外道寄生粘液魔の罠、再び⁉ 女戦闘員に堕とされるフィンブル!(2/)

(――当地区に緊急警報が発令されました……って、人工音声がいつも通りに鳴ればいいのに。どうやら、今回の敵はどうにも慎重派らしいですね……)


 何度も何度も聞いてきたそんな人工音声が鳴る前よりも早くに私は、魔王軍の襲撃を予感した私は授業の間だと言うのも重々承知ではあるのだけれど、体調が悪くなったので保健室に行くと嘘を吐いて、教室の外に出ては瞬くするよりも早く蒼天冷姫フィンブルとして変身を済ませ、魔王軍の気配が感じた方角にへとエーテルを利用した超高速歩法で辿り着く。


 今までは警告が出てから、そのどたばたを利用して魔法少女に変身しては現場に行っていたので基本的に受けの姿勢でいた。


 けれども今回は偶々魔族の気配を察知できたので、警報が鳴るよりも先に魔族の場所にへと行けるので……今回は敵に不意を突けれそうではある。


(……ほぅ、下水道。いかにもと言わんばかりの隠れ家ですね)


 行きついた場所は都内の路地裏付近にあった下水道のマンホール。

 一見するとどこにでもあるようなマンホールではあるけれども、蓋をされて隠されていても分かるぐらいに濃厚な魔の気配が立ち込めており、中は一種の魔窟と化していそうな異様な雰囲気を醸し出している。


(……なるほど。最近、魔王軍の侵攻がないと思っていたら秘密裏にこんな事をしていたという訳ですか……)

 

 もしかしたら、この近辺の人々は行方不明になっているかもしれない……そう思うだけでも歯痒い気持ちにもなるし、休みの日を返上してでも周囲の様子をパトロールするべきだったと悔やみつつ、私は現実世界では絶対にやってはいけないマンホールの蓋を取るという行為をやって、中に広がる下水道の空間にへと足を踏み入れる。


(……暗い、狭い、臭い。直撃しただけで多大な被害を出してしまう【魔槍・氷柱】はここでは絶対に使っては駄目ですね。下手をすれば辺り一面に被害が出過ぎてしまう……)


 昨日、メズキメとの稽古で新しい必殺技【魔剣・六花】を習得したけれども、あの技はメズキメさえも避け切れないほどの速度を有するのと同時に、放つ場所を選ばないという強みがある。


 とはいえ、広大とは言い難い下水道内では自分の身長以上はある錫杖をぶんぶん振り回す事は避けたい。


(こういう下水道って絶対に壊しちゃいけない機械類がありますからね。下手してそれを壊してしまえば、人々の生活もまた壊してしまう……それだけは避けないと)


 私は魔王軍に対抗できる力を有していて、それを人々の為に振るおうとは意識しているけれども、その力の使い方を誤れば、魔王軍を滅する為に放たれた攻撃は守るべき人間の生活をめちゃくちゃにしてしまうのは想像に難くない。


 とはいえ、力を抑え続けていた所為で守る対象を守れなかったとなれば、それこそ自業自得。これは余りにも難しい問題だなと頭を悩ませつつ――背後から私を見る視線の主を凍らせるべく、錫杖の音を鳴らす。


 しゃらん、という涼しい音がいつもよりも狭い場所で反響した所為でいつも以上に響いて聞こえるけれども、相手の周辺の空間を小規模で凍らせるという現象は確かに起こっていた。


「……甘いですね。敵の拠点に乗り込んだというのに、油断という愚行をしているとでも?」


 既に凍らせた相手にそう告げながら背後から現れた存在にへと視線を向けると……その対象は余り目にした事がない珍しい存在だったので、私は驚きの余り思わず声を出してしまっていた。


「……女性? 女性の、戦闘員たち?」


 視線の先にいたのは私が凍らせた戦闘員10人ほどの規模だったが、女性の戦闘員を凍らせたのはこの3ヵ月の戦いの中では皆無とは言い切れなかったけれど、それでもやはり男性と比べると全体的な数は少なかったと思う。


 男尊女卑という訳ではないけれども、基本的には男性戦闘員の方が筋肉量だとか体格だとかそういう性別的な優位性があるおかげで基本的に戦闘の前線に立つ事が多く、女性の戦闘員だなんて存在は居たら珍しいとだけしか思えなかった。


 そんな珍しい存在が、目の前に10人もいる。

 手足の指先と首元までを全身をラバー状の材質のようなスーツで覆い、目元全体を広く覆う機械のような、まるで仮面か何かのようなモノを装着させられている彼女らは、全身を強調させるような黒く光る衣装にまるで囚われているようにも思えてならない。


「……やはり、全員女性。おかしいですね、普通であれば男性が混じっている筈ですが……」


 今朝の学校で学友から聞かされた話といい、この目の前で起こったこの現象といい、私は言葉では言い表せないような違和感を感じていたと思う。

 

 違和感と仮に呼称しているコレは……俗に言うところの虫の知らせ、あるいは心のざわめきとでも言うべきなのだろうか。


 本当に、このままこの下水道の奥に行くべきなのか……そう、思わざるを得ない程の胸騒ぎと嫌な予感を覚えさせられて――。


「助けてぇ! 誰かぁ! 助けてぇ!」


「――っ⁉」


 反射的に私は何も考えないままに、女性の声がする方向へ、下水道の奥深くに向かおうとして……罠なのではないかという懸念に思い至る、が。


(もし罠じゃなくて本当に助けを求めている人だったら……⁉)


 罠の可能性は高いけれども、それでも罠じゃない可能性もまたある。

 本当に助けを求めている人がいるというのに、それを見ない振りをするだなんて、そんなのは人々の生活を守る魔法少女である蒼天冷姫フィンブルとして許されざる行いであった。


(……っ……! 例え罠だとしても、どっちにしろ正面突破するだけの話ですっ……!)


 狭い下水道の路を。

 暗い下水道の路を。

 深い下水道の路を。

 

 もう先ほど入ったマンホールには戻れないのではないのかと思うほどに入り組んで、迷路を思わせるような常人が立ち入ってはならないような東京都内地下の路を単身で踏破しつつ、行く手を阻む女戦闘員たちの群れを氷漬けにして無力化させる。


「どきなさい! この戦闘員のように凍らされたくないのであればさっさと退散してください!」


「…………」


「だんまり、ですかっ……!」


(何で……本当に何で男の戦闘員がいないんですか……⁉ それにこいつら、全然人の言葉を喋らないっ……! 自分の仲間が一方的に、目の前で凍らされているんですよ⁉ なのにどうして一切の動揺もなく襲い掛かってくるんですかっ……⁉ まるで機械か何かを相手にしているような気持ち悪さですねっ……!)


 当然ながら地上から射し込む日光なんてものはなく、便りになる灯りは見ているだけで目が痛くなってしまいそうな人工灯であり、人間が作った空間だというのにも関わらず私はまるでどこか別の異世界にでも迷いこんだような錯覚さえ覚えてしまう。


(――っ! 魔獣……⁉ こんな狭い場所に……⁉)


 水路の路を塞ぐように現れたのはこんな場所にいる訳がない狼型の魔獣。

 以前と戦った相手と全く瓜二つだったのが少々気になったが……今はそんな事に構っている暇なんかない!


「邪魔ですっ! 【魔剣・六花】!」


 あのメズキメすらも捉えては傷を与えられる魔剣を前に魔獣が生きていられる訳もなく、文字通りに瞬殺してみせた私は再び足を動かす。


「助けてぇ! 誰かぁ! 本当に助けてぇ! 怖い! 怖いよぉ!」


(……っ! さっきからずっとこんな調子で助けを求めて……っ! ……! こんなの十中八九罠以外の何物ですらありません……けれどっ……! だけどっ……!)


 流石にここまで来ると自分の中でも戸惑いが生まれ始める。

 本当かもしれないから助けるべきなのか、絶対に嘘だから助けないべきなのか。

 

 助けを求める声があるというのに、罠であるに違いないと思い込むだなんて……そんな事……!


(……出来る訳が、ないっ……!)


 歯を食いしばりながら、私は止められない足を使って声がする方向にへと只々向かう事だけしか出来なくて、暗闇から奇襲してくる女戦闘員を捌き切り、水路から現れる動物型の魔獣を倒し、只々奥へと進んでいく、


(もうこれで……女戦闘員は100人は氷漬けにしましたよっ……⁉ 魔獣も10匹近くは倒しましたが……もう、駄目っ……! 限界ですっ……! このままじゃ、体内のエーテルの方が先に底につく……! そんな事になったら変身が……!)


 一体いつまでこれが続くのだろうか。

 そう思うだけでも精神的な不安とエーテルの残量が無くなってしまうという漠然とした不安が自分の意識をどんどん蝕んでいく。

 

 場所も慣れない場所で、土地勘なんてものが通用しない地下で、更にはそんな迷路を何も考えずに奥深くにまで来てしまったという事を後悔しつつも、下水道はあの入口から奥に行けば行くほど、段々と人工の灯りの数は少なくなり、光に照らされなくなった私の身体は段々と闇色が混じっていく。


(……いえ、大丈夫です。いざとなれば、なりたくはありませんが堕天隷姫エクリプス・フィンブルになれます。あの姿であれば勝手にエーテルは回復されます……)


 そんな思想に思い至った自分を振り払うべく、頭を左右に振り、何かあれば闇の力に頼ってしまおうとしていた自分を殴りたくなってしまう気分に駆られてしまう。


 駄目だ。

 私は蒼天冷姫フィンブル。

 あんな闇の力に縋るだなんて、それこそあってはならない、けれどっ……!


(……助けを待つ人を確実に救う為……そう、そうです……これは必要な事なんです……本当は嫌だけど……闇の力を使わないと……このままじゃ絶対に人も自分も救えないっ……!)


 無力な自分相手に思わず歯ぎしりしつつも、私は闇の姿になるべく、動かし続けてきた足を止めて、一旦立ち止まり、もう慣れてしまった闇の力に委ねようとして――。


 











「命令です。















 変身をしようとした闇に吞まれようとしたその瞬間。

 そんな声が響いたと同時に私の全身にまとわりつこうとした闇の力が霧散した。

 

 ……いや、自分が勝手に、止めようとは思っていないのに、闇の姿に堕ちる変身を止めたのだ。


「エクリプスの首冠。本ッ当に素敵な拷問道具ですよねぇ? 首輪をされた奴隷はだなんて……製造者はイイ趣味していると褒めざるを得ませんねぇ……! そうは思いませんか、フィンブル様ぁ……?」


「なっ……⁉」


 突然の事で意味が分からない。

 私はとっさに錫杖を構え直して、感じた魔の気配を反射的に氷漬けにしようとして――。








「命令です。変身を解除しなさい。そして、私の許可なしに勝手に変身してはいけません」








 ――そう命令されたの同時に首輪が紫色に光り、私の身体が隷属感で満たされて、その言葉を聞かないといけないと、思いたくもないのに思わされて……私は自分の意志に反して……言葉通りに変身を解除させられて、制服姿の瑠璃川吹雪としての自分を無防備な状態でさらけ出す。


「な、なんで……⁉」


 もう一度変身し直そうと決意して実行に移すものの、、私の意志に反して身体が変身という動作を一向にしてくれない。


 本当は変身したいのに、変身しては駄目という命令を遂行しないといけないから、身体が言う事を聞いてくれない。


「ふふっ……流石は伝説級の呪いのアイテムですねぇ……! 効果はバツグンだぁ……! とはいえ、先にあの黒い姿にさせられたら危なかったんですけどねぇ……? だって、女淫魔で一番偉い存在を、一介の女淫魔が命令して良い訳ありませんしねぇ……! ふふっ、正義にこだわったが為にこうして敵の手に堕ちるだなんて、本ッ当に惨めですねぇフィンブル様ぁ……!」


「……っ⁉ あ、貴女は――⁉」


 そこにいたのは、女戦闘員だった。

 今までに遭遇した女戦闘員が身にするような首元から手足の指まで覆うような黒色のテカテカと光り輝き、ぴっちりと全身の肌を吸い付き、女性のボディラインを強調させる戦闘員服を身につけた、先ほどと同じような女戦闘員。


 だがしかし、女戦闘員と言うには放つエーテルも、背中から生えている翼も、何もかも既存の特徴と違っている。


 そして、あの青い髪は……!


「リ、リリス……⁉ その衣装は一体……⁉ それにこの気配は以前倒したあのスライム……⁉」


「さて――命令です。女戦闘員に堕ちなさい、蒼天冷姫フィンブル」

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