第4話 殺す意味、殺せる価値、殺す目的
「バドイいいね、最高」
嫌々行ったバドイだが…住めば都というべきだろうか、実際は最高の場所だった。
「もうここで一生終えたいや。農家にでもなろうかな」
「ダメですって。今はそこまで本気で追ってきてはないようですが、目立ったら国に殺されますよ」
「む…」
あの地獄から逃亡して1か月が経った。どうやら国は本気を出して俺たちを捜索してるわけではなさそう。おそらく、俺たちは彼らにとって脅威でもなんでもないんだろうな。
「あー、そう考えると腹立ってきた。どうにもならんけど…」
いくらマーガレットが魔法使いトップクラスの実力でも、チート能力を奪った男…えーっと…誰だっけ。まあそいつには勝てないと思うし。
「まあ、国の機嫌を損ねないうちは安堵か」
例えば国が行ったことの暴露とか、そういうのをしなければ積極的に狙ってくることはないと思う。まあ、国のことはもう忘れてのんびり暮らそう。
「それにしても、ここはめっちゃ住みやすいな」
さっきそこで釣った名前も知らない魚を塩焼きにして食べながらそう言った。漁業権?なにそれ、知らない。
「このアマサカ、かなりジューシーですね。噛みごたえも…なんですか?この白い虫みたいなの」
「それアニサキスの死骸じゃないか?ほら、寄生虫…」
「え」
この村、バドイでとれる魚は脂がのっていてかなり美味しい。これらの魚を食べるためだけに訪れる観光客も少なくないのだとか。
気温もちょうどいいし、最高の村だ。ただ、ちょっとひっかかるのが…
「タイトくん、元気にしてるかな」
そう、ちょうちょ愛好家仲間のタイトくんについてだ。ここ数週間、彼と全く会えていない。久しぶりにちょうちょについて話し合いたいのだが。
「それなら、明日にでもタイトくんのもとへ行きましょう。今日は我慢してくださいね」
「ちくしょう」
今日はまだ労働する必要があるみたいだ。
今は…だいたい正午くらいだろうか。
最近は毎日5時間くらいは労働させられている。助けてください、酷い環境で働かされています。
「ケァァ!」
鋭いトゲを頭に生やしたヒクイドリのような魔物、メガオルニスが迫ってきた!
「いちかばちか!ここだ!」
「ケァ!?」
「当たってる!?」
俺は剣でなんとかメガオルニスの頭突きを防ぎ切った!
動体視力も以前よりだいぶ戻ってきてはいるが、全盛期と比べるとまだゾウとアリくらい差がある。今のメガオルニスの攻撃を防げたのもたまたまだ。
「ケァ…」
メガオルニスは頭突きの威力こそ高いが、ある弱点がある。
それは、頭突きをした後しばらくの間、隙が生まれてしまうこと。
一撃必殺型なので、耐えられてしまうとメガオルニスはすぐさまピンチに陥ってしまうのだ。
「ごめん」
「ケァ!?」
俺は隙だらけなメガオルニスの目を潰し、視界を封じさせた。メガオルニスが動揺して冷静な判断ができていないうちに、俺は持っていた剣を奴の胸へと突き刺した。
「ケ…」
メガオルニスは攻撃力こそ高いものの打たれ弱い。彼はすぐに地面へと倒れ込み絶命した。——俺は、せめて彼が苦痛を伴わず死ねたことを祈った。
「ごめん」
これが、今の自分にできる最大限の謝罪だ。
かつては何も考えず気楽に魔物…いや、生き物を殺せていたが今はもうできなくなった。
「もうそろそろ真っ暗になると思いますし、今日はもう帰るとしましょうか」
これで今日は終わりか。全く気づかなかったが、確かにもう黄昏時だった。夜は寒いし暗いし怖いしとっとと帰ろう。しかし…
「なんで生き物殺してんだろ」
自分が生きるためだ。理由はある、理由はあるのだが…
「なんで殺してんだろ」
なぜか、その理由は自分にとって腑に落ちない。なぜだ。
俺はそんな疑問を抱きながら、マーガレットと宿へ歩いて帰った。
なぜだ。
自分が他者に危害を加える目的はなんだ、なんんだ。
「ふぁ、朝か」
気づいたら寝ていた。昨日風呂入ったっけ?記憶ないや。もしかしたら入ってないかも…
だが、そんなことはどうでもいい。
「タイトくん元気かな!!!!」
そう、今日は待ちに待った面会日……
この言い方だと俺が犯罪者であるかのように感じられてしまうな。まあ、確かにお尋ね者ではあるんだろうけど。
「そこまで楽しみだったとは……テレポーで送りますけど、私はしばらく用事があるので少し行くの遅れます」
「わかったわかった!がはははは!」
「どこかで違法薬物でも吸いました?」
怪訝な顔をしてそう聞かれたが、誤解だ。俺はやってない。まあともかく…
「じゃあやりますね…テレポート!」
俺は光の粒子に包まれたあと、すぐに景色が変わりジャングルへと転送された。
「よっしゃあ今日は……あれ?」
異変に気付いてしまった。なぜ、ここまで暗い雰囲気なのだ…?
前来たときからは考えられないほど通行人の数も少なくなっている。また、明るい表情をしている人はいない。まるで……この前までの俺のように絶望感で満たされているように感じる。
え、何が起きた?
「タイト…」
「あなた、もう諦めましょう。ね?」
「お前までそんなことを言うのか!?お前らがなんと言おうと俺は1人で行く!」
「無茶よ、もうどうにも…」
あまりの変わりように驚愕していた俺の目に映ったのは、男と女が言い争いをしている様子で…ん?
「タイト?」
言い慣れ、聞き慣れた名前だ。彼らはタイトと関係があるのか?
「あの、すみません。あなたたちってタイトくんとはどんな関係なんですか?」
「何って…!家族だよ家族!マザースパイダーの巣にあいつが引き摺り込まれて2日…マザースパイダーの習性からして、もう今日逃したらタイトは終わりだ…」
「——その話、詳しく聞かせてください」
どうやら、かなり厄介なことになっているようだ。
BAD ENDから始まる異世界再起物語 やまたのおろち @yamata55
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