おたく 〜 柔らかい眼差し 〜

戦後復興、高度経済成長、電子立国(幻想)、バブルの崩壊を経てなお国際競争力を維持し続ける日本のソフトパワー(マンガ・アニメ等)の中核に「おたく文化」があるといわれる。


「武士道」「恥の文化」「エコノミック・アニマル」「平和ボケ」「同調圧力」等々、さまざまな日本異質論が語られてきた一方で、正真正銘日本発の「おたく文化」が世代と国境を越えて驚くべき普遍性を持ちえた理由について考察しておくことも、21世紀を生きる日本人にとっての道標になるのではないか。


英語の一人称単数形 "I" (「大文字」の i ) と違って、日本語の一人称単数形はしばしば省略され、省略されても特に不便を感じない。英語の二人称 "you" (単数でも複数でも you ! ) に対して、日本語にも「あなた」「そなた」「こなた」「きさま」「おまえ」「おたく」(your home ???) 等々の語彙が存在する中で、何故「おたく」に代表される文化が普遍性を獲得したのか。


自分の興味の対象に対するあくなき知的探究に立脚しつつ、過剰な自己主張を避けて、同好の士の世界(観)に対する共感 (sympathy) と敬意 (respect) をもった「他者に対する柔らかい眼差し」を象徴するのが「おたく」という二人称なのかもしれない。そう考えると、SDGsが人類共通の目標になった21世紀初頭の世界において、多様性 (diversity) や包摂 (inclusion) を自然に体現しているのが「おたく文化」のような気がする。


少なくとも、「おたくが戦争する世界」を私は想像できない。


2021.9.1

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