ、私が許した途端踏み込み過ぎじゃないかしら!?」


「こ、これは仕方がないんです! エスフォリーナ様のむっちりすべすべの太腿が俺の顔をふわっと受け止めてくれて、鼻腔を擽るお風呂上り特有の石鹸の香りの奥にちょっと汗ばんだエスフォリーナ様自身の香りが———」


「いやぁぁぁっ! 変態! レビューしないでよバカ!」


「すみません! でも、エスフォリーナ様の匂いがそれぐらい好きなんですっ!」


「えっ、いや、キモい」


「真顔で言わないでください、傷つきます」


「あっ、ご、ごめんね?」


「特別に許してあげますよ」


「ありがとう……って、なんで私が許してもらう側になってるのよ!」



 何なのよ、匂いが好きって……。

 変態じゃないそんなの、ケダモノ?

 國都くにみやくん、ケダモノになる気?

 きっとそうよ、國都くにみやくんは私の匂いを求めて城の中を彷徨い歩くんだわ……!



「でもエスフォリーナ様、『匂いが好き』って言うのは遺伝子レベルで相性がいいってことなんですよ?」


「遺伝子レベルってそんな———」


「俺はエスフォリーナ様の匂いが好きですから、きっと相性がいいと思うんです! エスフォリーナ様はどうですか? 俺の匂いは好きですか!?」


「好きかどうかなんて分からな———」


「俺の匂いも確かめてください!」


「いやっ、近っ……///」


「さぁさぁ、遠慮せずにどうぞ!」


「っ~~! 正面からじゃなくてせめて後ろからにさせて!」



 ……また押し切られちゃった。

 國都くにみやくん、なんでこういう時には強引なのよ……。これじゃ、私もちょっと気になってたみたいになっちゃうじゃない。



(あっ、背中大きい……)



 男の人のうなじを見る機会なんて無かったけど、お風呂上りって男の人も色っぽいというかなんというか……


 ハッ……!

 違う違う!

 別に私が望んだわけじゃないし、ちょっと確かめて終わりよ!



「じゃぁ……いくわよ……」



 國都くにみやくんの背中に顔を近づけ、息を吸い込む———



 ス——……ハァ……

 ス~~~……ハ——……


(あれ……?)


 なんでだろう、止まらない……。

 ドキドキするんじゃなくて落ち着くというか、ずっとこうしていたいというか……安心してる自分がいる。



「———様……」



 國都くにみやくんが言ってた『遺伝子レベルの相性』って、こういうこと? もしかして、本当に私と彼は相性が良かったってこと?



「エス……ナ様……」



 そんなこと……って否定したいけど、そんな気も起きない不思議。

 なんか負けた気分……でも、心地良い———



「フォリア?」


「……なによ、愛称で呼ばないでって言ってるでしょ」


「だってずっと離してくれないんですもん」


「っ……~~~~っ!! べ、別にあんたの匂いが良かったからとかじゃなくてね!? 風呂上がりだったから分からなかっただけで———」



「そうですよね。好きな相手の匂いって、夢中になっちゃいますよね」


「えっ?」



 突然横から聞こえてきた声に、私と國都くにみやくんはそちらへと顔を向ける。

 そこには、さっきまでいなかったはずの、ピンク色の髪がトレードマークのメイドが一人———



「ろ、ロザリー……あなた、いつからそこに……?」


「エスフォリーナ様が彼を運んできた時からでしょうか」


「最初からじゃないのよ!」



 なんで今日のメイド達はことあるごとに私達に絡んでくるわけ!?

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