第43話 一晩

この日はトキが作り出したこの部屋で眠りについた。相変わらずベッドを私に優先して使わせたトキはまた床に横になり眠っていた。


城から出てきて、色々なことがあった。

あんなに平和だった城は炎に包まれ、アリアとリキは私を庇いその後どうなったのかわからない。


アーキルも城で会ったのを最後に姿を見かけていない。


ユナ様や、ルキアだって。



ルキア…




どこなの?




指輪は相変わらず指から消えていない。

つまり彼は生きている。

それは分かっているのに、どうしても心配で堪らなかった。






私はそっと目を開けて薄らと明るい部屋の中で手を伸ばした。


大勢を敵に回した今、私は生きていけるのだろうか。


目の前にいる味方を、この手で守れるのだろうか。



そんな不安に包まれ、どうしても意識を失うことができなかった。


































次の日、ほぼ眠れない状態で目を覚ました私は目の下に隈をつくっていたらしい。


トキがギョッとしてこちらを見てきていたのですぐに分かった。



『ごめんね折角ベッド譲ってくれたのに、あんまり眠れなくて…』



「謝るなって。眠れないのは当たり前だよあんなことあったんだし」



『…怖いんだ、トキをもし守れなくてほんとに巻き込んだことによって、いなくなったらって考えたら』



「おいオレそんな弱く見える?自分の身くらい守れるわむしろアンタの方が危ないでしょうが」



『…そうじゃなくて、どんなに強くても、数には勝てない…トキがもし、もし死んでしまったらって考えたら耐えられなくて』



「安心しな、すぐに死んだりしないから」



そんなことを言うとトキは素早く荷物をまとめて立ち上がった。

窓からは光が差し込み私たちを照らす。


彼はそんな中で手を一振りさせると部屋の中を元のボロ小屋へと戻した。


部屋は当初のようにボロボロになりベッドも壊れている。

未だに慣れない魔法にいちいち驚きながら私とトキは見つめ合った。



「…さて、エスティマの街行くぞ」



『エスティマの街?』



「え、行ったことないとか言わないよな?」



『…ない』



「アンタどこで育った訳?」



彼にまだ言えない。

私が今までずっと小屋に閉じ込められていたなんて。


そして、私が女だなんて。


怪訝な顔をするトキに私は苦笑いして誤魔化した。



彼はため息をつきながらも私にしっかりと説明をしてくれる。そんな丁寧なところが好きだ。



「今日行くエスティマの街は一番栄えてる場所だよ。たくさんの店が並んで、海がある。その海には大きな船が何隻も出てる。そこから色んな国へ行けるんだ」



『わぁ、凄いんだね』



「けど人も多い。更にはあのクロウノジュールの本拠地もある。街の至る所にはアンタの顔が出回ってるはずだ、絶対バレるな」



エスティマ国。

ここは、あのアーキルが住む国だ。


大きな国でとても栄えているらしい。

大国とも呼ばれるほど大きく他の国も頭が上がらないのだとか。


そんなことを聞いて私は改めてアーキルに出会った奇跡を思い出していた。




『…気をつけるね』



「平然と過ごせ、警戒すればするほどバレやすくなるから」



彼の忠告を聞いて私は頷いた。

今私は国中の危険人物であり、大金だ。


私が見つかれば同行者のトキももれなく危ない。


絶対にバレてはいけない。









そうして私たちはそっと壊れそうなこの場所から出ていった。

























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ブルースターの記憶 朱音 @akane0626

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