外道寄生粘液魔の罠、再び⁉ 女戦闘員に堕とされるフィンブル!(3/)

「さて――命令です。女戦闘員に堕ちなさい、蒼天冷姫フィンブル」


 そう彼女が言の葉が告げるのと同時に、どくん、と私の心臓が鳴る。


 どくん。

 心臓が鳴る度に、私の抵抗は消えていく。


 どくん。

 心臓が鳴る度に、私の意志が消えていく。


 どくん。

 心臓が鳴る度に、私じゃないものが芽生え始める。


 どくん、どくん、どくん――!


「……ふゥん? 案外しぶといものですねぇ? 随分と正義の心とやらが凄いと褒め称えるべきなのでしょうけれどぉ?」


「……っ、ぁ……! ……い、や……!」


「風前の灯火ってヤツですねぇ。いやはや、いやはや。なんと恐るべき鋼の意志! いえいえ、ここは氷の理性とでも申しましょうかぁ? 最後の最後まで足搔きに足掻く。素晴らしい絶景ですねぇ……とはいえ、以前は舌なめずりをしてしまった所為で逆転されてしまった訳ですしぃ? 意志が駄目ならまずはその身体から堕としてみましょうかぁ? それではぁ……変身してください、ね?」


 サキュバスのリリスであるけれども、リリスではない彼女がそういうのと同時に――私の身体は勝手に蒼天冷姫フィンブルに変身してしまう。


 本来であれば、敵を前にして蒼天冷姫フィンブルに変身するのは何ら問題はない筈なのに、武器である錫杖が顕現しない。


 それだけでもおかしいのに身動きという身動きが取れず、私は蒼天冷姫フィンブルとしての自分に囚われる。


「……お願いっ……動いて、動いてよっ……!」


 本能という本能が警鐘を鳴らすと同時に……再びフィンブルという名前の敵の命令しか聞けなくなってしまった操り人形と化してしまった私の背筋にゾクリとした感覚が走る。


「……ぁ、……んんっ……」


 その感覚を前に、必死になって結んでいた唇から吐息が漏れ出てしまう。


 しかし、それは決して鳥肌や悪寒といった類のものではなく、もっと物理的なもの。


 自分を害する敵を前にして、戦闘員にさせられないように張りつめていた理性を一瞬だけ、本当に一瞬だけ、甘く蕩けさせるような痺れにも似た感覚が身体の隅々を全速力で駆けていく。


 一体全体何が起こっているのだろうか……そう思い、自分の姿に視線を向けると私の身体に黒いスライムが、今までに戦ってきた女戦闘員のスーツを思わせるような色合いの粘液が気付かぬ内に貼りついていた。


 和風を思わせる可憐な白と青を基調とした蒼天冷姫フィンブルのドレスの至る所に、黒い粘液が染みのようにへばりつき、不気味に蠢いては服越しから、生肌から直に私の女体に甘露な感覚を送り込む。


「ふふっ……どうですかぁ? とはいえ、それだけじゃないんですよぉ、それぇ……!」 


 戦闘員になってしまったリリスがそういうのと同時に、全身に貼りついたスライム達が一斉に動き始める。


 まるでなめくじが移動するかのように、黒色の粘液は私の全身という全身を移動し……いや、増殖する。


 糸を引くほどに粘り気のある黒の粘液が、じわりじわりと私の全身を包むように、黒で私の女体を塗り潰す。


 白と青で彩られていた筈の聖なる装束が、まるで石油に浸される海鳥の羽のように、粘り気のある闇色にへと、ゆっくりと、確実に、じわじわと染まっていく。


「……っぁ……だめ、これ……ていこう……できない……ちからが、はいらない……」


 蒼天冷姫フィンブルとしての力が少しずつ消えていく。

 コスチュームにスライムが貼りついた箇所がどんどん変質し、白色から黒色へ、ドレスの構造が無理やりに作り変えられて、私の肌を真黒に染める。

  

 壮麗で華やかなでふんわりとした蒼天冷姫フィンブルの戦闘装束から一転し、私の全身のボディラインを強調するかのようにラバー質のスライムスーツが、私の肌にぴっちりと貼りつく。


 もうフィンブルとしてのコスチュームは完全に変質し、消失してしまった。

 そこにいるのは何の力も持たない一般人ですらない、1人の女戦闘員であった。


「……いや……いやっ……いやぁ……!」


「ふふっ……よくお似合いですよぉ、フィンブル様ぁ? それが貴女の新しいコスチューム! 題して【スレイブスライムスーツ】! 身も心も私のモノになったという証明! 私に絶対の服従を誓う女戦闘員の正装ですともぉ……!」


 その恰好は、まるでではなく、本当に女戦闘員そのもの。

 普段の透き通るように美しく、光のように柔らかくも綺麗であった蒼天冷姫フィンブルのコスチュームが、まるでゴムのように、てかりてかりと艶めかしく黒光りし、私の全身から妖しい輝きを放ち、妖艶で背徳的な気配で満たす。


 頭部を除く全身が、私が魔法少女として鍛えた身体が、両足の指先さえも黒色のタイツに覆われたかのように覆い、くびれたウェストや胸の形を隠しようがないほどにむき出しにへとさせる。


 そして、全身が黒色に染まった事で腹部に光る淫紋と、唇を彩る青い口紅が更に妖しく光るが……フィンブルとしての力が完全に消滅してしまった今、淫紋は更に赤く点滅し心臓が鳴る度に全身に淫熱を送り込み、口紅は本来の色に戻っては抵抗する為の魔力を快感にへと作り変え、溢れ出んばかりの淫らさが私の表情を蕩けさせる。


「……っ……ぁ……はぁっ……」


 全身を襲う快楽に理性という理性さえも塗り潰され、今の私の姿を一般人が見てしまえば、人類を守る正義の味方ではなく、人類の敵である女戦闘員としてでしか目に映らないだろう。


「……離れて……このっ……」


 身体中を隙間なく覆うラバー状の被膜を物理的に引きはがそうと手で掴むが一向に離れない。

 それどころか、この女戦闘員スーツには伸縮性が全くない所為か身体を少し身じろぐだけで全身が引っ張られるような感覚さえ覚える。


 腕を動かしただけで、上半身に快感が走る。

 脚を動かしただけで、下半身に快感が襲う。

 心臓が動いただけで、全身が気持ち良くなってしまう。


 汗の一滴さえも蒸発できないぐらいに閉じ込められてしまった私の全身は、まるで自分の身体ではなくなってしまったかのように不自由になってしまい、私の身体は意味もなく全身を締め付ける感覚を求めては勝手に腰をくねらせてしまっている。


「気持ちいいでしょう? 蒼天冷姫フィンブル……いや! 今の貴女にはその名前は余りにも相応しくない! 今の貴女は女戦闘員フィンブル! いやいや! それすらも余りにも間違い過ぎている! 今の貴女こそ女戦闘員! 名前のない女戦闘員! !」


「……っ……違うっ……!」


「いいえ! 違いませんともぉ! この変身形態は貴女が勝つための! 戦う為のモノではなくぅ! 貴女が負ける為の! 貴女に負けを教える為の! 敗北専用の戦闘形態! そして、私の新しい魔の器!」

  

「……くっ、少し分かってきました……貴女、同じ原理でリリスの身体を乗っ取りましたねっ……⁉」


「ん? ん、ん? ――んんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんん! えぇ! 心からの! うん!!!」


「……この外道っぷり、やはり貴女でしたかっ……! しかし、どうしてっ……⁉ あの時、確かに殺した筈ですよっ……⁉」


「えぇ、えぇ。死にましたぁ。とはいえ、あれは私は擁する群体生命体の1つ……この世界風に言うなればサブアカウントでも申しましょうかぁ? という訳でお久しぶりですねぇ。1週間ぶりですかねぇ? 以前はヨウチエンジ20人を人質にしておりましたがぁ……今回の人質は規模が違う! 桁が違う! 格が違う!」


 自分の記憶が正しければ、アレは1週間前に戦ったスライムそのもの!

 

 しかし、殺した!

 しかし、生きている!


 以前の戦いの際に、あの底意地の悪い魔族は巨大な植物を根城に、否、寄生していた!


 であるのなら、であるとするのなら――⁉


「……まさか……今までに私が倒した女戦闘員は……まさかっ……!」


「そのまさかぁ! 全員が全員! この東京の女住民の皆々様はぁ! この私が寄生済みぃ! 身もぉ! 心もぉ! 何もかもぉ! 全て私の身体で覆ってはぁ! 内側から私の因子を送り込みぃ! 従順な奴隷にへと仕立て上げぇ! 精神の奥深くに根付きぃ! 永遠に私だけの玩具となりましたぁ! 100以上の人質! そして貴女の能力を完全に完封できる魔族の身体! そして何よりもぉ! 貴女自身が人質です! 我ながら! パーフェクトゲーム! 自分の有能さに恐怖さえ感じてしまいますね!」


「……このっ……外道っ……!」


「あぁ、ご安心なさってくださいな。えぇ、えぇ、ご安心くださいませ。無論! 心配せずとも貴女も私のモノになりますのでねぇ!」


「……誰がっ……おまえのモノなんかにっ……! 私は絶対に皆を救って……!」


「無理だと思いますがねぇ? と言いますのも、私、ただの何処にもいるスライム……即ち。1週間前に殺された私もまた本体であり、本体ではない。先ほど貴女が凍らせた女戦闘員の皆々様も私であり、私ではない。まぁ、何です? ネタバレするのであれば、絶対に勝てません。残念でした。ざ、ま、あ」


「……そんなの、まだ決まってないっ……!」


「そもそも、そんな恰好で勝てるとは思いませんけどねぇ? 良い機会です。職場体験もいいですが、先ずは先輩の凄さを知るべきでしょうしねぇ」


 そうヤツが言うと同時に指音が地下水路に鳴り響く。

 すると同時に1人の女戦闘員がムチのような武器を有しては私の元にへと襲い掛かってきた。


(……卑怯ですっ……! 武器がない状態で、こんな状態で戦わされるだなんて……!)


 私は仕方なく徒手空拳で戦闘態勢に取るものの、それだけで全身に快楽が走り、戦う為の力が勝手に削がれていく。


(……駄目……集中できない……フィンブルなのに、フィンブルとしての力が出ない……それにこの出力の弱さ、……⁉)


 当然ながら、戦いになるはずがなかった。

 私の何十倍も早く動く敵を捉えられる訳もなく、私の何百倍も強い敵に勝てる訳もなく、私はフィンブルでありながら、ただの女戦闘員1人に為す術もなく一方的にやられていく。


 ムチによる単純な打ち付け。

 単純明快な蹴る殴ると言った暴力。

 

 そんなもので、私は負けてしまった。


(……相手は弱いのに……私、それよりも弱くさせられてる……こんなの勝てる訳ない……)


 女戦闘員が操るムチが私の腰に向かって伸び、両手共々私の身体を縛りつける。

 無論、普段であれば簡単に解けるような拘束すらも解ける訳がなく、女戦闘員は文字通り舌なめずりをしながら私にへと近づき、私の頬を手を添えては、敗者である私の唇を一方的に貪った。


「……んっ……んんっ……んぅ……」


 敗者として与えられるキスは、まるで頑張ったと言わんばかりの優しいキス。

 敵相手ではなく、同格相手とすらでもなく、ただの格下相手に愛おしくするような屈辱のキス。


「ふ、ふふ、ふふふ……! お分かりですかぁ? もう貴女は何も出来ません。何にも勝てません。だって今の貴女はただの女戦闘員! 正義の味方ではなく、悪の味方! いえ、味方は言い過ぎですか。使えない味方は敵よりも厄介ですしね。えぇ、貴女は正義の味方だったという事実しか取り柄が無い無能です」


 女戦闘員が私から離れる。

 涎の糸が私と女戦闘員を結び、今の構図はまるで先輩戦闘員に可愛がられる後輩戦闘員でしかない。


 違うと声を大にして言いたいのに、この格好がそれを許さない――だけど。


「……違う……! 私は蒼天冷姫フィンブル……! どんな姿になっても、どんなに弱くさせられても、私は絶対に貴女を倒す……!」


「……ここまで来ると尋常ならざる意志としか言いようがありませんねぇ。身体は堕ちた。絶望も味わった。敗北も味わった。しかし、その意志だけはどうやっても陥落しないと来れば……興醒めではありますが、もう無理やりに堕として差し上げますか」


 そう言うと、ヤツは余裕綽々と言わんばかりに私に近づいて、慈しむような手付きで私の首輪に触れる。


「命令です。諦めなさい、蒼天冷姫フィンブル――」























「――命令だ! 蒼天冷姫フィンブル! 堕天隷姫エクリプス・フィンブルになれ!」


 誰かがそう命じたと同時に、無理やりに諦めさせられていた私の身体に闇が集う。


 そして、女戦闘員としての衣装を無理矢理に剥がし、無理やりに魔王としての衣装を身にまとわせる。


「なっ⁉ だ、誰ですかぁ⁉ 折角いい所だったのに……⁉」


「……全く。ついに見つけたと思ったら何をやっているんだい、姉さん……いや、この三下」


 それは灼熱。

 怒りを思わせるような炎。

 限界がある冷気と違い、限界がない炎。


 炎が天に向かって立ち昇るがごとき、燃え広がる怒り!

 

 黒い軍服ワンピースを着こなし、幾多もの灼熱光線を噴出させる絡繰にして近代兵器を有した飛行兵にして、目の前にいる氷を司る飛行兵の真逆の存在にして、片割れの女淫魔!


「――僕の名はリリム。炎風右翼淫魔将軍リリム。楽に死ねると思うなよ、焼死体」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

はぁ⁉ 正義の魔法少女である私が『敵に負けてえっちな事されて悪堕ちする』だなんて絶対に夢見てませんがっ⁉ 🔰ドロミーズ☆魚住 @doromi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ