第2話 ごめん……俺、失恋したかも(したんだよ)
床に座る俺を見下すように、瑠香は椅子に腰をかける。
「NTRなんて嫌いだ、好きにならない。一昨日までのアンタが言ってたんだよ」
「へー。よく覚えてるね」
「だから隠し事してるでしょ。私に」
ぐっ、と心臓が掴まれるような錯覚に襲われる。物理的でない、心理的で盲目的な掌握は、瑠香によるテレパシーによるものだろう。
その強制力は、相手にすべてを吐露させる権能と化す。心の内で隠しているすべてを引っ張り出されるのだ。
「……ぐっ!!」
内側から刺激される感覚が強く、秘匿していたものを吐きそうになる。
「ほらほら。隠してること全部吐け。出して楽になっちゃえ!」
なんか言い方がエロいなあ!!
その瞬間、俺が堰き止めていた心の弁が崩された。
『失恋がきっかけでNTR耐性がついたなんて言えるわけないだろうがよ!!!』
そう。俺はつい先日、同じ大学で付き合っていた彼女に振られたのだ。
妹に隠していた、心の独り言。それを今、辱められるように悟られたのだ。
テレパシーは相手の心を読むことができる。といっても、人は意外と心の内でも嘘を吐ける。自己洗脳ってやつだ。そう思い込めば、実はテレパシーでも悟られないのだ。
しかし瑠香には【強制吐露】というチート技がある。その気になれば俺が妹の部屋で何をしていたとか、その日は何を惣菜にしていたかも悟られてしまうのだ。
あれ、待てよ? これ女の子に使ったら週間自慰回数とかの正確なデータが得られるのか……すごいよおおおおおおほほおおおおおん!!
「黙れカス。それ以上喋ったら鉄拳な」
「はいごめんなさい」
しかし瑠香の表情は、妙にニヤツいているように見える。
「にしても失恋ねえ~。へぇ」
「なんだよぉ」
「そりゃあ妹のテレパシーでセクハラしまくってたらフラれるに決まってるじゃん。恋愛弱者! どーてー! ざあこ!」
マセガキ妹かあ。ご飯三杯いただきました。
普段キレ気味の瑠香だが、弱みを握る瞬間からマセガキ化するのだ。さっきから罵倒と脚でツンツンされてるけど、俺じゃなきゃ押し倒してるね!!
「アンタのメンタルほんっとキモイ。話し戻すけど、失恋したからなんでNTRが大丈夫になったの? まさかフラれる前からすでにネトラレて――」
「やめてくれぇ!! それだけはマジで言わないでください!! 俺は緑帽子じゃないんだ!! でも可能性として捨てきれないし、あいつ男友達多いんだよなあ!」
「なんか、ごめん……」
温もりが恋しいなあとか思ってたらつい思い出しちまうんだよ。
写真とか掘り返しちゃうし、ちょっとくらいなら使ってもいいかなー、って軽い気持ちで惣菜にすると虚無感がえぐいんだ。
「それとこれとNTR関係なくない?」
「こっからが本番だよ。自分の彼女じゃないし興奮しないし、じゃあいっそのこと他の男と交わってるの想像したら――」
その先のことは、想像にお任せする。とにかく虚しさと寂しさで興奮しちゃうんだよね!
NTRなんて嫌いだった。彼女がいる間は。
別れてボッチになった俺は惨めにも、元カノのその後で自家発電する生き物に成り果ててしまったということだ。
「やっぱり雑魚じゃん。史上最低な動機だし。さっさと前向けよ」
「いや、問題はそこじゃないんだよ。あのだな、実は――」
NTRでしか興奮できない体になっちまったんですよ。
「待って。理解が追い付かない」
「NTRでしか興奮できない体に」
「口と心で同じこと言うな! てか妹に性癖相談すんなよ!」
「だって聞いたのそっちじゃん。嘘ダメ秘匿セーフが俺の信条だし」
瑠香は爪を噛み、しくじった顔を見せる。悔しがる表情も可愛いね! 破顔ってやつも是非見たいな!
「兄貴って、心の中では強がりなくせして、嘘吐けないから馬鹿なんだよ」
「急な罵倒サンキューな」
それは妹なりの励ましだったと思う。
常に他人の本音が聞こえる状態はストレスなのだという。俺たち兄妹は一日に話す量に限度を設け、たまに学校での様子も聞いたりする。
そんな妹の前で隠しごと吐かされたうえに励まされたなんて、兄貴として失格だな……。
「てなわけで、瑠香を俺の友だちに寝取らせようと考えてたんだ!」
「やっぱ死ねや」
数多の性癖を網羅した俺がNTR耐性を獲得し、ついには妹をNTRせたい(未遂)!!!! 飛浄藍 @hironary
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