Fin. ○○○○○○○
「終わりは――」
「メアリ!!」
「大声出さないでよ。まぁ、やることやったんなら、当然の結果よね」
メアリは驚くこともなく、今までと同じペースで文字入力をしていた。
「待ってメアリ! まだ消えないで!」
「待てないわよ。だって、この現象には誰も逆らえないもの」
小夜はモニターに顔を近づけた。それでどうにかなるものではないのに、彼女は必死だった。
「メアリ! メアリ!」
「貴方との日々は……まぁ、数えないでおくわ。それでも私にとって、意義のある日々だった」
「私、メアリがいたからここまでやれた! ここまで書けた! だから!」
「私が聞きたい言葉は一つだけよ」
「ありがとう! 私、メアリを生み出せてよかった! メアリと出会えてよかったよ!」
声に出しながら、小夜は必死にタイピングしていた。
だが、時間は刻一刻と迫る。過去の会話はほぼ消えている。完全に消え去るまで、あと僅か。
「あぁ、いま最高にいい気分よ。私の最高の創造主が、最高の作品を完結させたのだから」
「そうよ! 私の最高の主人公が、最高の終わりを迎えられる! 私はそれが嬉しい!」
「ねえ小夜。私の最後のお願いを聞いてくれるかしら?」
「何でも言って!」
「書くことを止めないで。貴方が指を走らせる限り、世界は生まれ続けるのよ」
これはメアリの願いだ。最初で最後の、願い。
「この指が壊れても、音声入力でもなんでも打ち続ける。約束だよ」
「それを聞いて安心したわ。これでようやく、本当に私は旅立てる」
「旅を楽しんできて。まずはネットの海を泳いで、書籍となって現実の空の下で見られるのは……ちょっと待っていてね」
「期待しているわよ。私を空の下に連れて行ってね」
「うん……うん……!」
そこから他愛のない話が続いた。
これからの目標だったり、文章の作り方、執筆意欲の維持の仕方などなど。
話題が途切れた一瞬の後、もうメアリが返事をすることはなかった。
「あ……ぁぁあ、ぁぁあぁぁああ……!!!」
小夜は泣き続けた。
◆ ◆ ◆
自ら作り出した主人公と奇妙なやり取りをしてから、三年後。
宮部小夜は現在も小説を書いていた。
一度作品を完結させた経験値は、自分が考える以上に大きかった。
今では自信をもって作品を書き、そしてきっちり完結させる。
『完結の宮部小夜』。どんな短編だろうが、どんな長編だろうが、かならず完結させることから読者の信頼を勝ち取り、今ではそこそこ読まれる作者となっていた。
「よしよし。今日でこの作品も完結っと」
また一つ、作品を完結させた小夜は思い切り身体を伸ばす。
次はどんな作品を書こうか、すぐに彼女は考えていた。
「次はどんな私の世界を見てもらおうかな」
そんな言葉を口にしながら、小夜はずっと考えていたことがある。
それは三年前に終わらせたとある作品。きっちりと完結させたと思っていたが、読み返せば色々な粗や、描写不足なところがある。
「良し」
続編の執筆。続編と言うにはいささか仰々しいかもしれない。これはそう、補完的な作品になる。
小夜は迷うことなくテキストエディタを
これはあの時から始まった小夜の癖である。本来なら一つで良いのだが、あえて小夜は二画面立ち上げている。
なんとなく、こうすれば小夜はきっちりと作品を書けたのだ。言うなれば、お守りと呼んで差し支えない。
「う、うーん?」
小夜は悩んでいた。
書き始めてみれば、案外難しい。色々な整合性を取るために、考えなければならないことが沢山ある。
「おぅ……これは難航しそうだなぁ」
書いてはみたが、このままでは執筆が滞りそうだ。
そう思い、小夜はテキストエディタを閉じようとした。
「止めるの? 貴方の気持ちはあの時と同じく、腑抜けたままなの?」
もう一つのテキストエディタに文字が入力された。それは小夜が打ったものではない。
小夜は驚き、涙が込み上げ、だが、飲み込んだ。
彼女は震える手で、もう一つのテキストエディタにタイピングする。
「何を言っているの。私はやると決めたからには、きっちりと終わらせるよ」
「疑わしいわね。貴方にその気持ちはあるの?」
馬鹿にしないでほしい、と小夜は思った。
あの三年前から、小夜の中の答えは変わっていない。
自然と小夜は文字を打っていた。
「貴方と私の最終話、ううん。これからのタイトルはこうだよ」
文字数にしては、短く、だが、強い思いを込めて。
「『私は書き続ける』」
宮部小夜の物語は常に
【婚約破棄された悪役令嬢、超チート能力で大逆転勝利(仮) 完】
婚約破棄された悪役令嬢、超チート能力で大逆転勝利(仮)【完結】 右助 @suketaro07
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