「国に必要なもの」

卜部朔巳

良き王

A王国の王都は今日も安泰だ。

いつも通り、多くの声が飛び交っている。

「いらしゃい。安いよ安いよー!」

「この野菜、採れたてだぜー」

「しめて金貨10枚どうだ?落札〜」

その様子を城から眺めていた王は思わず笑みを溢した。

「貿易も順調。儂らの生活も潤ってきておるの〜」

横にいた側近も頷いて答えた。

「仰る通りでございます。お父上がその座を降り、貴方様に変わられてから、

 冷え切っていた国交を回復できたのが大きかったのでしょう。安くて新鮮な

 食べ物、良質な素材や工業製品、貴重な資源。私は貴方様を誇りに思ってお

 ります。」

それを聞いた王は更に上機嫌になった。

「国民も喜んでおるからな。王都に設置した意見箱の話を聞いた甲斐があったわい」


その夜、月に一度の祭りが開かれた。昼にみた賑わいとは比べ物にならない程の

大盛況だった。光輝く王都はまさに国の繁栄を象徴するものだろう。

踊り舞う少女達、王直属のオーケストラによる演奏、異国からきたマジシャン達。

王はそれらを見下ろし、拍手喝采で応えた。まさにこれこそ最高の国だ。


ドーン!

遠くから大きな音が聞こえた。

「花火の予定などあったか?」

「予定はないはずですが。。距離にして王都の外から打ち上げられたものかと。

 きっと王都の外にいる国民もこの花火で王を称えたいのです。」

「なるほど。ならば嬉しい限りだ。」


翌日、王はこんなことを言い出した。

「王都の外に出て昨日の花火のお礼を言いたい。」と。

側近達はこぞって反論した。

「王がわざわざすることではありませんよ。」

「そうです。お礼は部下にやらせておきます。」

「第一、王都の外は危険ですよ。」

あまりの圧力に王も承知するしかなかった。


その夜、王は寝室で考え事をしていた。

なぜあんなにも国民に信頼されている自分が外に出られないのだろう。

低俗な輩は少数なのだから護衛をつければ心配いらない。

「ならば神の俺が手を貸そう。」

不意に見上げるとそこには男がいた。

「何者だ!私の部屋に侵入するなど!」

すぐに兵士が駆けつけてきた。が、

「王様、侵入者はどこに?」

「何を言っておるここにおるであろう!!」

「?、ご冗談を・・」

そういうと兵士は倒れた。

「大丈夫、少し寝てもらっただけだ。」

自称神はそう答えた。王は半ば信じ難い話を聞くことにした。

「単純な話だ。俺があんたに化ける。であんたには旅人に化けてもらう。

 そうすれば、国の外に出られるってわけ。神みたいな案だろ?

 もちろん明日のパレードの前には迎えに行くから安心してくれ。」

王は少し考えたが、やがてその条件を呑んだ。


翌日の早朝、質素なベットで目を覚ました。王は勢いよくベットから飛び降りると

旅人の格好をして外へ出た。王都の外はどんなものか期待を膨らませて。


「王を滅ぼせ!悪政を許すな!」

「我々を見る気もない政治に終止符を!」

「革命万歳!革命万歳!」

王は悶然した。なぜ?儂は国民から慕われてるはずなのに・・・

そうか、花火のお礼を儂がしなかったからか。そうやって王は納得した。

「旅人さん、この国から出たほうがいいぜ。」

振り向くと大柄な男が立っていた。王は下手に出てその理由を尋ねた。

男はニヤリと笑いこう答えた。

「革命が起こるのさ。そう、まさに今日のパレードの最中にな。 

 パレードの終盤、王都の出入り口前まで来たところで襲撃さ。

 城から出てこない王がやっと出てくるチャンスなんだぜ。へへ。」

王はなぜか走り出していた。

周りには貿易によって売れなくなった作物、

王都開発のために過労死した人の屍、王の写真を燃やす国民達の姿。

王にとって地獄そのものであった。


拍手喝采の音が聞こえた。

王のため集まった王都の人々は笑顔で称えたり、感謝の言葉を述べたりした。

パレードは徐々に終わりを告げる。

王は周りにいる国民が全て嘘をついているように思えてならなかった。

あのとき見た花火は称賛ではなく、反逆を意味するもの。

側近達がそのことを知っていたかはもうどうでもよい。


王は国民のために動いたつもりなだけであった。

表面の綺麗な部分だけをみて満足していた。


ついにパレードは上界と下界を繋ぐ門に到着した。



「なぜ王に外の世界を見せたのですか?」

「その方が面白いし、王も納得できるだろう?」

「私達が殺されるのも時間の問題ですね。」

                         〜終〜
























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「国に必要なもの」 卜部朔巳 @urabesakumi

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