サイドビジネス
「おおい、なんかあったか」
「うーん。なんもないッスね」
林の中に残る雪を、懐中電灯の光がなめてゆく。
男たちは地元の解体業者であった。先日、熊の襲撃を受けて全住民が退避──そのまま廃村化が決まったという
徹底的に壊してくれて構わない。家具も家電も、勝手に処分してくれていい。
ただし……人形と時計が出たら、必ず報せろ。
それが、雇い主から出された条件だ。
だが男は、馬鹿正直に申し出るつもりなどなかった。そういったものは、彼らの行っているサイドビジネスの、かっこうのタネになるからだ。
要は──フリーマーケットアプリやオークションサイトでの、転売である。
アンティークや骨董品として値がつくならよし。加えて彼らは、状態の良くない、単に古くて汚いだけの商品にも高値をつけさせる、とっておきの方法を心得ていた。
どこの業界にもコレクターはいる。その中には、心霊スポットで拾った位牌だとか、孤独死の現場にあったぬいぐるみだとか、そうしたものを好きこのんで集めるような物好きすら存在するのだ。
別に、来歴が事実である必要はない。適当なデッチ上げだろうと、買いたいやつは喜んで買っていく。とはいえ……裏づけがあれば、より「ハク」がつくのは事実だ。
くわしくは知らないが、例の熊さわぎの際、この屋敷跡では人が亡くなっているらしい。ハクづけのネタとしては充分だ。
「うおっ」
「どうした」
「や。ビビりましたよ。ボロボロですけど、人形ですね、これ」
「人形?」
ボロボロか。そりゃあいい。
男はほくそ笑んだ。「呪いの人形」とでも書いておけば、きっとよく売れる。
それは、屋敷の裏手の林にポツンと落ちていた。
どうやら陶器製らしいが、あまり状態はよくない。顔は半分以上が欠けてぽっかりと虚ろな穴をさらし、植毛された髪の毛もまだらに抜けている。腕も片方しかないし、下半身ときたら、丸ごと欠損していた。
人形の手は、懐中時計の部品らしきものをにぎりしめた形で固まっている。らしきもの、といったのは、そこにはほんの数個の歯車とネジが残っているだけで、ほとんど原型をとどめていなかったからだ。
「汚ねえな」
「ダメすかね」
「バカ。汚ねえからいいんだよ。まさに呪いの人形じゃねえか」
男はさっそく部下に命じて、人形を段ボールに移させた。ついでに、付近にもっとパーツが落ちていないかよく探させる。
(それにしても)
と、男は内心で首をかしげた。
他の家財道具はすべて、屋敷の敷地内にあったのに……どうしてこの人形だけ、こんな半端なところに落ちていたんだろう。まるで、どこかから
(まさかな)
男は笑い、金目のものを探す作業に戻っていった。
人形をぞんざいに放りこんだ段ボール箱の中から、カチ……カチ……とかすかに歯車の音がしていたことには、最後まで気づくことはなく。
クス。
クスクス。
クスクスクスクス……。
【メイズさん対オノゴロ童子──終】
メイズさん対オノゴロ童子 小金井ゴル @KoganeiGol
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