真新しい靴がステップ
長月瓦礫
真新しい靴がステップ
ピカピカのスニーカーがリズムよく歩いている。
機嫌よくとんとんと歩いている。
よく聞くと、鼻歌を口ずさんでいる。
春の朝、さわやかな空気が流れる住宅街、ローファーだけがるんるんと歩いている。明日から新年度、新しい生活が始まる。
今日は新天地を探索すると決めた。
彼女の名前は有明海、明日から花の高校生。
透明なので、誰からも気づかれない。
なぜか足以外、姿が見えなくなった。
原因は自分でも分からない。
いつの間にか、こうなっていた。
こうなったまま、中学校を卒業した。
卒業写真は透明、空白ができたままだ。
高校の前に来て、校舎をぼんやりと眺める。
人はまばらだ。生徒の姿はほとんど見えない。
角から人が来ても気づけない。
有明は弾き飛ばされてしまった。
「うわっ……え、なんだ? なんかごめんなさい」
作業着の少年は頭を下げながら、有明を探す。
透明だから、角から来ても気づかないわけだ。
「あれ? ああ、そこにいたんだ。なるほど。
大丈夫? 急いでたもんで、見えなかったんだ」
二足のスニーカーをじっと見つめる。
きょろきょろと見回す。靴以外、見つからないからだ。
彼女が透明なことにすぐ気づいた。
「いや、本当に気づかなかっただけ! 走ってた俺が悪いんだ」
有明はすっと立ち上がり、ほこりをはらう。
見えないから事故はよくおこる。それには慣れた。
「それじゃ、また今度ね!」
彼は足早に去って行った。
今度か、どういうことだろう。
意味がよく分からないまま、そのまま商店街で買い物をして、帰宅した。
思っている以上にこの町は広いみたいだ。自分の知らない場所は楽しい。
自転車を買わないといけないかもしれない。
まあ、それはおいおい考えていこう。
今日は入学式、制服を着た自分の姿は鏡でも見えない。
自分の姿を見るのはもう諦めた。
残っているパーツはないから、問題ないはずだ。
朝食もそこそこに、昨日と同じ道をたどって高校へ行く。
同じ制服、彼ら彼女らも同じ高校生なのだろうか。
キラキラしていて、楽しそうだ。
ローファーしか見えない私と大違いだ。
「おはよう、昨日の靴の子だよね」
再び校門の前に立っていると、昨日の彼が立っていた。
真新しい靴がステップ 長月瓦礫 @debrisbottle00
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